淡青色のゴールド

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書評『子どもの貧困 II-解決策を考える』社会問題の解決策を順序立てて考える明確さがすごい一冊

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書評『子どもの貧困 II-解決策を考える』社会問題の解決策を順序立てて考える明確さがすごい一冊

書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事は、日本の子どもの貧困問題の解決策の検討に焦点を当てた新書『子どもの貧困 II-解決策を考える』の書評記事です。

 

 

なぜ読んだか?どんな本か?本書をオススメする人

内容紹介

Amazonより内容紹介を引用します。

2013年,「子どもの貧困対策法」が成立した.教育,医療,保育,生活.政策課題が多々ある中で,プライオリティは何か? 現金給付,現物給付,それぞれの利点と欠点は? 国内外の貧困研究のこれまでの知見と洞察を総動員して,政策の優先順位と子どもの貧困指標の考え方を整理する.社会政策論入門としても最適な一冊

私がこの本を読んだのは、私自身が子ども支援分野には学生時代から現場で関わっており、もともと関心を持っていた分野だということもありますが、特に昨今特に指摘されるようになってきた日本の「子どもの貧困」というテーマについて改めて知識を整理することが目的として大きくありました。

本書の前作として同じく岩波新書から出版されている『子どもの貧困―日本の不平等を考える―』に続いての読了です。子どもの貧困というテーマ自体について知りたいという方は一作目の『子どもの貧困―日本の不平等を考える―』を先に読むことをオススメします。二作目にあたる本書は、一作目で掘り下げた「子どもの貧困」という社会課題に対しての解決策に焦点が当てられています

本書をオススメする人

社会課題を扱う新書で続き物、というのはあまり多くないですよね。問題の所在や構造を明らかにするだけでも新書としては十分な役割だと思いますが、著者の阿部さんは解決策についても道筋を示したいという強い思いで、新書一冊のほとんど全編を社会課題の解決策の考察に費やすこの続編をまとめたそうです。書かれているテーマそのものだけでなく、特定の社会課題の解決策の考察だけに焦点を当てた新書という構成自体が珍しいので、何らかの社会課題や社会政策についてのアウトプットをまとめる機会のある方(例えば政治学を学ぶ学生など)にはとても参考になる本だと思いますし、何らかの社会課題の解決に取り組むNPO経営者なども考えうるアプローチを洗い出していく視点の持ち方など参考にできるところは少なくないと思います。

 

本書の構成

  1. 子どもの貧困の現状
  2. 要因は何か
  3. 政策を選択する
  4. 対象者を選定する
  5. 現金給付を考える
  6. 現物(サービス)給付を考える
  7. 教育と就労

以下では本書の構成に沿って面白かった点や考えたことなどをお伝えしていきます。

 

1. 子どもの貧困の現状

前作で示した日本における「子どもの貧困」の現状を簡単におさらいしつつ、「貧困を放置することがどれほどの社会的な損失うになるか」という視点で議論を進めます
その中で特に印象の強い知見は、以下の点です。

  • 子ども期における貧困は様々な悪影響を及ぼす
  • 学力面や健康面で、貧困層とそうでない子には統計的に有意な差がある。特に深刻なのは、貧困による家庭内のストレスが身体的・心理的に影響を与えること
  • そうした影響は大人になっても継続してしまい、貧困の連鎖につながっていく

こうして発生した貧困に対して、社会は多くの負担をしています。どういうことかというと、貧困層にいる人たちからの課税収入は少なく、彼ら彼女らは税金も社会保険料も支払えず、場合によっては生活保護を受給する場合もあります。また、健康面でのリスクも高く、国や自治体の医療費負担も大きくなります。これは社会全体という視点で見ると社会が抱える負担だという風に捉えることができます。貧困という社会問題に子ども期のうちに手を打つというのは、こうした将来的な社会負担を軽減し、むしろ対象が経済的に自立し税金や社会保険料を支払うことができるようにする、ということです。

放っておくと社会の負担になってしまう層が経済的に自立し社会を担う側に回るということは、つまり「貧困対策は社会的にペイする」ということであり、逆に貧困に手を打たないことは「社会的なコストを放置する」ということであると言えます。

