本から本へつながる書評ブログ『淡青色のゴールド』

読書家の経営コンサルタントのdaisuketによるブログです。一冊ずつ丁寧に書評しながら、合わせて読むと面白い本をご紹介します。

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NPO支援の仕事をする日々の中で手に取った本たち(2025年12月・2026年1月)

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NPO支援の仕事をする日々の中で手に取った本たち

いろいろな本を読んで生きています。

紙の本、電子書籍、オーディオブック、そして買ったままの本も含めて。趣味で読む本もあれば、仕事に関係するもの、考えたい問いから手に取る本もあります。そんな最近の読書の記録です。

NPOや社会のことを考える中で本を読む方にも、重なる関心があるかもしれません。NPO等に関わる方や、問いを起点とした読書を楽しむ方にとって、何かヒントになる部分があれば嬉しいです。

年末は年間のおすすめ本まとめ記事を書いて、12月分だけの記事は書いていませんでした。別に欠かさず書かなければというものでもないので12月分は飛ばしても良かったのですが、年末年始のまとまった休みに何を読もうかなという考え方をする部分もあるのでせっかくならということで2ヶ月分まとめてお送りします。

 

読んだ本

『シッダールタ』(ヘルマン・ヘッセ著)(高橋健二訳)

ヘッセの作品としては『車輪の下』や『デミアン』と並ぶ有名作かと思いますし、好きな・影響を受けたヘッセ作品として挙げる方も少なくない作品ですね。(確か宇多田ヒカルもおすすめ作品として挙げていたような記憶があります)

釈迦の出家以前の名、シッダールタの名を冠した主人公の話ですが、主人公シッダールタはあくまでも釈迦を題材にした架空の人物なので史実としての釈迦からは自由にシッダールタの人生や内省が描かれていきます。悩みや苦しさと向き合いながら内省が深まっていく人生を描くのはヘッセの真骨頂という感じですが、本作品では東洋哲学的な苦難と悟りとが詩的に、リズミカルな文章で表されていて、これは翻訳の仕事も素晴らしいのだと感じますが、ヘッセの最高傑作の一つといえるのではないかと思いますし、インドはもちろんのこと、世界中で宗教を問わずに愛されてきたのも頷けます。

『傷つきやすいアメリカの大学生たち 大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体』(ジョナサン・ハイト、グレッグ・ルキアノフ著)(西川由紀子訳)

社会はなぜ左と右にわかれるのか』のジョナサン・ハイトが共著者の一人になっており、ポリティカル・コレクトネスが先鋭化したアメリカの大学で何が起こっていて何が問題なのかを論じた書籍です。誰かの発言の言葉尻を捉えて吊し上げるキャンセルカルチャーは日本においては芸能関連のニュースであることが多く、それでも歪な感じを受けていましたが、アメリカでは大学において教職員への否定や、講演会等への反発につながっており、そうした行き過ぎた状況や学生を取り巻く環境は学生を脆く弱い存在にしてしまっているという指摘とその構造を捉え直すという内容です。

本書ではポリティカル・コレクトネスやマイクロアグレッションの行き過ぎた対応について取り上げられるのですが、著者二人も本書内で自ら述べている通りリベラル側の人間であり、これまで構造的に抑圧されてきた弱者への配慮やその当事者が権利や尊厳を守るための訴えがあること、社会の構造に気づきやすくする発想があることの意義は否定していないし、私もそれは同感です。ただし、現場の運用において否定されたり非難される余地を排除するために色々なことが拡大解釈されることによって、本来の思想的意義とはズレた本質的でない過剰な反応が生まれているにも関わらず、そのことを否定するとPCやマイクロアグレッションそのものを否定しているように捉えられてしまうため声を上げることができないという負の循環に陥ってしまう、と。

