淡青色のゴールド

経営コンサルタントのdaisuketによる書評や読書についてのブログです

書評『NPOのためのマーケティング講座』NPO広報・マーケ・ファンドレイジング担当者の必読書

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書評『NPOのためのマーケティング講座』NPO広報・マーケ・ファンドレイジング担当者の必読書

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事はNPOマーケティングの第一人者、長浜洋二さんによる『NPOのためのマーケティング講座』の書評記事です。NPOでマーケティングに関わる方、情報発信や広報、ファンドレイジングなど関連する業務に携わる方はもちろんのこと、直接普段の業務でマーケティングに関わらない方でもNPO経営に関わる方にはぜひ一度読んでいただきたい本です。また、企業等でマーケティングに関わっており、これからNPOに関わっていきたいと考えていらっしゃる方にもオススメです。
なお、本記事は元々は2014年10月(本書の発売当初)に当時の私のブログに公開していた記事です。書評記事はこちらのブログに統一することにしたため、移設し、合わせて多少の加筆修正を行っています。

 

内容紹介

企業に勤める傍ら、NPOマーケティング研究所の代表としてNPOのマーケティングに関する知見やアメリカのNPO情報の紹介をしているブログ「飛耳長目」を運営している長浜さんが、これまで発信されてきた知見の集大成的な本を出版されました。※

先日日本財団ビルで開催された出版記念セミナーにも参加して直接お話を伺うこともできましたので、その感想も交えつつ感想をまとめます。

※その後長浜さんは非営利組織専業のコンサルティング会社PubliCoの起業を経て、現在はモジョコンサルティング合同会社にて非営利組織や地域づくりに幅広く関わっていらっしゃいます。当ブログの筆者はPubliCoでコンサルタントとして長浜さんの元で働いており、現在も非営利組織コンサルティングに関わっています。

Amazonの内容紹介から引用します。

NPOが増加し、新寄付税制など活動を支援する法制度が整うにつれて、NPO自身の事業目的を遂行する実力が問われる時代になってきた。組織のポジションを見究め、ターゲットのニーズに基づいた事業を企画・実施し、成果を測定しながら改善サイクルを確立する…など、NPOマーケティングの基本と実務を豊富な事例をもとに解説。

本書の構成

本書は以下のように構成されています。

□1 入門篇

第1講 NPOのマーケティング
1 NPOマーケティングの定義
2 NPOの活動タイプの分類
3 NPOにマーケティングが必要な理由
4 NPOマーケティングの対象
5 NPOセクターにおけるマーケティングの独自性
6 NPOマーケティングの“5C"
7 NPOマーケティングの実施プロセス
column 1 『Giving USA 2014』にみる米国の寄付実態

□2 事前準備篇

第2講 環境分析
1 情報収集
2 環境分析の構造
3 ステークホルダーの見極め
4 環境分析を行う際の留意点

第3講 ターゲット設定
1 ターゲットを設定する理由
2 ターゲットを設定する対象
3 セグメンテーション
4 ターゲティング
5 ペルソナの設定
6 顧客情報の収集

第4講 ポジショニング
1 ポジショニング戦略の構築
2 差別化
column 2 ファンドレイザーの報酬ランキング

□3 企画・立案篇

第5講 価値(Customer Value)
1 受益者にとっての価値
2 支援者にとっての価値

第6講 コスト(Cost)
1 受益者・支援者に対するコストの全体像
2 価格設定の考え方

第7講 利便性(Convenience)
1 製品提供における流通チャネルの構築
2 サービス提供における利便性の拡大
3 問い合わせ・申し込み・支払い方法の拡充
4 支援の場所とタイミング

第8講 コミュニケーション(Communication)
1 コミュニケーションの目的
2 コミュニケーション・ミックス
3 メディアの選定
4 制作物の開発
5 支援者に対するコミュニケーション戦略

第9講 快適さ(Comfort)
1 サービス提供における人のマネジメント
2 サービス提供における物的環境の整備
3 サービス提供プロセスの設計
column 3 支援者基盤強化サイト「GrowYourBase」

□4 実行・管理篇

第10講 マーケティング管理
1 マーケティングの目的・目標・指標の設定
2 マーケティングの評価
3 マーケティング施策の実績管理
4 マーケティング計画

第11講 マーケティング実行・改善
1 PDCAサイクルの重要性
2 事例:エイズ孤児支援NGO・PLAS「個人寄付の拡大」
column 4 米国における子どもの寄付

あとがき
NPOマーケティングで社会を変える! 『草莽塾』

『NPOのためのマーケティング講座』表紙写真

200ページ弱。図表や事例も多くわかりやすく、充実の内容です。

NPOスタッフの実務スキルを高める本は少ない?

