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レビュー『<子ども>のための哲学』哲学するとは思想を知ることではなくひたすらに考え続けること

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レビュー『<子ども>のための哲学』哲学するとは思想を知ることではなくひたすらに考え続けること

こんにちは。daisuketです。本日は講談社現代新書から出版されている永井均さんの『<子ども>のための哲学』の感想を書きます。

内容紹介

<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス

<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス

  • 作者:永井 均
  • 発売日: 1996/05/20
  • メディア: 新書
 

 

まずはあらすじ紹介からの引用です。

自分ひとり裸一貫で哲学することのすすめ。なぜ悪いことをしてはいけないのか。なぜぼくは存在するのか。この二つの大問題に答えはあるだろうか。脳に汗して考え、自分の答えを見つけるプロセスを語る。

 

哲学をするとは、誰かの思想を消費することではなく自分自身が疑問に思うことを徹底的に考えることであるということを伝えるのが本書の目的。
著者自身の哲学のプロセスを開示することによって、その思考内容ではなくプロセスを各自が行うことが必要であることを説きます。

<子ども>のための哲学とは何か?

タイトルの『<子ども>のための哲学』は、「子ども向けの哲学」ではなく「子どもが考えるような問いについての哲学」ということです。

 

子どもは日々たくさんの疑問を感じながら生きています。親や周りの大人たちに「なぜ?」「どうして?」と問い続け、自分自身でもあれこれと考え続けます。多くの人は自分もかつてそうした子どもの一人であったことを忘れ、社会という枠組みの中で疑問を疑問と思わなくなり、そうして大人になっていきます。(著者の表現では「大人になるとは、ある種の問いが問いでなくなることなのである」)

 

本書が言う「子どもが考えるような」とは、まさにそうした子ども時代に「なぜ?」「どうして?」と考えるような問いを、そのまま考え続けることを指しており、そして哲学とは本来そうした「自分なりの問いを考え続けること」だけが必要要件なのであり、むしろそのことでしか哲学はしえない、と言います。哲学をする人とはそのような子どもが考えるような問いを考え続ける人のことであり、問いを問として持ち続けているという意味で大人にならならず子どもで居続ける人のことです。だから本書のタイトルの子どもに括弧がついているのは、身体的年齢的なものを指しているのではなくあり方を指すための表現です。

 

哲学書を読んで他人の問いを考えた課程や結果を知ったとしても、それは自分が哲学をすることにはならないし、思考の流れや型としての思想は哲学とは相容れないものである、と。

 

つまりいかなる哲学書を読んでも自分が哲学することはできないので、哲学書というのは本質的に矛盾を抱えた本ということになるのですが、本書の価値はどこにあるかというと、本書で語られている「問い」が、多くの人が子ども時代に自分なりに考えた経験のあるような問いであるということではないかと思います。だからこそ、著者の哲学思考を単に眺めるだけでなく、自分なりの考えとの対比やズレなどを楽しんだり、自分の思考を進めたりということにつなげることができるのです。 

「なぜぼくは存在するのか」と「なぜ悪いことをしてはいけないのか」

本書で扱われる問いは大きく2つです。

 

①「なぜぼくは存在するのか」
②「なぜ悪いことをしてはいけないのか」

 

どちらも疑問に感じたことのある人はいるのではないでしょうか。私自身も考えました。というか今でもたまに考えます。

 

個人的に本書を読んで面白かったのは①の自我に関する問い。同じような疑問は自分自身も感じてきたが、思考過程や結果がことなるというよりも問いの立て方や疑問の向かい方自体が著者とは異なるということを知って面白かったです。著者は「自分」という存在の唯一性や特殊性に関しての疑問を突き詰めているのに対して、私の場合は他者性や他者と自己との共通性と境界のような部分に関心があり、その関心は哲学というより文学世界を知ることで自分なりの答えや納得をつくっていったように感じました

 

水面に浮かぶ人と沈みがちな人

おとなになってもこのような問いを考え続ける、つまり哲学をする人と、そうではない人の違いについても面白かった。ウィトゲンシュタインが哲学を潜水にたとえたこと(人間の身体は、自然にしていると水面に浮かび上がる傾向がある。哲学的にしこうするためには、その自然の傾向に逆らって、水中にもぐろうと努力しなければならない)を例に、「人間の中には、自然にしていると、どうしても水中に沈んでしまうような特異体質のやつがいるんじゃないか」と言います。これはもうその通りなのではないかと思います。