読みながら難しいなと感じたのは、マイクロアグレッション等の指摘がなされる場面では「(傷つける)意図の有無」ではなく、被害者側の「(傷ついたという主観の)結果」が重要になっているという話。実際マジョリティ側の抑圧的な言動は社会的な構造や環境の中で無意識に生まれてしまっていることが問題でそのことに気づかせるためのものなのだから意図の有無よりも結果を重視するというのはそもそもがそういうものだったのだけど、その対応だけが表面に出ると、むしろ意図としては逆に寄り添ったり配慮するものだったとしてもそこのズレを解消するチャンス、対話する機会が失われてしまうような場面が多くなっていることが、善悪二元的な発想の大きな問題点なんだと思います。

一方でこの「結果」重視の発想は人間関係だけでなくさまざまな分野での発想的トレンドになっているように感じます。政策や社会的プログラム、あるいはさまざまな事業において、アウトカムやインパクトを重視するという発想もそうでしょう。社会を良くする「つもり」がいくらあっても実際的な成果をあげられないものではなく、しっかりとアウトカムやインパクトという変化を生み出せるかどうか、ということが意図よりも重要でありそれを示せるようにしましょう、と。確かに社会課題や経済の状況などからそうした文脈が重視されることはその通りだけど、市民の社会参加やあるべき社会像のことを考えると、どのような「つもり」で参加できているかやプロセスに重きをおく発想が抜け落ちてしまうとそれは危ういよな、と感じることと、本書で人間関係の捉え方において警鐘を鳴らされていることにも共通点があるように感じて、いろいろ考えていきたいなと思いました。
なかなかの文量ですが、ポリティカル・コレクトネスやキャンセルカルチャー、分断等に関心のある方は一読をおすすめします。

『愛される書店をつくるために僕が2000日間考え続けてきたこと』(ハヤシユタカ)

有隣堂書店のYouTubeチャンネル「有隣堂しか知らない世界」のプロデューサーが開設から現在までの軌跡を記した一冊。

私もチャンネル登録していますが、知ったのは割と最近で、キャラクターやチャンネルのストーリーや企業YouTubeの中での位置付けなどはあまり知らなかったので、なるほどそうだったんだなと楽しく読みました。YouTubeだけでなくSNSも含めて所属する組織の情報発信や広報を考えていかねばならないけど、何をどう考えたら…という方にはおすすめします。安易にキャラクターを作りましょう、ということではなく、キャラクターを作る作らないに関わらず、そして現実問題としてどこまで投資としてのコストをかけられるかも置いておくとしても、SNSのようなユーザーが楽しんでいるところに組織の情報を入れ込んでいくような場での発信を考える際に絶対にブラしてはいけない、「ユーザーが見ていて楽しいコンテンツ」という当たり前の話を突きつめることについて考える機会にできるかと思います。

チャンネルと有隣堂の取り組みはいち読書好き、書店好きとしてこれからも楽しみにしています。

『寄付白書 2025』(寄付白書発行研究会)

発行クラファンのリターン品としていただきました。仕事で寄付に関わる人間には言わずもがなではありますが必読の一冊。

今後しばしば仕事で参照していくのは後半のデータ部分なんですが、第一部の読み物パートが読みやすくて良いですね。テーマごとに執筆者が変わりますが読みにくさもなく、するすると読めます。発行に関わった方に編集にかなり気を配っていたとお聞きし、やはりそうだったんだなと納得でしたし感謝の気持ちが強まりました。

仕事柄ほぼ毎日寄付について考えていますが、こうして色々な角度から寄付に触れるとまた新たな考えや想いが浮かんでくるものです。寄付ってなんなんだろうなぁ。読み進める中でいくつか追加で分析したい観点もあったのですが、クラファン出資者とか有資格者限定とかで良いので分析用のデータ公開して欲しいです。

『戦争ミュージアム 記憶の回路をつなぐ』(梯久美子)

全国各地にある日本の戦争に関わる資料館、記念館、博物館などを訪れそこで見る展示品や学芸員さんや当事者の語り部さんからの話を聞いて感じたことをまとめたノンフィクション作品。

個人的に戦争に関わる本や日本の近現代史に関わる本はなるべく読んでいこうとたまに手に取るようにしていたがそのようにして関心を持っているつもりであった自分を恥じる程、そもそも施設の存在から知らなかったものが多かったです。中にはこれまでに住んできた場所にわりと近いものもあったのに。

