淡青色のゴールド

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書評『数学文章作法 基礎編』なぜ"形式"にこだわるべきなのか?

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書評『数学文章作法 基礎編』なぜ"形式"にこだわるべきなのか?

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事は結城浩さんの『数学文章作法 基礎編』の書評記事です。

 

 

なぜ読んだのか?

本書を読んだのは5年以上前です。読んだ理由は当時ボランティアスタッフとして関わっているNPOで文章を書く機会が出てきたためでした。

普段は児童養護施設で子どもたちに勉強を教える、という対人支援の現場に出る活動に携わっていたのですが、新たな業務として関連する事業・活動分野についての調査研究の実施と報告書にまとめる作業を担当することになりました。

当時の本業はWeb系の事業会社でWebディレクターをしており、業務の中で文章を書く機会なんてメールぐらいでしたので、長い文章を書くのも、公的に人に提出する文章を書くのも大学の卒論以来でした。もちろん、そこまで学術性の高いものが求められていた訳でも、ことさらに格式張った文章を書くことを求められている訳でもないのはわかっていたのですが、せっかくの機会なのでもう一度基本から勉強し直そうかなと思い、欲しい物リストの中から選んで手にしたのがこの本でした。

  

誰にとって役立つ本か

この本は『数学文章作法』です。タイトルに「数学」と冠されている通り、数学に関連した文章を書く人を想定して書かれた本です。数式の書き方であったり、定義・定理といった数学的な用語の使い方であったりと数学に特化した内容も含まれます。ただ、それだけではありません。一般的な文章の書き方に「加えて」数学的な部分も書かれている内容ですので、数学文章を書く人にとってはもちろんのこと、それ以外の文章を書く人にとっても幅広く有用な、総合力の高い本です。

本書の著者の結城浩さんは本書の他に『数学ガール』『プログラマの数学』『暗号技術入門』などの著書があり、数学やプログラミングなどの専門分野に対しての入門書を多く書かれていらっしゃる方です。専門分野をその分野に詳しくない人向けに分かりやすく紹介するためには「難しいことを簡単に表現する」ことが必要となります。内容の分かりやすさに定評があり、多くの入門書が他の言語(英語や韓国語など)にも翻訳されている結城さんが大切している文章の基礎をこの本から学ぶことができます。

 

基本を大事にすることで文章のレベルは上がる

この本は『数学文章作法』であり、その「基礎編」でもあります。

  • 段落の付け方
  • 字体の選び方
  • 漢字とかなの使い分け
  • 引用の仕方

などといった国語の授業で習うような文章のルールを改めて丁寧に説明してくれます。どれも非常に基本的な内容ですね。ただ、基本的なことを普段きっちりと守れているかというとなかなか自信を持てない人も多いのではないでしょうか。特に日常的に文章を書く機会のない人にとっては、国語の授業で習ったことも全部が全部頭に残っているものではないと思います。そうした基本をもう一度見直しましょう、というのが著者の結城さんの主張です。たとえば結城さんは次のように言います。

「形式の大事さ」形式を整えるだけで文章の読みやすさはぐっと上がる。形式のあまりに整っていない文章はそれだけで損をしている。 

文章の上手さというとどうしても、話の「筋」がすごいとか、言い回しが上手いなどといった側面に目が行きがちですが、形式の整っていない文章はそれだけで読む気が削がれてしまいがちです。内容の前に文字を追うだけで疲れてしまいますからね。特に昨今は、ネット上で文章が毎日毎秒腐るほど生み出され続けている時代ですので、読みにくい文章などそれだけで切り捨てられてしまいます。内容の面白さ以前の問題です。

逆に言えば、そうした形式の整っていない読むに耐えない文章が溢れている状況ですので、形式を整えるだけでとりあえず通して読める文章の仲間入りを果たすことができる、とも言えます。

 

分かりやすい文章を書くためのコツ 

形式の大事さにつづいて分かりやすい文章を書くためのコツも次々と提示されます。ここで提示されるものもやはり基礎的なものです。ここで紹介される項目については文章の書き方というテーマに興味を持つ人であれば、この本を読むまでもなくどこかで目にしたことのある指摘が多いのではないかと思いますが、以下は、私が特に改めて意識しなければならないと感じたことです。

文を短く

文章を分かりやすくしたければ文を短くすべし。これは文章術の本を読んでいるとよく見かける指摘です。結城さんは

長い文が常に読みにくいというわけではありません。文章を書き慣れた著者なら、長くて読みやすい文を書くこともできるでしょう。しかし、一般には短い文を心がけたほうが無難です

と言います。まさにその通りでしょう。

分かってはいるのですが、ついついやってしまいます。一番やってしまうのが結城さんも特に注意すべきいう「逆説ではない『が』」です。

悪い例:逆説ではない「が」

次に複素平面を考えることにするが、すべての複素数は複素平面上の一点として表現できる。

 

上の例に出てくる「が」は、「しかし」で置き換えられないので逆説ではありません。この「が」は背景や文脈を提示するためのものです。これは文を長くする原因となりますので、できれば削除しましょう。


改善例:逆説ではない「が」を削除した
次に、複素平面を考えることにしよう。すべての複素数は複素平面上の一点として表現できる。

 
また、長い文を短くする例にも心当たりがありました。

長い 円周率を計算することができる。

短い 円周率を計算できる。

 

長い この実験などのような体験ができたりします。

短い この実験のような体験ができます。

さらに このような体験ができます。

「~することができる」「できたりする」は使ってしまっていますね。気をつけましょう。

 