NPO業界にとっては待ちに待った本です。長浜さんが執筆した本書と、そして1ヶ月早く発売されていた『NPOのためのIT活用講座』この2冊にかかれている内容は、これからのNPO活動にとって非常に重要なものです。これを疎かにする活動に未来はないといってもいいぐらいです。

むしろ本書が発売された当初(2014年10月頃)、当時楽天に務めながらNPO等へのプロボノ活動を行っていた私にとっては、なぜこの分野におけるこの手の必読書の位置付けがぽっかりと空いたままだったんだろうという点が疑問でした。

学生時代からボランティアに関わり、NPO業界やソーシャルセクターに強く関心を持っていた私は、業界に関わる様々な本を探して読んでいましたが、NPO関連の本を探してみると、NPO法人設立に関する書籍が大半で、その他は社会起業家系というか、最近とても元気な若手NPOを運営している方々の起業ストーリー的なものばかりが見つかります。

もちろんそれはそれで重要ですし、とても意義深い本が多いのですが、NPOの現場で活動している人が日々の実務で直面する課題を解決していくためのスキルや視点を身につけさせる教科書的な本はあまりないのではないか、と、当時プロボノとして企業で培ったビジネス視点(という程大仰なものではなく、PDCAサイクルを回す視点だったり、SNSやメールマーケティングの基本的な視点だったり)をNPOに提供していた私は疑問に感じていました。そこまで優秀なビジネスパーソンではない自分でも企業の現場では当たり前に行われているようなことやそれらを身につける基本的な方法論が、NPOの人たちにわかりやすく伝える情報が不足しているのだろうか、と。

マーケティングはNPOにも必要な考え方である

本書で扱っているのは「マーケティング」というテーマはビジネス分野にも共通するテーマです。

NPOのスタッフには様々なスキルが必要になります。社会課題を自体を解決していくという視点では教科書的な解決方法やスキルが存在しないものも多くあるでしょう。そういうものがないからこそ(要はビジネスの論理では解決不能だからこそ放っておかれており)NPO的な活動が求められている分野にこそ取り組んでいるのがNPOだといえますので。 

一方で社会課題という特殊なテーマを扱っているとはいえ、事業や活動を推進していくためには一般のビジネスと共通したスキルセットが求められる場面も多くあります。本書で扱われている「マーケティング」もそうですし、例えば「IT」やあるいは「営業」などのスキルや考え方が求められる場面もあります。 

ただ、こうしたビジネスに共通するテーマだとしてもそれぞれNPO業界だからこその特殊条件というものに直面することは少なくありません。例えば、そもそも事業の発想が営利目的ではないためにフレームワークや事例などの考え方が当てはまらないということや、組織の規模や状況が営利企業とは異なっているためにフレームワークがそのままでは使いにくいというようなことがあります。

 だからこそ「マーケティング」のようなビジネス分野では当たり前の考え方であり、数えきれない程の本が出版されている分野であっても、(むしろそのような重要分野だからこそ)NPOに特化して体系的にまとめられた本が出ることはとても重要だといえます。本書はその課題に応えるものです。

マーケティングをしっかり意識しようぜ、とか
ITばっちり活用して情報発信していこうぜ、とか

今回出版された2冊(『NPOのためのマーケティング講座』と『NPOのためのIT活用講座』)が語っているのは、そういう社会課題に立ち向かっていくための基礎的な方法論であり、武器です。

出版セミナーで語られた”現場からの情報発信の大切さ”

出版セミナーの写真

出版セミナーの様子(長浜さんは登壇者右)