だからこそミュージアムとしてそこに記録が残り続け、公開され続けていくことには大きな意義があるのだと思う。戦争に関わるミュージアムというと原爆や空襲などの「被害」の記録のイメージが強いですが、毒ガス兵器開発(大久野島毒ガス資料館)や少年兵たちの訓練施設(予科練平和記念館)などの日本の「加害」の文脈について考えるものや、加害と被害の両方が絡み合った満州の生活について(満蒙開拓平和記念館)など、さまざまな側面があることに改めて思いを馳せました。私は祖父がシベリア抑留帰還者なのですが、子どもの頃に亡くなった祖父本人からも他の家族からも祖父の体験についてはあまり聞いたことがなく、帰還港が舞鶴に統一されていたことも知りませんでした。いつか舞鶴引揚記念館に行ってみたい。

また、仕事柄ファンドレイジングに関わっているので各施設の設立や維持に関わる寄付のあり方についても色々考えながらの読書になりました。

『99%のためのフェミニズム宣言』(シンジア・アルッザ、ティティ・バタチャーリャ、ナンシー・フレイザー著)(惠愛由訳)

知人との読書会で読んでいた『孤独と居場所の社会学』で引用されていて気になっていた本。

一部のエリートが男性と同等の活躍をすることを目指す(リーン・イン)やフェミニズムとしてはおそらく最も主流で歴史の長い法的な平等を目指すリベラルフェミニズムでは不十分である。なぜならそれらは既存の社会の隣接する構造的な差別や抑圧を無視してしまうからであり、それでは社会を変えられないということを主張します。真に変えるべきなのはさまざまな抑圧を構造的に生み出してしまう資本主義そのものであり、それを変えていくことは一部の女性のためのものではなく1%の富裕層以外のすべての人の公正と自由を目指すものである、と。

仕事で女性の就労やキャリアの課題に関わる機会があった際に思い出して読んでみたのですが、別の角度から考えていたポスト資本主義のあり方や意義に重なっていくところもあって面白かったです。

『新しい世界を生きるための14のSF』(伴名練編)

伴名練編のSFアンソロジー。「SF単著を刊行していない作家」という条件に当てはまる比較的若いSF作家の作品を集めていて、AI・歴史改変・バイオテクノロジーなど各SFサブジャンルからは被りなく選んで、しかもそれぞれのサブジャンルを彩ってきた日本SFの作品の歴史も解説付きという、どこから見てもSF愛に溢れたアンソロジー。まぁまず800ページという物量感から愛が伝わってきますよね。あとがきで述べられている通り入れられなかったサブジャンルはいくつもあるんだろうし、SFサブジャンルってきれいに分けられるものでもないから難しいけど、でもSFに興味のある方にSFという宇宙の広大さを知ってもらうには良い本かと思います。

作品はどれも面白いものばかりで日本SFの未来の明るさを感じましたが、「ショッピング・エクスプロージョン」は小学生のときにたまたま手にして恐らく私が初めて読んだSFであろう椎名誠『アド・バード』を思い出して感慨深かったです。

ちなみに本作に「回樹」が収録されている斜線堂有紀さんについてはつい先日同作品を冠し続編「回祭」も収めたSF単著『回樹』の文庫版がでたばかりです。

『スモールビジネスの教科書』(武田所長)

年末年始に特に読んでいたのが「稼ぐ」に関わるテーマ。昨年、個人事業だったものを法人化したタイミングでもあり、自分自身の稼ぐ力というか成果を出す力について考え直したいという点と、あとは地域に根ざしたNPOの活動(とその支援)について考えるときに、地域での小さい事業者やそこで働くスタッフの生活や稼ぐ力というものをちゃんと考えていかないと立ち行かないなと感じることが多く、改めて稼ぐについて向き合ってみようということから関連しそうな本をまとめて読んでみようとしています。その中の一冊でaudibleで見かけて聞いてみたもの。

