本から本へつながる書評ブログ『淡青色のゴールド』

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書評『「国境なき医師団」になろう! 』私たちの寄付が使われれる「現場」とは何かを知る

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書評『「国境なき医師団」になろう! 』私たちの寄付が使われれる「現場」とは何かを知る

こんにちは。フリーランスの経営コンサルタントによる書評ブログ「淡青色のゴールド」にお越しいただきありがとうございます。本記事はいとうせいこう氏による『「国境なき医師団」になろう!』の書評・レビュー記事です。

 

 

内容紹介

本書は俳優や作家などマルチなタレントとして活躍するいとうせいこう氏が「国境なき医師団(MSF)」への取材からまとめられたルポルタージュ作品です。

 

 

Amazonより内容紹介を引用します。

誰かのために、世界のために、何かしたい。
――でも、どうやって?

「国境なき医師団」で働くのは医師や看護師だけではない!
ハイチ、ギリシャ、フィリピン、ウガンダ、南スーダンをめぐる現地ルポと
日本人スタッフへのインタビューで迫る、「人道主義」の最前線。

* * *

MSFってどんな組織? どんな人が働いているの?
どこに派遣されるの? 危なくないの?
給料はもらえるの? …私でもなれるの?

知っているようで知らないMSFのリアルを、
稀代のクリエーターが徹底取材で明らかに!

 

失礼ながら想像していたよりもずっと真面目に組織に対して向き合って取材された本でした。ほとんど偶然のような寄付先としての出会いから取材に至るまでの経緯、そして何より「国境なき医師団」についての取材ルポ作品が本作で2作目となることを考えるとその姿勢は非常に真摯なものだと感じます。

『「国境なき医師団」になろう!』の書籍画像

本書は電子書籍で読みました


オススメ度・本書をオススメする人

オススメ度

★★★★☆(4/5)

本書をオススメする人

本書をオススメするのは以下のような方です。

  • NGOとかNPOとかすごいなと思うけどよく分からないと感じる人
  • 「寄付」に対してちゃんと現地に届くのかなど不信感がある人

NGOやNPO、あるいはそうした組織に対する寄付などに興味はあるけれど、いまいちどういう活動を行うどういう組織なのかも分からないし、寄付に対してもちょっと不信感や違和感がある、でもNGOやNPOの人が言うことはそのまま受け取れない。そんな風に感じる人がもしいれば、ぜひ読んでみてほしいです。著者のいとうせいこう氏はNGOに対しても、「国境なき医師団」に対しても詳しいわけではない、「普通の人」として取材に赴き、「普通の人」が感じる疑問を率直にぶつけ、返ってきた答えにあれこれと感じたり考えたりしながら進んでいくので、共感しながら読み進めることができます。

一方逆に、NGOなどの社会貢献的な活動に関わっていらっしゃる方にも本書はオススメです。

  • NPO等に関わり、NPOの不信感を払拭したい人
  • 「国際協力」や「寄付」などの広報等に関わる人

上に書いた通り、門外漢であるいとうせいこう氏が「国境なき医師団」の職員と出会い話を聴くことでどのように感じたのか、そして寄付の意義や必要性についてどのように理解していったのかという変化の課程は、ご自身が広報や啓発に関わる立場であれば参考になると思います。また、本書自体がNGOや寄付への関心を高めることも目的のひとつとして書かれていますので、作家業も行うプロがどのように伝える工夫をしているのかという点も参考になります。

 

本書の位置づけ

なお、本書はいとうせいこう氏による「国境なき医師団」への取材本としては2冊目にあたります。一作目は以下の『「国境なき医師団」を見に行く』です。

 

「国境なき医師団」を見に行く

「国境なき医師団」を見に行く

 

 

こちらの本の方が、体当たり取材的な形で書かれており、著者自身が何も知らない状態で現地へ取材へ行って、打ちのめされて、そこから何を感じたのか、という個人的な感覚に重きを置いた作品となっています。

一方の本書『「国境なき医師団」になろう! 』は、一歩引いたスタンスで取材を行い、「国境なき医師団」の活動やそれを支える寄付者の意義について伝えることを目的として書かれています。

続き物、という訳ではありませんのでどちらから読んでも問題ないものですが、上記を参考にどちらから読むか決めていただけると幸いです。


本書でわかること・考えられること

  1. 「国境なき医師団」とはどんな組織か
  2. どういう人がどういう想いで働いているか
  3. 国際協力団体の日本スタッフがどんな仕事をしているか
  4. NGOへの寄付がどのように使われているか

こうした点に関心のある方はぜひ読んでみてください。

以下では本書を読んで分かることについて、私自身が感じたことなどを紹介していきます。

 

「国境なき医師団」とは

まずひとつ目は「「国境なき医師団」とはどんな組織か」という点です。本書のタイトルは『「国境なき医師団」になろう! 』ですが、「国境なき医師団になる」という言葉の主体は誰かと言うと私たち読者一人ひとりです。著者は私たちに国境なき医師団になることの意義やその方法について実際に働く人の声を紹介しながら教えてくれるのですが、その前提としてそもそも「国境なき医師団」とはどんな組織なのかということも語られます。