これは社会政策論としては基本的な視点ですが、この「社会的コスト」という考え方が理解を得られない場面は非常に多いように感じます。たぶんそれは「社会的にペイする」ことを明らかに示すのが、難しいから、というか批判しやすい点を含むということが関係しているのでしょう。本書で扱う「子どもの貧困」もそうですが、多くの社会問題は、その問題の構造を完全に解き明かすことがまず難しい。社会的な様々な事情が複雑に絡んでおり、厳密には不可能に近いことも少なくありません。

また、それに加えてペイするまでに時間がかかり、解決策の効果検証が非常に難しいという問題もあります。問題に関心を持つ人からしてみれば、厳密には分からないにしろ効果が出る可能性があるのであればやってみるべし、ということになりますが、実際には非常に財政的にも厳しい状態での利益対立に追いやられるとなかなか立場を強く保つことは難しいです。だからこそ、本書のように海外の事例も含め、使えるデータを集め、施策を丁寧に検討する研究者の取り組みには非常に貴重なのです。

 

2. 要因は何か

個人的には本書の中で最も衝撃的な章でした。第2章のテーマは「なぜ、貧困であることが子どもに悪影響を与えるのか、なぜ『貧困の連鎖』が起こるのか」を考えること、です。このテーマを考えるにあたって、様々な「(貧困の)連鎖の経路」が提示されるのですが、そのあまりの数に茫然とします。内容までは書けないですが、その数の多さだけでも紹介できればと思うので、経路の切り口だけ取り上げてみます。実際にはそれぞれの経路の概要も書かれていますので、ぜひ読んでみていただきたい箇所です。

(1)金銭的経路

  ・教育投資

  ・家計の逼迫

  ・資産

(2)家庭環境を介した経路

  ・親のストレス

  ・親の病気(精神疾患を含む)

  ・親との時間

  ・文化資本説

  ・育児スキル/しつけスタイル

  ・親の孤立

(3)遺伝子を介した経路

  ・認知能力は遺伝するのか

  ・その他の遺伝的経路(身体的特徴・性格・発達障害)

(4)職業を介した経路

  ・職業の伝承

(5)健康を介した経路

  ・健康

  ・発達障害/知的障害

(6)意識を介した経路

  ・意欲/自尊心/自己肯定感

  ・福祉文化説

(7)その他の経路

  ・地域/近隣/学校環境

  ・ロールモデルの欠如

  ・早い離家/帰る家の欠如

中には大した効果はなかったり、むしろ偏見の温床になっているようなものあって、この中からどの経路が重要なのかを描き出していくところが本筋なんですが、いやもうこの経路の多さとそこから想像されるストーリーを考えているだけで気が滅入ってきます。なんて世知辛い世の中なんでしょう。自分の子どもに対してここをこうしてあげよう、それが子どものためになる、と自分が考えるものもいくつもあるんじゃないかと思います。そうしたものが貧困の解消という意味で子どものためになるものなのか、考えてみるのも良いかもしれないですね。

私が関わっていたのも子ども支援のNPOであり、学習支援活動などに携わったりもしていたのですが、大きな社会問題の改善に向けた力の一つになっているんだなと感じる一方で、氷山の一角すぎるというか問題の複雑さや大きさに無力感を感じたりもして、複雑な気分になります。

3. 政策を選択する&4. 対象者を選定する

3章と4章はセットです。本書の2章までは前提で、ここからが「解決策を考える」本書の中心的な部分なんですが、思い切って書評の内容からははずします。あまり細かく紹介ししすぎてもただの要約になっちゃいますしね。

さて、一口に政策を選ぶと言ってもその選び方はいろいろです。ただ一つこれさえやればすべてばっちりという政策も、その選び方も存在しないからこそ、私たちが目にする政治はわかりにくく取っ付きにくいのです。著者の阿部さんが用いる視点は「政策の効率性」です。つまり、どれぐらいの資源の投入に対して、どれくらいの効果が期待できるかという観点です。この観点は、現実的にも非常に有効で賛同できる部分です。対象者の選定については、まず基本的な選別主義と普遍主義の対立の議論から入り、ターゲティングの考え方などを丁寧に紹介します。この3、4章の議論の流れは、政治学を学ぶ学生は参考にしたら良いと思います。非常に丁寧ですっきり頭に入るけど、これを自分で整理してまとめるのは非常に大変です。この丁寧な論述に論文執筆の苦しさを思い出しました。