スモールとはいってもいわゆる小商い的なものではなく、大企業等の成功しているビジネスモデルから、それらが効率その他の問題から取りこぼしているターゲットや領域に狙いを定めて成り立たせるか、という話。個人的には若干考えたかった話とは違っていたのですが、確かに「稼ぐ」ということをちゃんとできる人というのはこういう発想なんだろうな、私はやはりビジネスのセンスというか勘のようなものはズレているんだろうなぁと思いながら読みました。「稼ぐ」は難しい…。

『新・貧乏はお金持ち 「雇われない生き方」で格差社会を逆転する』(橘玲)

「稼ぐ」について改めて考えようの固め読み2冊目。

日本の経済・社会的な状況や制度の話を読み物的に色々な観点から触れつつ、個人が国の仕組みを活用して自由に使えるお金を増やしていくにはどうしたら良いかが解説されます。橘玲さんの本も一冊ぐらい読んでみたいなと思っていたのと、主要なテーマとなっているマイクロ法人に関してはちょうど個人事業を法人化したタイミングだったこともあってちょうど良いかなと手にしてみました。

正直読み物的なところはちょっと冗長というかその話要る?という部分も多かったんですが、マイクロ法人の税制の日本的な特徴を改めて理解できたのと、法人会計と個人の家計を連結して理解するという考え方、そして財務諸表の勉強をもう一度やり直そうというモチベーションを湧かせてくれたのは収穫でした。

『ひとりコンサルタントが年商5000万円稼ぐ法 「勉強会」を武器にする!』(山内栄人)

「稼ぐ」について改めて考えてみようの固め読み3冊目。

ひとりコンサルとしての自分の社会的成果を大きくするのに勉強会的なスキームの可能性を考えたくて読んでみました。5000万円稼ぎたい訳ではないのでそもそもがズレている気はしますが、著者の取り組んできたようなことに自分はあまり熱意をもってそこまではできないなとかやりたくないなと感じるものも結構あって、激しく内向性強めの自分には稼ぐという観点から見るとコンサルという職が基本的にそんなに合ってないんだよなと再確認できたことと、とはいえ稼ぐ視点での勉強会運営の力の入れどころと考え方は参考になりました。何目的でやるのかは別にして自主事業としてのスクール的なものは引き続き検討してみたいですし、それとは別に研修設計や講師というものについての勉強もそういえば今年はしたいんだった、と感想を書きながら思い出しました。勉強したいこと考えたいことばかりで忙しい。

『決算書がスラスラわかる 財務3表一体理解法』(國貞克則)

「稼ぐ」について改めて考えてみようの固め読み4冊目は新卒の頃に読んだ本の再読。

当時も書いてあることは頭ではわかってはいたと思うのですが、当時は所属部署や担当サービスのPLすらも見たことないぐらいの時期だったからまったく面白さも感じられず、実感もなく実践経験もなくで、そのまま記憶も薄れていったんだろうなぁ、というぐらいあまり覚えておらず新鮮な気持ちで読みました。

さすがに今読むとよく分かる、というか感動するレベルのわかりやすさですごかったです。続編や新版などが続々と出ているベストセラーなのも納得。とりあえず自分のひとり会社の財務諸表3表をちゃんと作ってみたいし(会計システム上には自動生成されてるけど普段は自作の収支計算書しか見てなかった)、会計の勉強ももう少ししてみても良いかも、と思えて読み直して本当に良かったです。

『昭和史 1926‐1945』(半藤一利)

言わずと知れた名著。長いこと読まねばと思っていた本をやっと読みました。

戦前の時期については半藤さんのものも含めて他の本でも何度も読んできたことなので復習という感覚が強かったですが、流石の語り口です。日本の戦争の歴史を学びたいという方には外せない一冊でしょう。

『昭和史 戦後篇 1945-1989』(半藤一利)

戦前編と合わせると1100ページ超。読み通すのに半月ちょっとかかりましたが、ずっと読みたいと思っていた本を読めてよかったです。

戦後史についてはあまり知らないから学ばねばという意識が強くて読んだのですが、細かいところはともかく概ねの流れは知っていて、なんというか大学のときにちゃんと勉強してたんだなと当時の自分をちょっと見直しました。

