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書評『非営利組織のガバナンス――3つのモードを使いこなす理事会』NPOの理事会マネジメントの教科書

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書評『非営利組織のガバナンス――3つのモードを使いこなす理事会』NPOの理事会マネジメントの教科書

こんにちは。daisuketです。本記事はNPOなどの非営利組織の理事会運営について書かれた『非営利組織のガバナンス――3つのモードを使いこなす理事会』の書評記事です。

 

 

内容紹介

本書はNPO法人や財団・社団法人など非営利で公益目的の活動を行う組織の運営、中でも特に理事会の運営について書かれた本です。2020年1月に翻訳版が発売となりましたが、発売日以前からNPOセクターでは話題となっていました。2005年に発売された本ということで15年越しの翻訳になるのですが、今でも十分に、というより時代に関係なく重要なことが書かれてあり読む価値ある一冊です。

 

 

Amazonより内容紹介を引用します。

不祥事を防ぐことだけがガバナンスではない。社会課題解決の重要なアクターである非営利組織。社会的インパクトを創出し続けるために必要なのは、経営力、特に、「ガバナンスのアップデート」であると著者は主張する。

社会に本質的な変化をもたらす組織のガバナンスには何が必要か?
組織と事業のポテンシャルを最大化するガバナンスのあり方とは?
これらの問いに、長年、研究を続けてきたハーバード大教授らが挑む。

出版以来、アメリカで読まれ読まれ続けている待望のNPO経営の教科書、遂に邦訳。

 

オススメ度・本書をオススメする人・課題

オススメ度

★★★★☆(4/5)

本書をオススメする人

本書は以下のような立場の方には特にオススメです。

  • 非営利組織の理事を務める方
  • 非営利組織の理事にこれからなる方、なるかもしれない方
  • 非営利組織の職員等、運営実務に関わる方
  • 中間支援など非営利組織の支援に関わる方

理事会についての本ですので、理事会に関わる方や理事会マネジメント含めて組織の経営や運営に関わる方にはご自身の組織の問題と照らしながら読むことができるのではないかと思います。

課題

問題意識としては以下のような点をお考えの方であれば面白く読むことができ、ご自身の組織の課題について考えることができるでしょう。

  • 自組織の理事会を改善したい
  • 理事会を改善したいけれど、何から手を付ければいいか分からない
  • 理事によって関わり方や意識の持ち方に差がある
  • どういう人に理事になってもらえばいいか分からない
  • 組織運営の中で理事会をどのように位置づければいいか分からない

私自身はコンサルタントとしてこれまでいくつもの非営利組織に関わってきました。また、自分自身が非営利組織の理事や職員を務めたこともあります。そうした経験の中で感じるのは、理事会がどのようなチームでありどのように運営されているか、という部分には組織としての強さの違いが非常に出やすいということです。少し大げさに言えば、理事会を見ればその組織が分かる、と思います。

 

そして、同じく感じるのは多くのNPO関係者は自組織の理事会運営に課題があることを認識している、ということです。この「関係者」には理事自身を含みます。みんな何かしら問題があると思っていて、何か変えた方がいいだろうと思っているけれど、なかなか手を入れられないし、どこから手を入れていいか分からない。理事会にはそんな難しさがあるように思います。本書はそんな理事会についてそもそもの役割の整理を大胆に捉え直すことや、現状の課題を洗い出したり、変わっていくための最初の一歩として考えてみるべきことなどを提示してくれます

 

やや翻訳の文章が硬くて読みにくい部分はありますが、オススメの一冊です。

 

「ガバナンス」とは何か

本書は主に理事会について述べられた本ですが、タイトルは『非営利組織のガバナンス』であり、あくまで主題はガバナンスです。


では、そもそもガバナンスとは何でしょうか。

 

ガバナンスは英語のgovernanceであり、日本語訳では「統治、支配、管理」といった言葉となります。国や地方、あるいは企業等の組織を統治することや支配、管理することを指します。企業の文脈においてはコーポレート・ガバナンスという言葉の方が一般的でしょうか。企業統治とも訳されたりしますが、組織内部の管理体制を整えることであり、特に法令や規制等を遵守することを念頭において社内の規則等を整えるという文脈で使われることが多いです。法令や規則の遵守を意味するコンプライアンス(compliane)と似た文脈で使われることも多く、コンプライアンス徹底のための管理体制の整備やそうした姿勢のことをコーポレートガバナンスということが多いように感じます。

 

NPO等の非営利組織においてもこの文脈の延長線上で捉えられることが多いように感じます。NPO法人や公益(財団・社団)法人はその公益性を担保するために事業報告や会計報告を所轄官庁に年に一度提出することや、Webサイト等で公開することが求められています。日本においてはNPO法人等がまだまだ社会的な信用が低く「怪しい」と思われてしまう場面が多いこともあり、ガバナンスという言葉が指す意味合いもより一層、法令遵守を強力に意識されているようにも感じます。

 