文は明確に 

また、この後に続く「文は明確に」の節もやってしまいがちな例が出ていました。
「その定義は正しいといえなくもないのではないか」というような言い切らない表現は使うべきではないという指摘です。個人のブログ記事やSNSだとわりとよく見かけますし、自分も身に覚えがあります。言い切る自信がないんですよね。
 
言い切る自信がないものに対しては、主張を明確にすべきだといいます。それができなければ読者には何も伝わらない、とばっさりです。

もしも、著者が「そんなに言い切りたくない。もう少し含みを持たせたい」としたら、どう書けばいいのでしょう。著者が含みを持たせたいなら、その「含み」とは何かを明確にする必要があります。「その定義は正しい」とは言い切れない理由を分析しましょう。

自信の持てないことに対してなんとなく含みをもたせて、それっぽく分かってる感を出すだけでは意味が無いということですね。だいたいバレますからね、「分かってる感」って。

例の立て方 

典型的な例、極端な例、あてはまらない例などなど例の立て方の具体例を分かりやすく示してくれます。具体例をいくつも示した後に「例とはそもそも何のためのものか」を改めて説明します。この説明が面白い。「適切な例を挙げるのは、読者の心に概念の姿を正確に描く助けとなるのです」とのこと。これは言われてみれば不思議なことでもなんでもないのですが、インターフェースデザインの分野で「メンタルモデル」というものを勉強してきたのですが、文章においても共通するものがあるんだな、というのはなかなか面白い気付きでした。

読者に正しく概念を伝えるために適切な例を挙げなければならない、というのは、あらゆる道具やサービスを正しく使ってもらうためには適切なインターフェースデザインでなければならない、というのと同じですね。

そして、例示は理解の試金石というスローガンを提示するのですが、これもデザインに共通しますね。ユーザに何をして欲しいのか、どう使って欲しいのかが明確になっていなければ良いデザインはできませんし、伝えたいことは明確に理解できれていなければ例を作ることはできません

 

問いと答え

例と同じく読者の理解を助けるものとして「問いと答え」も一章を割いて説明しています。問いかけを適切に使用している文章は格好いいですよね。ただ、ここでもあくまで大事なのは基本をおろそかにしないことです。「問いを立てたらきちんと答える」「問いと答えは呼応させる」「否定形の問いかけを避けるなど適切な問いかけをする」といった基本ルールを守りましょう。

 

読者のことを考える

本書のまとめとして結城さんが掲げる「たったひとつの伝えたいこと」は、読者のことを考えるという原則です。

日記などごく一部の例外を除き、ほとんどの文章には想定される読者がいます。本書で語られてきたすべてのルールは「読者のことを考える」という原則に則ったものであり、それこそがすべて、ということです。

非常に当たり前の結論にも感じますが、本書を順に読み通してくると非常に納得感があります。「適切な例が説明を助ける概念」と「インターフェースデザインにおけるメンタルモデル」という文章とデザインの共通点について書きましたが、この結論もデザインと共通するものですね。すべてはユーザのためにあるのです。

 

まとめ:読後に頭がすっきりとまとまる良い本

ということで、以上です。

読後に頭がすっきりとまとまる良い本でした。文章のルールということに関しては網羅的に書かれていますので、基礎から勉強し直したい、という人にはとても良い本です。

最初に書いた通り、もともと読み始めたのはボランティアをしていたNPOで報告書的な文章を書く機会があったためだったのですが、読み進めていくうちに、当時の本業におけるメールや、SNS・ブログなど、自分が文章を書く場面すべてを省みることになりました。

仕事においても相手を思い遣った文章が書けるかは非常に重要です。最近ではWeb系の会社に限らず、メールやチャットなどの文字によるやりとりを基本として仕事が進んでいく場面は増えています。極端な場合、相手の顔を知らずに文字だけのやりとりで進む仕事もあるでしょう。そのようなメール・チャット文化の環境においては、文字のやりとりのうまさが、仕事のできる・できないに直接影響を与えてしまいます。実際仕事のできる人のメールやチャットはとても分かりやすく、迅速です。仕事は基本的に相手との会話のキャッチボールで進んでいくものですので、ただただ豪速球を投げることが良いのではなく、相手が受け取りやすい場所に投げることが求められます。挨拶、用件、期限、前提…などなど様々な要素を過不足なく適切に組み立てられた情報が届くととても仕事は進めやすいということですね。

たかが仕事のメールやチャットのために何も作文的なルールを勉強する必要はないだろう、と感じる人もいるかもしれませんが、そうした作文的なルールの一つ一つがどのように読者の役に立つのかを理解することで、相手が求めている情報について考えるための視点を身につけることができます。仕事にも絶対使えます。
個人的にも最近仕事をもう少しスピードアップしたいなーと思っていたところなので、仕事相手に投げるメールの書き方をブラッシュアップしてキャッチボールのスピードを早めていきたいなと思います。

 

『数学文章作法 基礎編』に興味を持った方にオススメの本

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

 結城浩『数学文章作法 推敲編』

 本記事で紹介した『数学文章作法 基礎編』の続編にあたる作品です。実践編ともいえる内容ですね。本書の内容を元に自分の文章を実践レベルで見直したいと考える方はこちらの本も合わせて手にとることをおすすめします。

古賀史健『20歳の自分に受けさせたい文章講義』

本記事で紹介した本と同様に文章術に関する書籍です。 ベストセラーとなった『嫌われる勇気』の著者である古賀史健さんによる文章術の本。古賀さんは文章を書くという作業を頭の中にあるものを文字という形に「翻訳する」作業と捉えます。文章を書くことが苦手だと感じている方を特に対象としており、非常に優しく分かりやすく解説されています。