社会貢献的な活動を国内外の色々なところで活動している様々なNGOのひとつ、というぐらいのイメージは多くの方が持っているのではないかと思いますが、その中での位置づけや団体としての考え方などが本書を読むとよく分かります。

一口に国際協力といってもその方法は様々ですが、まず「国境なき医師団」はその団体名の通り医療に関わる活動を行っている団体です。団体によっては医療ではなくて、農業の支援だったり、教育の支援だったり、あるいは分野というよりも難民という立場のくくりで活動する団体だったりいろいろあるわけですね。その中で国境なき医師団は医療に特化している団体であるということです。

そして、医療にもまた色々なやり方があるわけですが、国境なき医師団が活動を行うのは主に「緊急支援」と呼ばれる分野・活動地です。紛争やあるいは災害などが起こった際に、なるべくすぐに駆けつけて最も初期の医療体制を整えることや命を救う活動を行うということが活動の主な内容です。

そして、活動のスタンスとして、国や他の組織等の縛りを受けずに自分たちが必要だと考える活動地で活動を自由に行うために、国や企業などからの資金提供は基本的に受け付けず、資金のほとんどを個人からの寄付によって賄っているということも組織の特徴のひとつと言えます。

こうしたことを単に説明口調なのではなく、いとうせいこう氏自身が感心したり驚いたりしながら説明されていくため読み物として楽しみながら、気づくと国境なき医師団について詳しくなっている、というのが本書の特徴です。

例えば国や企業からの資金提供を受けない、という点についてはギリシャでの難民支援活動の際のEUとの関係やEUへの抗議などの様子から非常に具体的に理解することができました。

 

医師じゃない人も多い!?「国境なき医師団」のスタッフ

「国境なき医師団」という団体名から、お医者さんによる団体というイメージを持っている人が多いのではないでしょうか。

でも実はそうではない!ということが本書で明らかにされています。実は全世界のスタッフの半数は非医療従事者、つまりお医者さんでもないし医療活動にも直接的には関わらないスタッフだということです。もちろん組織である以上は、色々な役割の人がいることは考えてみれば当たり前ですが、2人に1人は医療以外仕事をしているというのはなかなかイメージと異なりますよね。

なぜ、そんなに非医療従事者が多いのか、というのも読んでみると非常に納得です。国境なき医師団は緊急支援を行う団体で、紛争や災害による被害が発生するとすぐに現地にかけつけますが、そこには医療を行うための体制や設備は何も準備されていません。医師が医療行為を提供するためには、衛生環境が確保された場所、電気、水、食料、そして医薬品などが必要で、国境なき医師団ではそうしたものもすべて自分たちで準備する必要があります。物資や環境整備、あるいは紛争地等での安全確保まで、医療を届けるために必要な活動が非常に多岐に渡るということが専門スタッフ「アドミニストレーター」や「ロジスティシャン」への取材から伝わってきます。

個人的に本書を読んで驚いたのは、意外とスタッフの年齢層が高いということです。スタッフ全体の平均年齢については記載がなかったので分かりませんが、まず国境なき医師団に入職するのに年齢制限はなく、実際に60歳を超えてから挑戦をする方も少なくないということは驚きました。また、採用までの課程も非常に面白いです。一度落として終わりではなく、「もう少し英語を訓練してみてはいかがですか?」「現在の病院で○○の医療について経験を積まれてはいかがですか」といった形で言語や技術の習得などその人が活躍するのに必要な経験を伝えた上で関係を継続していくという姿勢は他の組織も真似できるのならした方が良い素晴らしい姿勢ですし、実際に2度目や3度目の面接で採用が決まった人が多くいるということもなるほど、と感心しました。ここら辺は国境なき医師団の真摯な姿勢と、それを長年続けてきたことによるブランドの強さのなせる業なんだろうと感じます。

 

寄付の使い道 現場を支える活動の大切さ

医療を届けるために必要なすべてを自分たち自身で賄う、そんな国境なき医師団の活動には当然多くの資金が必要となりますが、その財源のほとんどは個人からの寄付で集まっています。だからこそ、国境なき医師団には紛争地や被災地などの現地だけではなく、各国に支部を持ち、そこで活動を継続するための寄付活動を行うスタッフも大勢います。寄付を集めるための専門のスタッフがいる、ということですね。寄付を募る仕事を専門とする人材をファンドレイザーと呼びます。ファンドレイザーという職種自体は国境なき医師団独自のものではなく、他のNGOやNPOでも同様に使われている言葉であり職業です。要はこの人たちは寄付活動を行うことによって給料をもらっているわけですね。寄付を集めるのにもお金がかかるのです。でもそれだけ、専門的な知識やスキル、あるいは時間を投下して行わないと世界中での活動を支えていくための資金を個人の寄付で賄うというのは難しいということですね。