ただ、ガバナンスという言葉が指すものはもっと広い概念だ、ということを本書は指摘します。本書では「リーダーシップとしてのガバナンス」をキーワードとして解説されています。この言葉、文字だけだとなかなか一見して意味が捉えにくいのですが、翻訳者前書きに引用されていた以下の言葉が非常に分かりやすかったので改めて引用します。

 

「ガバナンスなきリーダーシップは、専制、不正、個人の縄張りを生む危険性がある。リーダーシップなきガバナンスは、萎縮、官僚主義、無関心を生む危険性がある」

 

コンプライアンスのみを意識したガバナンスは「リーダーシップなきガバナンス」であると言えます。悪しき官僚組織的な運営では非営利組織が本来目指すべき成果を生み出すことにはつながりません。そして、ガバナンスなきリーダーシップ。日本においてはまだまだ組織として脆弱で、理事会が名ばかりのものとなっている組織も少なくありません。そうした組織におけるリーダーシップにも危険性があるということですね。

 

あなたの組織はいかがでしょうか。

 

理事会が意識すべき3つの「モード」

本書ではガバナンスなきリーダーシップ、あるいはリーダーシップなきガバナンスから抜け出し、リーダーシップとしてのガバナンスを目指していくために理事会が果たすべき役割を3つの観点に分けて説明します。3つのモードとは「受託モード」「戦略モード」「創発モード」の3つ。この3つのバランスを意識し、各モードを行ったり来たりしながら組織運営にあたっていくべきで、それができることがリーダーシップとしてのガバナンスが発揮されている状態だといいます。

 

3つのモードとは以下の通り。

 

受託モード:監査、監督など従来理事会の役目だと考えられている必要不可欠だか、それだけでは十分ではない役割
戦略モード:成果指向で戦略的に思考するモード。戦略的な計画を立てることではなく、戦略的に思考することが重要である
創発モード:現在の単純な延長線上では辿りつかない異なる未来について思い描く思考。未来志向。センスメイキング。

 

コンプライアンスを意識したものは「受託モード」です。これも必要なのは間違いない。でもそれだけでは足りない、ということが言われています。

 

本書の優れている点は、受託モード以外のモードをさらに「戦略」と「創発」という2つのモードに分けたところでしょう。ある程度組織化が進んできたり、非営利組織としての成果が見えてくると、成果を最大化するための戦略を練ることや戦略的な計画に基づいてPDCAを回していくことが目指されることが多くあります。それ自体は悪いことではないのですが、それ自体が目的化してしまうと良くないのですが、さらに別の視点として「創発モード」という視点が加わることで、戦略モードの良い点とそれだけでは足りない点というのがうまく整理されやすくなっているように感じます。

 

非営利組織の文脈においては最近社会的成果ということも強く言われるようになってきていますし、成果を出すために自組織だけではない広汎なステークホルダーと協業しながら取り組んでいくコレクティブインパクトといった方法論も言われるようになってきています。単線的な中長期事業計画だけでは対応しきれない場面も多くなってきていることもあり、創発モードというものをどのように理解し、組織内にインストールするかという点はこれからの非営利組織運営にとって非常に重要になってくるかと思います。

 

小さな組織と大きな組織でそれぞれの読み方を

本書を読む中で注意が必要だと感じる点もあります。それは本書が対象としている組織がどういうものかを忘れずに読むということです。本書が主な対象としているのは有給職員が複数いて、すでに理事会を定期開催している組織です。モードとしては受託モードの戦略モードの両方あるいはどちらか一方は機能している、という段階の組織が念頭に置かれています。

 

日本においては組織規模やフェーズ的にまだ本書の対象にならない組織も多いでしょう。そもそも理事会が機能していない、名ばかり理事となっており、公には言いにくいけど理事会も総会も開いていないという組織の話を残念ながら少なくないですし、理事会については定期的に開催していたとしても、職員は代表理事本人だけでその他はボランティアメンバーばかりという場合も少なくありません。

 

有給職員が複数以上いた上で、事業の成果も理事会含めた組織体制もそれなりに形にはなっている、、、事業規模としては最低でも2〜3千万円規模は必要なのではないかと思います。本書のど真ん中ストライクな対象者となる人は、そうした組織の理事や職員などでしょう。

 

一方で、そうしたフェーズにいまだ至っていない小さな組織にとっては本書を読む意味がないかと言うと、そんなことは決してありません。規模が小さくまだ理事会マネジメントにまで手が回らないような組織の方は、まず理事会に限らず通常の自分たちの組織運営全体の中に、受託・戦略・創発モードのそれぞれがどこまで機能しているかという形で読んでみると良いのではないかと思います。

 

法人格を取得しているにも関わらず受託モードが機能していないとしたらそれは早急に改めねばなりませんし、戦略モードが機能していない場合には改めて自組織の存在意義を受益者目線でしっかりと捉え直すべきですし、創発モードについてビジョンベースでたどり着きたい未来について考えることができるのか、一緒に考えたい人はいるのかといった点を考えてみると、まずはどのあたりから自組織を改善していくべきかのヒントを得られるのではないかと思います。