それでも戦前からのつながりでどの人物がどのような文脈や意図を持っていたのかなどは今回改めて昭和史全体を通して読んだことでおさえ直せたのは良かったし、雑誌編集者として戦後昭和史のメディアに長く関わってきた半藤一利氏ならではの視点として経済や文化・生活との横断的な視点での”語り”として読めたのは色々な気づきや刺激があって面白かったです。

日本の政治状況も大きな動きがある中で、目の前の言動だけでなく、歴史とのつながりで大きく捉えるには読んでおきたい一冊ですね。

『凡人のための地域再生入門』(木下斉)

「稼ぐ」について改めて考えてみようの固め読み5冊目はひさびさに木下さんの本にしてみました。

地域で事業を作る、稼ぐということの背景にある地域の構造的課題、特に補助金の問題などは、木下さんの他の著作でも読んできていましたが小説形式ということでより理解しやすかったですし、実際こういう人いるよなぁという登場人物が多かったです。

私自身も地域の仕事に関わることがしばしばありますが、本書に登場するような”名ばかりコンサル”と同列にはなりたくないものです。

『教養としての「会計」入門』(金子智朗)

「稼ぐ」について改めて考えてみようの固め読み6冊目。

評判通りのわかりやすい会計入門書でした。先に『財務三表一体理解法』を再読していたので、前半の財務書評の解説については復習という感じでしたが、先に『一体理解法』を読んでいて良かったです。この本だけでもわかりやすくはあるのでしょうが、やはり『一体理解法』の一から事業を起こして何も記載されていないゼロの状態からスタートして、事業上の動きを一つずつ財務諸表上で捉えていくというのはわかりやすさの質が違うなと思います。

後半の財務指標の考え方などは『一体理解法』よりも詳しくなるほどと感じる部分がありましたし、最後の章で管理会計についても入門できたのは良かった。次の会計の勉強に進むとしたら管理会計だな。

『おいしいごはんが食べられますように』(高瀬隼子)

芥川賞受賞当時バタバタしていて読み忘れたままになっていた作品をやっと読みました。良かった。

「おいしいごはんを食べること」は幸せというものを思い浮かべるときにしばしば欠かせないものとして出てくるでしょうし、食が幸せの一部になっている人も少なくないし、逆に食が欠けていること不足していることには幸せとは逆の何かを連想させるようなところがあると思います。それこそ貧困問題だったり。

一方で現代社会の目まぐるしく、そして楽しみや刺激が無限に存在する生活の中で、「おいしいごはん」への感覚や関心が薄い人というのはたくさんいますよね。実際知り合いでも何人も思い浮かびます。そして社会的には「おいしいごはん」イデオロギーが強い中で、そういう人が窮屈や違和感を感じて過ごしている場面というのもたくさんあるのだろう。

でも、どうなんだろう。趣味や嗜好が多様化し、個人化が進んできて、食うに困ることもありがたいことに少なくなっている社会の中では「おいしいごはん」は旧態依然としたイデオロギーとして追いやられて、趣味嗜好のひとつに相対化されるべきものなんだろうか。食というものはもう少し私たちにとって重要な何かのような気もする。

例えばこども食堂などの取り組みが提供しているものは本作の主人公が欲していた「一週間食べなくて済むサプリ」の代替機能としての食(つまりは栄養)だけというわけではないのではないか。まさに「おいしいごはんが食べられますように」はみんなの願いであっても良いような。食にしろ仕事にしろ生きた心地、生きがいを感じる瞬間や関係というものが大事で、それが現代のありふれた私たちの生活の中には不足している、してしまうということだろうか。

ネットで感想などを見ていると人間関係の歪さとかいじわるとか、その辺りに焦点を当てた感想が多くてなるほどと思ったんですが、個人的にはそこは良い意味でどうでも良かったというか素通りできてしまったかな。後味が悪いという感想もよく見かけたけど、その点も評判ほど悪く感じなくて、なんというか私の人間に対する視線がそもそもいじわる寄りに捻くれているからなのかなとか、みんな周りに期待しすぎなんじゃないとか思いましたが、そんなところも含めてあれこれと思考が飛んだり感想の幅が広いのは良い芥川賞作品ですね。

