淡青色のゴールド

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書評『ソーシャル・ファシリテーション』ソーシャルセクター人材の必須スキルセット

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書評『ソーシャル・ファシリテーション』ソーシャルセクター人材の必須スキルセット

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事は『ソーシャル・ファシリテーション』の書評記事です。社会課題の解決は自分ひとりだけで進められるものではありません。地域のさまざまな方とのコミュニケーションを上手くとりながらともに社会をつくっていくために、どのような視点やスキルを持ち、どのような働きかけを行えば良いのかを「ソーシャル・ファシリテーション」という概念で説明する本です。

 

 

内容紹介

本書はタイトルの通りファシリテーションについて論じた本ですが、ファシリテーションを単なる組織内の会議術という意味だけではなく、コミュニティや社会全体の中での関係性に働きかける「ソーシャル・ファシリテーション」という視点の持ち方を提示する本です。
通常の、というか狭義の会議術としてのファシリテーションや組織内を対象としたものに意味がないのではなく、それらの狭義・広義の幅をファシリテーターとしての視点や視野の持ち方と捉え、特徴を理解した上で場に応じて使い分けをすべきだという視点は至極真っ当です。狭義のファシリテーションからコミュニティや社会の関係性に働きかける広義のものまで定義や解説、事例が簡潔にまとまっていて分かりやすいので、単純にファシリテーション入門本としてもオススメできます

Amazonの内容紹介から引用します。

職場や地域、学校などでの日常的な話しあい、さらに大きな社会的課題の解決に向けた事業や組織の支援・促進において、どのような知恵や技術が必要になるのか。本書では、従来のファシリテーションの基本を抑えた上で、〈社会的課題に取り組む〉あるいは〈支えあいの関係を育む〉ような場において、〈人々の関係や共同行為を支援・促進する〉働きを「ソーシャル・ファシリテーション」と定義し、その技法を実際の成果例をもとに解説。ファシリテーターが陥りがちな落とし穴と回避策、オンラインでのポイントも紹介。ともに育つ場と社会を育むための、実践的ガイドブック。

本書の構成

本書は以下のように構成されています。

序 章 ソーシャル・ファシリテーションとは何か
1 ファシリテーションとは?
2 ソーシャルとは?
3 ソーシャル・ファシリテーションとは?

第1章 ファシリテーションと話しあい
1 あらためて、ファシリテーションとは何か?
2 そもそも、話しあいとは何か?

第2章 話しあいをファシリテーションする
1 話しあいの場をつくる
2 話しあいの場をホールドする

第3章 ソーシャルなファシリテーションへ
1 ソーシャル・ファシリテーションへの挑戦
2 ソーシャル・ファシリテーションに必要な働きかけ

第4章 ソーシャル・ファシリテーションの現場
1 地域づくり「まちづくりは、対話の文化を広げること」
2 災害復興、防災・減災「足湯ボランティアから、会議のコーディネーションへ」
3 医療・福祉「患者さんの思いを引き出し、主体性を育む」
4 社会教育「学びの連鎖を誘発する市民講座づくり」
5 市民活動「長期的視野で地域と向きあうNPOをサポート」

終 章 「落とし穴」とその対策にふれる
1 ファシリテーションの「落とし穴」
2 「落とし穴」の回避策

基本的な解説から新しい概念の提示、そして事例紹介までと幅広くバランス良く扱っている良書だと感じます。個人的には終章で「落とし穴」についても触れた上で、結んでいる点が親切でもあり、単にテクニック論ではなくあり方を大切にされている姿勢を感じた点が好印象でした。

本書をオススメする人

本書は以下のような方に特にオススメです。

  • ファシリテーションについて基本から学びたい方
  • 協働やコレクティブ・インパクトなどのテーマに関心のある方
  • その他広くNPO等のソーシャルセクターで働く方

『ソーシャル・ファシリテーション』の表紙画像

150ページほどに簡潔にまとまっていて読みやすいです

ファシリテーションの基本的な解説がわかりやすい

本書は後半で組織外の(社会)課題に対しての働きかけを行う視点としてのソーシャル・ファシリテーションという視点を提示します。タイトルにも冠されているソーシャル・ファシリテーションの解説自体が本書の主題であることは確かですが、ソーシャルを冠したファシリテーションとは何ぞやということを説明するために、前半では通常のファシリテーションについても簡潔にわかりやすく説明しています。これまでいくつかのファシリテーションに関する書籍を読んできましたが、わかりやすさという点ではこの本はトップクラスだと感じます。

例えばファシリテーションの基本ステップ(会議等の開始までの流れ)として、大きく3つのポイントで解説をします。

  • 空間のデザイン(人数や椅子の配置の考え方など)
  • オリエンテーション(話し合いの目的や方向の共有)
  • チェックイン(最初に一人一言声を発することの意味)

また、会議中のファシリテーション基本テクニックもわかりやすいです。

  • 発問(答えではなく問いを考える)
  • 可視化(書きながら、見ながら話し合う)
  • 「意見の吟味」を促す

(それぞれ本書の中では大切なポイントや背景など詳しく書かれていますので詳細が気になる方はぜひ読んでみてください)

ソーシャル・ファシリテーションとは何か?