5. 現金給付を考える&6. 現物(サービス)給付を考える

5章と6章もセットです。3、4章で紹介した政策オプション選定の考え方をもとに、実際に日本で採るべき具体的な施策について検討していく章となります。まず語られるのは「現金給付の大切さと確かな効果」です。日本において現金給付というのは非常に嫌われやすいですね。生活保護バッシングもまだ根強く残っていたり、いわゆるバラマキであったりととかく現金を給付するということに対しての嫌悪感が強くあります。

ですが、現金給付は様々な調査で確かに効果が出ているのであり、不必要なバッシングや偏見を取り除いていきたい、という筆者の真摯な姿勢が伺える丁寧な記述でその特徴が説明されます。また現物給付については、その選定や効果検証が現金給付よりさらに難しいことに触れつつも、筆者が有望だとするいくつかの政策を紹介しています。以下は自分のNPOでの取り組みとも関連して個人的に注目したものです。

放課後プログラム

現状の学童保育などはあくまで保育サービスとして設計されており、放課後格差による弊害のうち、「事故や犯罪に巻き込まれる危険」にしか対応できていない。特に学力の低下、体力の低下、音楽等の学校で育まれないスキルの未発達などの問題には対応出来ていない点の考慮が必要。

メンタープログラム

アメリカのビッグブラザー・ビッグシスタープログラムを始め多くのモデル事業で効果があるとされている。注意点としては、長期間の関わりが必要であること。

学習支援

さまざまな取組が存在し効果も報告されているが、効果測定はほとんどなされていない。

 

7. 教育と就労

本書で議論の薄かった部分への補足という位置付けです。本書では子どもの貧困対策として、特に子どもが小さいうちに重点的に支援することを(財政的な問題も踏まえ)打ち出しますが、貧困の連鎖を断ち切るためには当然、教育のルートにしっかりと乗り、就労まで引き継いでいくことが重要ですので、その点で本書の議論を補完するような内容です。教育という問題は、ほとんど全員が自分の経験に照らして考えることができ、関心を集めやすく、議論を呼びやすい分野です。学校や教育に関わる問題をいくつか挙げてくれと言われれば、たいていの人は苦労せずに何個かは挙げることができるんじゃないかと思います。そんな教育という問題について、貧困対策という一つの視点から切り取ってみるとどのように見えるのか。こういう風に社会課題を切り取って考えてみるはいろいろ応用が聞くので良い視点になると思います。

 

最後に

日本における貧困問題の現実やその問題点を描き出した前作も非常に貴重な作品でしたが、この続編もすばらしかった。ある社会問題に対する施策を検討し、決定、実施するということは実際に考えてみるとものすごく難しい問題であることがよく分かります。前作の問題の捉え方と合わせて、政策論あたりに興味のある政治学を学ぶ学生は手にしてみると良いのではないかと思います。子どもの貧困に少しでも興味を持たれた方は、手にとってください。その際はぜひ一作目と合わせて読むことをオススメします。 

『子どもの貧困 II-解決策を考える』に興味を持った方にオススメの本

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

阿部彩『子どもの貧困―日本の不公平を考える』

本記事で紹介した『子どもの貧困Ⅱ―解決策を考える』の第1作にあたる本で、本書が解決策を検討する「子どもの貧困」という社会課題自体について(2008年時点の)や国内の現状や問題点について分かりやすくまとめられています。 

 

柴田悠『子育て支援と経済成長』

「子どもの貧困」とも隣接・重複する分野である「子育て支援」分野に対して本書と同じく解決策(政策)を検討する本です。特徴としてはタイトルに「経済成長」と題されている通り、日本の経済成長のためにどのような子育て支援策が有効かというマクロ視点でアプローチされている点です。マクロ視点とはいっても、扱われる施策は「育休・産休制度の充実化の効果」であったり、「現金給付の有効性」など本書のテーマと共通する部分もあり合わせて読むとより理解が深まります。  

幸重忠孝、村井琢哉『まちの子どもソーシャルワーク』

 「子どもの貧困」対策の現場の第一線で長く活動されている幸重さんと村井さんの著作。子どもの貧困対策法施行後の国内の現状がどのようになっているのかを子どもに近い目線で分かりやすく解説されており、子ども支援の実践に興味のある方には特にオススメいたします。