本から本へつながる書評ブログ『淡青色のゴールド』

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書評『世界を変える偉大なNPOの条件』今でも学ぶべき「6つの原則」と3つの注意点

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書評『世界を変える偉大なNPOの条件』今でも学ぶべき「6つの原則」と3つの注意点

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事はレスリー・R・クラッチフィールド、ヘザー・マクラウド・グラントの『世界を変える偉大なNPOの条件』の書評記事です。NPOマネジメントに関する本としては非常に有名な本です。日本語訳版が出版(2012年)から8年以上経過していますが、今でもその内容は褪せておらず、NPO経営に関わる方にはぜひ一度は読んでほしい本の一つです。

 

 

内容紹介

本書の副題は「圧倒的な影響力を発揮している組織が実践する6つの原則」というもの。原書のタイトル(FORCES FOR GOOD The six practices of High-Impact Nonprofits)には副題の方が近いですね。
私の手元にある版の帯には「社会セクター版『ビジョナリー・カンパニー』として欧米で絶賛の書!」と書かれています。実際本書は下地となる調査手法自体も『ビジョナリー・カンパニー』から多くの示唆を受けているようで、世界的な影響力を発揮しているNPOを選定して調査を行い、それらのNPOに共通している原則を導き出して解説するものです。ビジネスセクターで同様の趣旨で調査が行なわれた『ビジョナリー・カンパニー』ではその後紹介された企業が影響力を失っているのではという指摘もありますが、それでも組織経営の視点としての価値は保たれています。日本語版の出版が2012年で、元々の調査自体はさらに15年程遡る時期のものとなりますが、本書で紹介されているNPOの多くは2021年現在でも大きな影響力を持っています。たとえこの先いくつかのNPOの影響力が減退したとしても本書の価値自体はある程度以上に保たれるように思いますし、本書で指摘されている「偉大なNPOの6つの原則」は、むしろこの間で益々求められる時代になってきているように思います。

Amazonの内容紹介から引用します。

社会セクター版『ビジョナリーカンパニー』として欧米で絶賛の書!偉大なNPO(非営利組織)を偉大たらしめているものは何か?
並外れたインパクトをもち、世界のしくみを変えつつある12の組織 の研究からわかった、驚くべき行動原理。NPO関係者、社会起業家必読!

本書で取り上げた12の組織は、てこの力を使って圧倒的な変革を生み出している。自分の体重の3倍もある巨大な石をてこと支点を使って持ち上げる人のように、NPOは、その規模や体制が示唆するよりもはるかに大きな影響力を発揮する。
偉大なNPOは、他者に影響を与え、変化を起こさせることによって、より小さな規模で、より大きな成果を生み出すのである。

では、具体的に、何をどのように実践しているのか。その秘密を、本書は解き明かしている。

本書で取り上げる12の組織
・アメリカズ・セカンドハーベスト
・予算・政策プライオリティセンター
・シティイヤー
・エンバイロンメンタル・ディフェンス
・エクスプローラトリアム
・ハビタット・フォー・ヒューマニティ
・ヘリテージ財団
・ラ・ラザ全米協議会(NCLR)
・セルフヘルプ
・シェア・アワー・ストレングス
・ティーチ・フォー・アメリカ
・ユースビルドUSA

 

本書の構成

本書は以下のように構成されています。

序文
はじめに
序章:六つの原則
第1章:社会を変える力
第2章:政策アドボカシーとサービスを提供する(第一の原則)
第3章:市場の力を利用する(第二の原則)
第4章:熱烈な支持者を育てる(第三の原則)
第5章:NPOのネットワークを育てる(第四の原則)
第6章:環境に適応する技術を身につける(第五の原則)
第7章:権限を分担する(第六の原則)
第8章:影響力を持続させるための方法
第9章:原則を実践に移す
付録A:調査方法
付録B:事例調査
付録C:各組織の概要
謝辞
訳者あとがき
注記
追加資料

オススメ度

★★★★★(5/5)

本書をオススメする人

本書は特に以下のような方にオススメです。

  • NPOを経営する方、NPOで働いている方
  • 社会起業、ソーシャルビジネスに関心のある方

『社会を変える偉大なNPO』の表紙写真

400ページを超える本ですが、事例分析が中心なので記述自体はわかりやすく読みやすいです。

圧倒的な影響力を発揮するNPOの6つの原則

すでに構成(目次)の紹介で明らかになっていますが、本書の主題は大きな影響力を発揮するNPOに共通する六つの原則を解説するというものです。六つの原則とは以下の通り。

  1. 現場での活動(サービス提供)と政策提言(アドボカシー)をどちらも行う
  2. 市場の力を利用し、企業を巻き込む
  3. 熱烈な支援者コミュニティを育てる
  4. NPO同士のネットワークを重視し、知見や権限を共有する
  5. 環境変化に敏感で、事業の軌道修正を厭わない
  6. チームによるリーダーシップ。分権、育成の重視

それぞれの詳しい解説についてはぜひ実際に書籍を手にとっていただければと思いますが、原則名だけでもそれなりに意味やイメージは湧くものがほとんどかと思います。

「1〜4」は受益者と自組織の関係だけで考えるのではなく、政策的な展開(政治家や行政、あるいはそこに影響するためのメディアとの関係)・企業との関係・支援者との関係・他のNPOとの関係などステークホルダーを広く捉え、全体の関係性の中で社会課題の解決を図っていくべきだということですね。最近のキーワードでいえば「コレクティブインパクト(個別NPOによる課題解決ではなく、ステークホルダーがよってたかって皆で課題解決に取り組むという考え方)」にも関連する考え方だと言えます。