本書ではソーシャル・ファシリテーションという概念を提示するにあたって、働きかけの対象が会社など自組織に限定する意味での<集団としての社会>と、組織外も含めて大きく捉える<共同体としての社会>に分け、さらにファシリテーションの概念の幅として狭義の<話し合いの支援・促進>と広義の<関係や共同行為の支援・促進>という分類を提示します。その上で、この対象軸と、捉え方の狭義・広義の軸をかけ合わせた4象限を提示し、中でも<共同体としての社会>に対して<関係や共同行為の支援・促進>を行うのが本書が提示するソーシャル・ファシリテーションであると解説します。

NPO等のソーシャルセクターで、行政や企業、あるいは地域のさまざまな住民の方との協働、連携事業を経験してきている方ならご自身が普段実施されていることと合わせて理解しやすいかと思いますし、特に最近では社会課題という複雑な背景・要因を持つものに対しては単独の組織による課題解決だけではなく、地域の様々なステークホルダーが集合的に課題解決に取り組むべきであるというコレクティブ・インパクトという考え方も注目されていますが、ソーシャル・ファシリテーションの<共同体としての社会>に対して<関係や共同行為の支援・促進>という定義はコレクティブ・インパクトとも通じる考え方だと感じます。

実際に著者らは日本ファシリテーション協会というNPO法人に所属していた際に東日本大震災の復興支援を行った経験が本書執筆の背景にあるといいます。

筆者らは、被災地での(日本ファシリテーション協会としての復興支援)活動として、「避難所の自主運営」や「仮設住宅でのコミュニティづくり」、あるいは「住民主体の復興計画の策定」などを支援することを想定していた。(中略)地域における小さな話しあいこそが、住民主体の復興の基盤となるだろう。そして、時と場合によっては、「話し合いのファシリテーション」を超えた働きかけーたとえば、ある特定の一人の「こころ」を支えるような働きかけであったり、法律や制度に関する折衝を促すような働きかけであったり―も必要となるだろう。そのように考えていたのだ。そして、多くの仲間と活動を積み重ねていく中で、それは間違いではないと革新するに至った。

個人的に特になるほど、と参考になったのは著者の一人の鈴木さんが熊本地震の復興支援として嘉島町の避難所に行った際に「ファシリテーター」としてではなく「記録ボランティア」を名乗り、担当の町役場の職員さんや住民代表の方からのお話を書き出しながら聞いていき、その質問と可視化の過程にファシリテーターとしての振る舞いを織り込んでいったという事例です。ファシリテーターという名乗りも役職も必要なく、自分が相手とどのように関わり働きかけていくかという姿勢の持ち方に非常に感銘を受けましたし、これこそがソーシャルファシリテーションだと納得しました。

ソーシャル・ファシリテーションに必要なスキルセット

本書の後半では、前半に解説した狭義ファシリテーションの基本を踏まえた上で、社会に働きかけるためのソーシャルファシリテーションに必要なスキルセットを解説しています。通常の会議術としてのファシリテーションの解説本にはなかなか書かれない内容で、本書ならではの視点です。各項目の解説もファシリテーションの基本同様に簡潔に分かりやすく解説されている点が非常に好印象です。詳しい内容についてはぜひ本書を手にしていただくとして、項目と概要だけをピックアップしてご紹介します。

組織に対する働きかけ
 ネゴシエーション(ネットワークなど場への参加を要請する)
 コーディネーション(団体・組織間の連携・協働を促す)
個人に対する働きかけ
 コーチング(対象者が自らの目標やゴールに到達することを支援する)
 メンタリング(主に行動面のコーチングに対して精神面の支援やアドバイスも含む)
個別企画に関する働きかけ
 プロデュース(コンセプトを明確にしプログラムを組み立てる)
 ファシリテーション(企画した場を円滑に推進する)
事業全体に対する働きかけ
 リーダーシップ(めざすところをイキイキと描き出し、みんなをその気にさせる)
 マネジメント(それを確実に達成できるように、PDCAサイクルを回す)

読みながら感じたのはファシリテーターになりたい人にとってのものというよりもNPO等のソーシャルセクターで働く人材にとっての不可欠なスキルセットであるということです。また、昨今の時代状況は先行きの見通しが立てにくいVUCAな時代だと言われますが、このような社会状況においてはどのような状況においても周囲の人と連携し、共同しながら価値を発揮していくことが求められるようになっていくと思われますので、その意味ではVUCA時代のすべての社会人としての基本的な視点、スキルという側面が増してくるのではないかとも思います。