 

水面に浮かびがちな人にとっての哲学とは、水面下のようすを知ることによって水面生活を豊かにするものであり、それを知ることで人生に深みが出たり、面白みを感じたりします。一方で、水中に沈みがちな人にとっての哲学とは、水面にはい上がるための唯一の方法なのであるという指摘を読み、膝を打ちました。私はまさに沈みがちな子どもであった、と。今でこそそれなりになんでもないような顔をして水面に浮かぶ術を身に着けたように思いますが、油断をすると沈んでしまうような瞬間はありますし、かつて沈んでいた記憶はいつまでの残っています。

 

水面に浮かんでいる人に水中の様子を紹介したり、水中探索のおもしろさを味わってもらおうとする入門書ではなく、水中に沈みがちなひとに水面にはい上がるためには「自分で考えるしかない」という至極全うなことを示してくれる一冊です。

 

<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス

<子ども>のための哲学 講談社現代新書―ジュネス

  • 作者:永井 均
  • 発売日: 1996/05/20
  • メディア: 新書
 

 

本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本やサイト

最後に本書『<子ども>のための哲学』を読んだ方や興味を持った方にオススメの本屋サイトをご紹介します。

 

NHK『Q~こどものための哲学 [ 小学3~4年]|NHK for School』

www.nhk.or.jp

1つ目は本ではなくWebサイト。NHKが制作している動画コンテンツで、タイトルは本書とほぼ同じです。「なんで勉強しなきゃいけないの?」「良いこと、悪いことってなに?」など、各回一つの子どもが考えるような問いを取り上げ、考えていきます。視聴している子ども自身に考えさせるための問いかけや間を大事に制作している印象があり、なかなかよく作られているように感じます。

 

ヤンネ・テラー『人生なんて無意味だ』

人生なんて無意味だ

人生なんて無意味だ

 

 タイトルの通り、人生の意味について虚無主義的な態度で臨むデンマークの児童書。「人生の意義や意味とは何か?」という問いも子どもの哲学の代表的な問いの一つではないかと思います。人生に意義があること、自分や人を大切にすべきこと、勉強やその他ありとあらゆる努力をして成功をめざすべきこと。そういったことを押し付けがましく説くのではなく、無意味であるという問いを共有し、それを考えることはどういうことかを一緒にたどるというのは、非常に真摯な態度だと思うのです。むき出しなまでの残酷さであるがままを表現することは優しさなのではないかと感じた一冊


中島義道『人生を「半分」降りる―哲学的生き方のすすめ』 

 「死」についてどう考えるか、というのも哲学的な問いとして大きなものです。中島さんはむしろその問いだけが意味のあるものであり、その他のことにかかずらわっている暇はないと言います。『<子ども>のための哲学』で言えば、哲学とは「水面」であるところ社会生活を送るために、水面に浮かび上がる努力として行う側面があるわけですが、中島さんはそうではなくむしろ水面下で生き続ける姿勢を貫くことを選びます。そのことが自身にとっての不利益であったとしてもそれを自覚して生きるというあり方を提示します。


仲正昌樹『いまを生きるための「思想」キーワード』 

 『<子ども>のための哲学』によると、哲学と思想はまったく異なるものであり、「ある時点で切断された思考は思想に、つまり哲学することと無縁な人の鑑賞物に、変わるのだ」とされ、哲学することを目的とすれば思想とはまがい物であるような扱いを受けていますが、<大人>として社会生活を送る人や、<子ども>から<青年>に、そして<大人>へと成長することを望む人にとっては思想から指針や参考となるもものはたくさん得られるでしょう。いろいろな思想書が数限りなくありますが、入門編としては仲正先生のこちらの書籍が抜群に面白くてオススメです。「正義」や「善」、「自由意志」といったキーワードを現代社会の中での意味合いや文脈とともに解説してくれます。

 

プラトン『ソクラテスの弁明』 

ソクラテスの弁明 (光文社古典新訳文庫)

ソクラテスの弁明 (光文社古典新訳文庫)

  • 作者:プラトン
  • 発売日: 2013/12/20
  • メディア: Kindle版
 

 西洋哲学の祖とも言うべきソクラテス、プラトンもやはりオススメ。「知とは」「正義とは」「善く生きるとは」というような問いについて扱われます。難しそうなテーマですが対話形式で進んでいくためとても読みやすいです。有名な「無知の知」について、それが実際にどういう態度であるのか、本書で改めて読んで感動しました。