『生きるとは、自分の物語をつくること』(小川洋子、河合隼雄)

「物語」は今年少し強めに関心を持ってみようかなと考えているテーマの一つ。まずは導入ということでこちらの本から。

何の気なしに手に取りましたが河合隼雄さんの最後の対談本で、しかも途中で終わってしまっていたものだったのですね。「次回の約束」になっていた『ブラフマンの埋葬』を題材にした会話はぜひとも読んでみたかったので残念です。

物語というものが持つポジティブなパワーについては既に学んでいたり実感している部分もあるのでそういう意味では心理師としての河合さんのいう物語の効用についてはまぁそうだよね、という感じで、むしろ小川さんの物語ることに対しての使命感のような感覚や創作についての感覚が面白かった

今後探っていきたいのはむしろ物語の力が持つ負の効能や影響面について。それがあったとして物語の効能を使わないということはそもそものホモサピエンスとしての認知の構造としても無理だと思っているのですが、考えどころや工夫のしどころについて色々な観点から考えてみたいです。

買った本

『ならずものがやってくる』(ジェニファー・イーガン著)(岩崎由依)

札幌のお気に入りの古書店で気になって購入したもの。

『貧しき人びと』(ドストエフスキー著)(木村浩訳)

しばらくひさびさにドストエフスキー読みたいなという気持ちがあって、何読もうかなーと考えていたのですが、たまたま古書店で出会ったので未読だった処女作のこちらになりました。

『黄色い家(上・下)』(川上未映子)

単行本が出たときから気になっていた作品だったのですが、おそらく手元に残しておきたい本になるだろうなと思って文庫化を待っていました。

『精選日本随筆選集 孤独』(宮崎智之編)

平熱のまま、この世界に熱狂したい』がとても良かった宮崎智之さん。Xでもフォローしていて文学としてのエッセイ自体を盛り上げようという熱量が素晴らしいのですが、そんな宮崎さんが力を込めて編んだ本ということで。

『コミュニティを実践すること』(宮内泰介編)

コミュニティに関わるテーマの本を読んでいる読書会の対象本として購入。いま読んでいます。

『AIに選ばれ、ファンに愛される。』(佐藤尚之)

ファンベース』のさとなおさんの新著。AIについても考えたかったテーマだったのでさすがに良いタイミングで出すなぁという感じ。早く読みたいけど本が渋滞していてなかなか読み始められずにいます。

『社会学の考え方(第2版)』(ジグムント・バウマン、ティム・メイ著)( 奥井智之訳)

細々と続けている社会学を勉強しようキャンペーンの一貫として。いつ読めるかしら。

『百鬼園随筆』(内田百閒)

宮崎さんの随筆アンソロジーの目次を眺めていて久しぶりに百閒先生もしっかり読みたくなって古書店で見つけたこちらを購入。

『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(花田菜々子)

前々から気になっては、いや別に読まなくてもいいかな、と何度も棚に戻していた本だったのですが、ついに買いました。中身と関係ないですが河出文庫にたまにあるクソ長タイトル本、好きです。

『責任と物語』(戸谷洋志)

昨年読んだ新書の中でも特に良かった『生きるとは頼ること』の戸谷洋志さんの著作。責任、物語と関心テーマともぴったりだったので購入。

『ハンス・ヨナスの哲学』(戸谷洋志)

同じく戸谷洋志さんの著作。『生きるとは頼ること』で解説されていた哲学者の中で最も興味を引かれたのがハンス・ヨナスでした。楽しみ。

今月のカフェ読書

cafe BEAN's

cafe BEAN'sの食事と本の写真

cafe BEAN'sの外観の写真

桑園駅から少し歩いたところにあるcafe BEAN'sさん。大正時代から建っているという歴史的建造物で営まれる古民家カフェです。高い天井と雰囲気のある照明やインテリアなどでとても素敵な空間です。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。