本から本へつながる書評ブログ『淡青色のゴールド』

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書評『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』強気でも弱気でもない第三の交渉スタイルとは

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書評『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』強気でも弱気でもない第三の交渉スタイルとは

こんにちは。書評ブロガーのdaisuketです。本記事は『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』のレビュー記事です。「交渉」や「調整」などビジネス上のコミュニケーションについてレベルアップを図りたい方にはオススメの一冊です。

 

 

読んだ動機と内容紹介 

 私は普段経営コンサルタントとして働いていますが、現在は企業の所属ではなくフリーランス(個人事業主)として活動しているため、コンサルティングはもちろんのこと、営業や法務、経理などもすべて自分自身で行う必要があります。特に契約条件などを決める際には相手方と「交渉」を行う場面があるのですが、フリーランスになりたての頃、私はあまり交渉が得意ではありませんでした

 

「交渉が得意ではない」ということをコンサルタント仲間に相談したところ、紹介されたのがこの本でした。読んでみるとまさに私の悩みにぴったりと合う本で、悩んでいたことが非常にクリアになりました。

 

本の内容紹介をAmazonより引用します。

 

交渉は「駆け引き」のうまい者が勝つ―それは大きな間違いである。本当のプロフェッショナルは、時間と労力をもっと効果的に使う。どんな複雑な利害があっても「最高の解決法」を導く。相手の面子を立てながら、自分の要求を通す。「どう見ても不利」な状況も一発大逆転できる。理屈が通じない相手を180度変える「ひと言」…。「交渉力」を身につける―ハーバード史上最高の研究。

 

タイトルに「ハーバード流」と冠されていますが、なんとハーバード大には「交渉学プログラム」や交渉学について研究する「交渉学プログラム研究所」もあるそうです。そして本書の著者はその交渉学プログラム研究所の所長であり「交渉学の世界的権威」と呼ばれるロジャー・フィッシャーと、研究所の共同設立者で研究所のシニアフェローであるウィリアム・ユーリーの2人です。単に個人的資質やそれに基づく経験を語った本なのではなく、調査や研究を元にした本であるという点が本書が優れている点です。

 

また、本書の翻訳を行っているのはライフネット生命で代表取締役副社長を務める岩瀬大輔さんです。ハーバード大でMBA(経営学修士)を取得されており、有名なスタートアップ企業の経営者ということで、日本のビジネスの実際の場面にも詳しい方が翻訳をしているという点も本書の良い点ですね。

 

ハードかソフトかの択一ではなく第三の道を選ぶべし

本書の最初の主張にして、最も重要な点は、交渉はハード型かソフト型の二者択一ではないという点です。

 

どういうことかと言うと、交渉の進め方について多くの人はあくまで自身の条件を強気に押し出す「ハード型」か、あるいは条件よりも相手との関係性に重きをおく「ソフト型」のどちらかしかないと考えていると指摘します。ここで私は大きく膝を打ちました。その通り!と。私自身の交渉スタイルは完全にソフト型でした。関係性を壊すのが怖くて、強気の条件を伝えることができない、ということがよく起こっており、そのことがストレスにもなっていました。そしてどうすればハード型になれるんだろうか、というのが私の問題意識でした。

 

そうではない。そもそも二者択一の問題設定が間違っている、というのが本書の主張。
どちらか一方だけが勝ったり、得をするということではなく、双方にとって良い解決策をこそ模索するべきであり、それこそが本書が提唱する「原則立脚型交渉」です。
分かりやすく言えばビジネスの場面でよく言うWin-Winを目指すということなのですが、交渉の場面においてどのようにそれを模索していけば良いのかを分かりやすく説明してくれます。

 

原則立脚型交渉のポイント

原則立脚型の交渉を進め、実現していくためにはいくつかのポイントがあります。

 

そのポイントとは、

 

  • 人と問題を切り離すこと
  • 「条件や立場」ではなく双方が本来求める「利益」に注目すること
  • 双方の利益に注目した「複数」の選択肢を考えること
  • 判断の拠り所には客観的で公平な「原則や基準」を用いること

 

など。どれも字面としては読んですぐ分かりますよね。ただ、具体的にどういうこと?というのがなかなかイメージしにくいかと思いますが、本書においてはそれぞれのポイントについて簡単な会話事例とともに解説されているため非常に分かりやすいです。

 

例えば、大家と借り主の間に起こった争いの場面を元に、具体的なセリフと分析を行う場面から少し引用しましょう。感情ではなく事実や根拠に基づいて話を進めていくべきだ、という原則立脚型交渉の最も大事なポイントを伝える箇所です。

 

ターンブル ジョーンズさん、間違っていたらおっしゃってください。僕たちのアパートは家賃統制の対象物件ですよね。法定上限額は月額九三二ドルだと教わりました。それとも僕たちの情報が間違っているのでしょうか。