では、なぜこんなに大事なことが今まで本として語られていなかったんだろう、というのは本書出版前や出版時点で疑問に感じていたのですが、先日の出版記念セミナーにおいて長浜さんと久米さん、山田さん(『NPOのためのIT活用講座』の著者)の3人がお話されているのを聞いてなんとなく理解することができました。

3人が繰り返し言っていたのは「情報発信の大切さ」です。NPOも、NPOスタッフも、プロボノとして関わる企業人も、もっともっと発信しようぜ、ということを繰り返しおっしゃっていました。

どういうことかというと、情報発信する人がまだまだ圧倒的に少ない、ということ。
そして根本的にまだまだこの業界に関わる人間自体の数が足りていない、ということ。 

必要とされる情報も、知見も、まだまだ集まってないし、事例も少ないのであって、今関わっている人たちが積極的に切り開いていく必要があるということですね。
 

「NPOにおけるマーケティング」とは

ここからは本書の中身についても少し触れていきましょう。先ほどこの本で語られている内容はNPOが社会課題に立ち向かうための方法論であり武器である、と書きましたが、著者はNPOにおけるマーケティングを「社会に対する価値の提供や社会課題の解決のための仕組みづくり」と定義しています。

では一般的な企業におけるマーケティング(「売れる仕組みづくり」)と何が違うのでしょうか。その一番の違いは、対象が受益者と支援者の2者存在するということです。
つまり、企業の場合顧客を対象としてマーケティング活動を行うのに対し、NPOでは

受益者(社会)に対して新しい価値を提供したり、課題を解決することを目的に製品やサービスを提供しますが、同時に、そうした活動を支えてくれるボランティアや寄付者、会員などの支援者の獲得活動を行う

必要があるということです。

顧客向けのマーケティングに支援者向けのマーケティングが追加されるということでマーケティングのラインが追加されるという単純な話ではありません。受益者(営利企業でいえば製品やサービスのターゲットという意味でのメイン顧客)向けのマーケティングの性質も変わってきます。どういうことかというと、支援者の中に「寄付者」という存在が含まれていることと関係しますが、NPOの場合その活動分野によってはその顧客に対価の支払い能力がない場合も多くあります(例えば発展途上国の子どもの支援など社会的弱者の方を対象とする活動)。製品やサービスの提供とその対価の交換という関係が成り立たないことも少なくないため、顧客向けのマーケティングにおける製品やサービス訴求のポイントも変わってこざるを得ない、ということです。単純に製品・サービスの価値を訴求すれば良いというわけではなく、活動分野毎の、受益者の特性(というより事情や状況)を理解するようなNPO・市民活動ならではの視点が求められます。

本書の著者の長浜さんは営利・非営利両方の業界で長くマーケティングに関わってきた経験から、共通する考え方とNPOならではの考え方をすべき部分をわかりやすく解説してくれます。

支援者向けのマーケティング、ファンドレイジングの持つ意味とNPOマーケティングのフレームワーク5C

また、支援者向けのマーケティングというのがNPOにおけるマーケティングの醍醐味的なところがあるのですが、このいわゆるファンドレイジングと呼ばれる分野におけるマーケティングについて著者である長浜さんは単純に自団体の経営リソースを補うためだけに行うものではないといいます。

市民を啓発して社会参加や自律・自立を促すという意味合いが含まれており、企業にはないNPO独自のもの

ということです。

これは個人的には非常に共感できるポイントです。NPOが社会から期待される役割としてよく言われるのが「社会課題の解決」ですが、それだけでなくもう一つ社会から期待されている重要な役割が「市民の社会参加の促進や機会の提供」です。寄付やボランティアというのは単純に支援されるという関係性ではなく、市民の側に社会参加の機会を提供しているという視点を持つことが大事だということですね。

私自身、学生時代から社会人プロボノとして活動する中で多数の現場でボランティアのマネジメントやコーディネートに携わってきました。ボランティアの活用が単純に人手を補えればいいという視点しかないのであれば、それはボランティア参加者に対してあまりに失礼だと思っています。(残念ながらそのようなボランティア募集は実際に存在しますし、寄付集めという意味でのファンドレイジングに関わるようになった今では資金調達的な側面という団体側の都合しか意識していないファンドレイジングすらも存在していることがわかります)