 

問いやワークを活用

自組織の理事会の改善に本書を活かすための具体的な問いやワークについて触れられている点も本書の特徴の一つです。実際に自組織の理事たちと考えてみることで、現状の課題を共有認識として持つことができるように工夫されています。

 

例えば以下のような問い・ワークは試してみたいと感じるものでした。
ビジョン・ミッションだけでなくバリュー(価値観・行動規範)のようなものを考えることの大切さが強調されていますね。

 

問い

「あなたの団体の理事会が2年間、何の会議も開催せず理事会の職務も行わない場合、組織が被る最も重大な影響を1つ挙げるとしたら何になりますか?」
「この団体の特徴を最もよく表す3つの形容詞、あるいはフレーズは何か」
「今から5年後に、この団体が今と比べて最も変化している点は何だろうか」
「今から5年後に、この団体が今と比べて最も変化していてほしい点は何か」
「自分で団体のランキングを作れるとしたら、この団体が一位になってほしいと思うのはどういうランキングだろうか」

ワーク

「理事会が○○していなかったら、○○は達成されなかっただろう」

 

 

『非営利組織のガバナンス――3つのモードを使いこなす理事会』を読んだ方にオススメの本

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

 

スーザン・J・エリス(著)、監訳川北秀人『ボランティア・マネジメントと理事会の役割』

『非営利組織のガバナンス――3つのモードを使いこなす理事会』は有給職員が複数いる組織が対象となっていましたが、まだ組織規模としてそのフェーズではなかったりこれから組織の立ち上げを行っていくような段階では、ボランティアの活用を組織の中にどのように位置づけていくかを考える方が先決な場合が多いでしょう。本書はボランティアマネジメントと理事会という非営利組織を運営する上で欠かせない二つの要素について分かりやすく解説しています。特にご自身でボランティア経験が豊富ではないビジネスセクターの方が理事を務めるような場合には、本書を読むことで非営利組織にとってのボランティアの重要性を感じることができます。

 

サンドラ・R・ヒューズ、ベリット・M・レイキー、マーラー・J・ボボウィック共著、監訳川北秀人『理事を育てる9つのステップ』

理事を採用、任命し、理事会を運営・活性化していくためには理事を育成したり評価したりといった「マネジメント」する視点が必要だということを9つのの具体的なステップに分けて解説しています。非常に分かりやすくオススメです。
上記2冊については以下よりお求めいただけます。


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P・F・ドラッカー『ドラッカー名著集4 非営利組織の経営』

ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営

ドラッカー名著集 4 非営利組織の経営

 

 経営学で有名なドラッカー氏は非営利組織の経営についても非常に示唆の富む言葉を多く残しています。『非営利組織のガバナンス――3つのモードを使いこなす理事会』において理事会を刺激する問いとして提示されていたものを見てドラッカー氏の「何によって覚えられたいか」という問いを思い出しました。非営利組織にとってのミッションの重要さということを改めて考えさせてくれますし、非営利組織の経営・運営に関わるのであればぜひ読むべき一冊です。

 

坂本文武 『NPOの経営 資金調達から運営まで』

NPOの経営 資金調達から運営まで

NPOの経営 資金調達から運営まで

  • 作者:坂本 文武
  • 発売日: 2004/01/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

NPO経営に関する書籍は多く出版されていますが、中でもオススメなのが本書。「NPO法人のつくり方」のような形で法人格取得までの手続き的な話や、『非営利組織のガバナンス――3つのモードを使いこなす理事会』でいう受託モードについて解説している本が多い中で、本書はあくまでも非営利組織の目的、出すべき成果という視点から非常に本質的であり、かつ具体的な視点を多く得ることができます。コンサルタントなど非営利組織の支援に関わる方にもオススメです。

 

レスリー・R・クラッチフィールド (著)、ヘザー・マクラウド・グラント (著)、服部 優子(翻訳)『世界を変える偉大なNPOの条件――圧倒的な影響力を発揮している組織が実践する6つの原則』 

NPO経営に関わる書籍としては有名な一冊。発売から8年ほど経っていますがいまでも十分に読む価値があります。特に昨今はSDGs等の文脈でビジネスセクターと非営利セクターが協業をしたり、ともに問題解決にあたっていくことも少なくありませんが、非営利組織としてビジネスセクターと組むことをどのように捉えるのかといった点についても具体的な視座を与えてくれます。

 

安田節之『プログラム評価』

NPO経営や理事会運営についての教科書的な一冊として『非営利組織のガバナンス――3つのモードを使いこなす理事会』を手にした方にオススメしたい一冊。NPOとして目指していくべき成果をどのように評価していくかということは最近社会的インパクト等のキーワードで非常に強く言われるようになりましたが、では成果を評価するとはどのようなことで、実際にどのように取り組めばいいのかという点はなかなか難しいのですが、本書はそうした点について教科書的に整理してくれていますので、体系的に学びたい方には非常にオススメです。