【分析】原則立脚型交渉の重要なポイントは、事実や正当な根拠にもとづく主張には耳をふさがないということである。こちらが客観的事実だと思っていることが間違っているかも知れないという前提に立ち、必要があれば訂正してほしいと告げることで、理性的な話し合いの足場をつくった。
また、提示した事実への同意ないし訂正を求める事により、話し合いへの参加を促している。これにより、一緒に事実を解明していく空気がつくられ、対立が和らいだ。ターンブルが自分の情報こそ「絶対事実だ」と断定していたら、ジョーンズ夫人は見下され脅されていると感じ、反発していたかもしれない。

 

このように具体的な場面やセリフの中にどのようにポイントが生かされているか、どのような効果を持つのかといった分析・解説が行われているため非常に分かりやすく読み進めることができます。

 

表現が強すぎる点が本書のもったいない点

非常に分かりやすく、為になる本だと感じました。多くの人にオススメしたいとても良い本だったのですが、少しもったいないなと感じる点もあります。

 

それは表現が無闇に強すぎる、ということ。

 

タイトルに含まれている「必ず望む結果を」であったり、各章のタイトルでも「思うままになる」「相手の心をコントロールする」「一発で大逆転」などとても強い表現がたくさん使われています。読んでみるといずれも内容は至極真っ当だし、おろそかにしてはいけないことだと感じるのですが、タイトルや目次を読んだ時点では「ハード型」な印象ばかりを受けてしまい、引いてしまいました。

 

冒頭の最初の主張として、交渉はハードかソフトかではないし、ともに利益を追求する、つまり勝ち負けのものではないということを提示しているのですが、本書の表現からは「相手に勝つ」という印象ばかりが表面的には伝わってきてしまう点は、本質的な主張と表現があっていないようにも感じもったいない点です。翻訳の岩瀬さんの癖なのでしょうか。

 

元々ハード型の交渉を自認している人には良いかもしれませんが、私のようにどちらかというとソフト型のスタイルの人には放っておくとなかなか手にとってもらいにくいのではないかと思います。私は知人の薦めで手にしましたが、そうでなかったら多分読む機会がなかったので、そこら辺は少し気になります。


まとめ

とは言え、繰り返しになりますが、内容は至極真っ当です。勝ち負けではなく、お互いにとって最も良い形を模索するために交渉の中で意識すべきことが非常に分かりやすく整理されています。


読んでいる内に強く感じたのは、本書は「交渉」を主題に扱った本ですが、交渉や調整といったビジネス上のコミュニケーションはもちろんのこと、家庭や友人関係などの日常のコミュニケーションにおいても意識すべき大切なポイントが多いということです。むしろ、交渉と意識をしていない日常の場面では当たり前にできていたことも多く、それらが交渉などの場面においても共通して大事なポイントであるということに気づけたということが本書を読んでの一番の収穫かもしれません。

 

私のように交渉の場面で強気になれないことに悩んでいるような方には強くオススメの一冊です。

 

 

 

『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』を読んだ方や興味を持った方にオススメの一冊

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

 

ケリー・パターソン , ジョセフ・グレニ― , ロン・マクミラン , アル・スウィツラ―『ダイアローグスマート』

 ダイアローグとは対話・会話のことです。つまり、スマートに会話をするということがテーマの本。『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』が交渉術ということで主にビジネス上の場面を念頭に置いているのに対して、『ダイアローグスマート』はビジネスもプライベートも含めて落ち着いて対話をするとはどういうことかということを解説します。こちらの本も具体的な会話例などが多く読みやすいです。

 

岸英光『プロコーチの エンパワーメント・コミュニケーションの技術』

プロコーチの エンパワーメント・コミュニケーションの技術 (スーパーラーニング)
 

 こちらはコーチングの本です。交渉術とは少し離れますが、ビジネス上を含むコニュニケーションについて考える際にコーチング的な視点を持っていたり、要素を採り入れることができると選択肢が広がって非常に良いと思います。私はコンサルティングを行う場面でも日常生活でもしばしばコーチングの視点を取り入れながら生活をしています。

 

エドガー・H・シャイン『人を助けるとはどういうことか』

 エドガー・シャイン先生はコンサルティング論やキャリア論で有名な方ですが、中でもオススメの本がこちら。対話や会話、交渉といったことの前提として人と人との関係において、支援をしたりされたりする際にどういうことが起こっているのか、この本を一度読んでおくと身の回りで起こっていることが非常に捉えやすくなります。

 

ロバート・B・チャルディーニ『影響力の武器[第三版]:なぜ、人は動かされるのか』

最後にご紹介するのは非常に有名な本ですが、本書を読んで思い出した一冊。世界中の優秀な営業マンの方などが多く、そして長きに渡って推薦図書として挙げる一冊ですね。相手に影響を与えるということもビジネス上のコニュニケーションにおいては重視されるわけですので、未読の方は基本的な一冊として読んでおくと間違いないと思います。