ボランティア参加者は一人ひとり色々な考えを持って活動に参加してきます。もちろん活動理念や活動内容への共感という部分が前提にはあるべきですが、それ以外にもボランティア参加者自身の成長の機会であったり、人との出会いであったり、人によって色々なものを求めています。ボランティアを求める(ためにマーケティングを活用するのであれば)そこまで織り込んでボランティアを巻き込み、楽しんでもらう、という視点はボランティアを活用する上で必須の視点だと思います。

この点はボランティアマネジメントだけでなく、ファンドレイジングにおいても当然重要な視点であり、総じてNPOマーケティングにおいての最重要な視点といえるでしょう。

長浜さんもこの点はかなり重視されているようで、マーケティング戦略を整理・検討するフレームワークとして、企業のマーケティングで一般的に使われる4C(Customer Value価値、Costコスト、Convenience利便性、Communicationコミュニケーション)に加えて、”快適さ(Comfort)”という指標を追加した5Cというフレームワークを提示して解説をされています。

NPO関係者必読。そしてNPOにちょっとでも興味のある社会人もぜひ

NPO関係者はぜひぜひ読んでおくべき一冊です。特にビジネスの現場での経験がなく、マーケティングについてあまり知識がないという人はあれこれ悩んで半端にマーケティング論をやるより、まずこの一冊を読むことがオススメです。4C(本書においては+1C)というマーケティング論における基本的なフレームワークの基礎をしっかりと学ぶことができますし、随所で様々な分野の実際のNPOの状況が事例として引かれているので、自分たちの活動に照らしての検討も進めやすいでしょう。

また、これからNPOに関わってみようかなと考えている社会人の方にもオススメです。NPOマーケティングの特徴を知ることができ、企業のマーケティングとどう違うのかをわかりやすく理解できます。マーケティングやファンドレイジングという分野はビジネスセクターで経験のある人がプロボノなどの立場からNPOに関わりやすいテーマですが、ビジネスセクターとは発想が異なる部分もありますので、本書を読みながら団体の人の話を聞くとスムーズにNPOの世界に入っていくことができるかと思います。

特にファンドレイジングという分野は、日本ではこれからどんどん盛り上げていくべきところなので、企業でマーケティング経験のある人に興味を持ってもらって、関わる人が増えていくと面白いなと思います。
 
以上。

ということで、内容はもちろんですが、NPO向けにこの本が登場した、ということがとても重要な一冊です。

本書に興味を持った方にオススメできる書籍の紹介

最後に本書に興味を持った方にオススメできる書籍をいくつかご紹介します。特にNPOで事業企画やマーケティング、広報・ファンドレイジング等に携わる方やそうした業務でのプロボノ活動をしている方、これからプロボノ活動をしたい方にオススメできる本という観点からの選択です。

久米信行、山田泰久『NPOのためのIT活用講座 効果が上がる情報発信術』

まずご紹介するのは本記事で紹介した『NPOのためのマーケティング講座』と合わせて出版された『NPOのためのIT活用講座 効果が上がる情報発信術』です。ITを活用した情報発信がテーマということで一般的なWebマーケティングに関する知識を得ることもできるのですが、特徴としては『NPOのためのマーケティング講座』と比べるとより具体的なノウハウや事例が非常に多く記載されているという点が挙げられます。SNS等の具体的ツール活用に関するノウハウの他、小さな組織や地域の中でステークホルダーとの関係を広げていくためにというNPOならではの視点が多く盛り込まれている点がとても勉強になります。


徳永洋子『非営利団体の資金調達ハンドブック』

日本ファンドレイジング協会の理事でファンドレイジング・ラボを主催する徳永洋子さんの著書。ファンドレイジングをテーマとした本です。『NPOのためのマーケティング講座』でいうところの支援者向けのマーケティングというNPOならではの世界についてより深く知りたいという方はこちらの書籍を手にとることをオススメします。オンラインの活用の仕方もオフラインの活用の仕方もどちらにも非営利セクターならではの考え方がありなるほど、と思う点が多くあります。