ソーシャルセクター人材にはマルチなスキルが求められる

ソーシャルファシリテーションの基本スキルセットはソーシャルセクター人材にとって不可欠なスキルセットであると述べました。つまりNPO等のスタッフ等ソーシャルセクター人材は本書でいうソーシャルファシリテーションの担い手たるべきだ、と私は感じます。もちろんソーシャルセクターの人材といっても色々あって、例えばNPOスタッフと一口でいっても組織の目的や活動分野、組織規模などにより一人ひとりのスタッフの役割はさまざまではあります。ただ、社会課題・地域課題の解決や市民の社会参加の促進ということがその存在意義にもなっているNPOにとっては社会の中における関係性に広く働きかけるというソーシャルファシリテーションの視点は多くの人に持って欲しいと感じます。また、現実的な問題としてもヒト・モノ・カネといった経営資源が限られているほとんどのNPOでは一人の人材が多くのことを兼務で回していく必要がありますし、兼務で取り組むさまざまな業務の中に地域の他のステークホルダーとの関わりあいが当たり前に出てくることがほとんどです。社会課題・地域課題というテーマを扱う以上、自組織内だけで業務が完結するということには構造上なりにくいのです。

例えば地域での教育に関わっている活動であれば、子どもやその保護者に関わるだけでなく、学校との関係や、塾や習い事等の地域の他の教育プレーヤーとの関わりが必要な場合があったり、地域の住民を巻き込んで地域全体で子どもを育てていこうというコンセプトを掲げるとしたら関わるべき対象は地域全体にもっともっと広がります。さまざまな関わりの中で必要とされるスキルの幅はとても広くなります。

また、例えばNPO等では人員の少なさ等から広報・ファンドレイジング部門といった形で部署名の時点で企業では同じ部署にはなりえない部門が統合されているケースなども非常に多いです。この場合、当然要求されるスキルの幅は広がっていきます。

このようにソーシャルセクターでは必要とされるスキル幅は非常に広いのですが、具体的にそれがどのようなスキルなのかということを分かりやすく解説した書籍はこれまであまりなかったように感じています。本書はその疑問に答えてくれたと感じています。

自分の得意不得意を見極め、コミュニケーションを取ることから

とはいえ、先に挙げた8つのスキルすべてを身に着けたり、均等に伸ばしていくことはそんなに簡単なことではありません。必要なことはすべてのスキルを完璧に身につけるということではなく、自分の得意不得意を見極めて、得意を伸ばしたり不得意を補ったりすることではないかと感じます。そして、不得意を補うという点については必ずしも自分一人だけで考える必要もないでしょう。苦手としている部分についてはそれを得意としている誰かと協力をして取り組んでいくということも必要だと感じますし、そのように自由に発想しながら共にに社会に対しての働きかけを行っていく、という姿勢こそが本書が提唱するソーシャルファシリテーションに通じるものなのではないかと思います。

まずは組織内で本書を読んだ感想を共有しあい、お互いの特性や伸ばしていきたい部分、助けが必要な部分などのコミュニケーションが行われていくとその組織のコミュニティとしての力強さや居心地の良さはグッと良くなると思いますし、それが社会全体に広がっていったらなお良いですので、本書はなるべく多くの人に読んでもらえると良いなと思っています。

『ソーシャル・ファシリテーション』を読んだ人にオススメの本

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

吉田素文、グロービス『ファシリテーションの教科書』

本書でいう狭義のファシリテーション(集団内の話し合いの支援・促進)についてより深く知りたいという方にオススメなのがこちらの本です。特に会議前に考えるべきこととしての「仕込み」の解説が非常に丁寧で、当日の議題の広がりや参加者への問いかけをどのように想定して準備していけば良いのかが初心者にも分かりやすいです。当日のその場の臨機応変さだけではなく事前準備でできることがこんなにあるんだと知れたことはアドリブが苦手な私にとっては勇気の出る本でした。

中野民夫『ワークショップ:新しい学びと創造の場』

『ソーシャルファシリテーション』に推薦文も書いていらっしゃる中野さんの著書。ファシリテーションを実践する場として「ワークショップ」を特に想定されているという方はぜひ一度読むことをオススメ致します。アート系、まちづくり系、自然・環境系など様々な分野ごとの解説も充実しているのでNPO等で実際に活動している方にも参考にしやすい内容です。

青木将幸『オンラインでもアイスブレイク! ベスト50―不慣れな人もほっと安心』

最近ではオンラインの会議やワークショップも増え、ファシリテーションもオンラインで実施する必要性が出てきています。オンラインファシリテーションの本もいくつも出ているのですが、今回は中野さんと同じく『ソーシャルファシリテーション』に推薦文を寄せている青木将幸さんの著書をご紹介します。ワークショップ等を企画される場合には、一人一言のチェックインだけでなく、場をほぐすためのアイスブレイクが必要になることもあると思いますが、本書はオンラインでも実施できるアイスブレイクネタをわかりやすいイラストともに解説しています。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。