日本では寄付やNGO・NPOに対しての不信感がまだまだ強く、寄付文化も欧米に比べるとまだまだ未成熟だと言われることが多いですね。よく、寄付に対する不信感として「ちゃんと現地に届くのかどうか分からない」「どうせ中抜きされている」といったような批判がなされることがありますが、本書を読むとこうした批判で言われる「現地とは何を指すのだろうか」と考えさせられます。紛争地や被災地の人に直接お金を渡すことだけが必要な支援ではないはずですし、国境なき医師団が行うように緊急支援が必要とされる状況というのは現地の人たちの命の危機が迫っている場面であり、当然お金を直接渡すことよりも先に医療や食料を届ける必要があります。

そして、危険な紛争地やインフラの破壊されてしまった被災地で医療活動を行うためには、設備や環境を整えたり、物資を調達する仕事も無ければ医療を届けることすらできません。さらに、そうした活動を支えていくための継続的な資金を募るためには専門的なスキルや人材が必要となります。

こうして順番に考えていくと、それぞれのスタッフがそれぞれの役割を持って真摯に現場を支えることで国境なき医師団という団体が成り立っているということと、それを支える寄付の大切さということが非常によく分かります

 

寄付による出会いを真摯に受け止める

寄付の意義を伝えるということが本書の目的のひとつでもあるのですが、そのメッセージがきちんと響くのは、いとうせいこう氏自身が国境なき医師団に偶然のような出会いからよく知らないままに寄付を行いはじめ、寄付をした後になって初めて団体の活動や寄付の意義について知ったという変化が素直に語られているからだと思います。

寄付をしたことのない多くの人にとっては、NGOやNPOというのは身近な存在ではないし、寄付をしたところでどのように役に立つのか、イメージすることは難しいことです。

本書を読むことでそうしたイメージを具体的に持つことができるという点がまず本書の良い点ですし、いとうせいこう氏のように「まずは寄付をしてみて、それから知る」という順序でも、真摯に向き合っていくことができるというのは、私たちのような多くの「普通の人」にとっては寄付のハードルを下げる良い気づきを与える本なのではないかと思います。

 

『「国境なき医師団」になろう! 』を読んだ方にオススメの本

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

 

いとうせいこう『「国境なき医師団」を見に行く』

「国境なき医師団」を見に行く

「国境なき医師団」を見に行く

 

 まず一冊目は本文中にもご紹介したいとうせいこう氏による国境なき医師団取材本の一冊目です。続き物、と言うわけではないのですが、一冊目から順番に読みたいという方はまずこちらをオススメしますし、エッセイ的に著者の感心や感覚自体を深く知りたいという方にもこちらがオススメです。

 

瀬谷ルミ子『職業は武装解除』

職業は武装解除 (朝日文庫)

職業は武装解除 (朝日文庫)

 

続いてご紹介するのは国境なき医師団と同じく国際協力分野での活動に関する本ですが、医療活動ではなく紛争地での武装解除というより危険度が高いところでの活動を行う方による著作です。プロフェッショナルとして紛争地での武装解除を行う著者が、なぜそのような仕事に就くに至ったのか、武装解除を仕事にするとはどういうことなのかを語る自伝的なエッセイです。

 

山口絵理子『裸でもいきる』

 続いてご紹介するのはファッションブランド「マザーハウス」の創業者でありデザイナーを務める山口絵理子さんの著作。途上国のイケてない製品をお情けで買うのではなく、カッコいいから買われる、という新しい当たり前を作るために貧困国バングラデシュ発のブランドを立ち上げるまでのストーリーです。国境なき医師団のような歴史ある大きな組織ではなく、個人で国際協力の事業を立ち上げるとはどういうことなのか、体当たりのストーリーで知ることができます。

 

駒崎弘樹『「社会を変える」お金の使い方』

「社会を変える」お金の使い方――投票としての寄付 投資としての寄付

「社会を変える」お金の使い方――投票としての寄付 投資としての寄付

  • 作者:駒崎弘樹
  • 発売日: 2010/12/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

本書を読んで寄付について関心が高まった方にオススメなのが『社会を変えるお金の使い方』です。病児保育など子育て支援分野で活動するNPOフローレンスの創業者駒崎弘樹さんいよる著作で、ご自身のフローレンスについてではなく、寄付について語る本です。駒崎さんは寄付を「投票としての寄付」であり「投資としての寄付」であるといい、自分のお金に意思をのせて託すことで、自分が望む社会つくりに参加する方法だといいます。この本を読んで寄付をする人が増えれば本当に社会は良くなっていくんじゃないだろうか、と感じる一冊です。

 

鵜尾雅隆・渋澤健『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』

寄付をしてみよう、と思ったら読む本

寄付をしてみよう、と思ったら読む本

 

続いてご紹介するのも寄付についての関心が高まった方にオススメの本です。著者は日本ファンドレイジング協会の代表理事で、日本の寄付業界の第一人者である鵜尾さんと、コモンズ投信を主催するお金の専門家でありNPO経営者への寄付などの支援も積極的に行う渋澤さんの2人が、日本の寄付文化や寄付にまつわる環境が最近どう変わってきているかなどを分かりやすく説明してくれます。寄付がどのように使われているのか、国境なき医師団などの国際協力だけでなく、国内で活動する様々な団体の事例についても知ることができます

 

お読みいただきありがとうございました。