また、「2」の市場の力や企業との関係については企業側のSDGs等への関心の高まりや投資家・投資機関のインパクト投資への関心と合わせてますます重要になっているように思います。(インパクト投資については金融市場全体の中での影響力はまだまだといったところかもしれませんが)
「5」の事業の軌道修正については、「リーン・スタートアップ」というキーワードを耳にしたことのある方もいらっしゃると思います。社会環境、市場環境の変化に応じて事業のあり方を素早く変えていくという考え方。「小さく試して、大きく育てる」です。
「6」のリーダーシップのあり方や権限移譲についてはすでにありとあらゆるところで言われているので今更何をという感覚を受ける方もいらっしゃるかと思いますが、出版からこれだけ年数が経っても、適切な実践ができている組織はまだまだ少ないのが現状かと思います。

このように、最近ではすでに繰り返し語られるようになっているものも多く、意外な原則という風には感じないかもしれません。それでも「実践できているか?」と問われると、なかなか「イエス」と自信をもって答えられる組織は少ないのではないでしょうか。そしてなかには提示された原則のいくつかに違和感を感じる方もいらっしゃると思います。例えば「原則②市場の力を利用し、企業を巻き込む」などは、そもそも営利の考え方では課題解決ができない(あるいは営利の論理により課題が生成されている)分野だからこそNPOとして活動しているのであり企業との連携は考えにくい、というような場合など。実際本書の中でも「直感とは反するだろうが」というような前置きとと主に解説される場面も少なくありません。

否定された「通説」

そして、「直感とは反する(場合もある)六つの原則」を提示するにあたって、通説として広く語られてきたNPOとしての原則は調査対象の世界的な影響力を持つ12の組織には共通点として見出すことができず否定されたものが多いとしています。

否定された俗説(大きな影響力を持つNPOはこれらの通説には当てはまらない)

通説①完璧な運営:調査した組織のなかには、従来の考え方からすれば無責任な運営をしているところもある。ある程度の運営管理は必要だが、社会に大きな影響を与えるための説明としては不十分だ。
通説②ブランドに対する高い関心:ほとんどの組織はマーケティングに関心がなかった。
通説③革新的なアイデア:多くは旧来からある考えを利用し、成功するまでそれを調整し続けている。成功はアイデアや事業モデルそのものではなく、それらをどのように実行するか、あるいは実行するなかでどのように革新していくかによるところが大きい。
通説④模範的なミッション・ステートメント(使命の文言):美しい理念の文言を紙の上に記しているのは、ほんのわずかだ。ほとんどの組織は、日々の活動に忙しくて文章にしている余裕がない。
通説⑤従来の評価基準による高評価:NPOの効率性を測るチャリティーナビゲーター(米国のNPO評価組織)などの従来の評価基準を見ると、調査対象の組織の多くは点数が低い。予算に占める諸経費の比率の低さでは社会に与える影響の大きさはわからない。
通説⑥大規模な予算:組織の規模は影響力の大小にあまり関係がないことを確認した。

いかがでしょうか。六つの原則だけだと特に意外さを感じられなかった人もこれらの「否定された俗説」と合わせて六つの原則を提示されると興味が増すのではないでしょうか。

「活動」と「政策提言」の両立をいかに行うか

六つの原則の解説や事例紹介はそれぞれに面白く、示唆に富む内容が多いのでぜひ実際に書籍を手にとっていただければと思いますが、ここからは個人的に本書や他の書籍を読む中で考えた点をお伝えします。

原則1の「活動と政策提言の両立」についてです。

地域で受益者にサービスを提供することと、政策アドボカシーの両方を同時に行うことによって好循環が生まれ、それぞれを別個に行うよりも大きな影響力を与えられると言います。
本書に掲載されている図をお見せします。

P51図2−1

P51図2−1

「活動か、政策提言か」というのはしばしば対立しがちです。日本の市民活動の歴史的な文脈においても、目の前で困っている人を支える活動(いわゆる奉仕活動)と、市民運動(住民運動)などの行政の責任を追求する取り組みは対極にあり、それぞれに関わる人がお互いに不信感を持ってきたということもしばしば指摘されてきました。

しかし、この二つはどちらかを選ぶべきなのではなく、どちらも同時にやるべきだということが指摘されます。受益者のことも分かった上で政策提言できたほうが良いですし、政策や制度の変更があればそれを踏まえてすぐにサービスを改善することでよりよい活動をつくり、さらにそこから次の政策提言につなげていく…という良い循環を回すことができるということです。
ではどのように二つを両立すれば良いのか、ということに対しては12の調査対象組織でもさまざまで、「サービスから始めアドボカシーを加える」「アドボカシーから始めサービスを加える」「じめから両方を行う」いずれの選択肢もあります。

本書はこの点については事例解説が中心で実際にこれから取り組む組織がどうすれば良いのかということまで詳しくは踏み込んでいません。特にアドボカシーを後から加えようと試みる組織にとって、それをどのように始めていけば良いのかというのはなかなか想像がつきにくいと思いますが、最近読んだ本の中でこの点についてのヒントが多く含まれていましたのでご紹介します。

ジョエル・ベスト『社会問題とは何か』

先日書評も書いておりますので良ければお読みください。 

daisuket-book.hatenablog.com

 

『社会問題とは何か』は特定の問題が社会の多くの人に「解決されるべき問題である」と認識され、政策や制度に反映され、現場でのサービスに影響が起こるまでの流れをモデル化して解説するもので、NPOにとってはいわばアドボカシー活動の流れを理解することのできる本です。実際に同書で解説される6つのステップをすべて超えていこうとするとなかなか大変な道筋であることを認識することになるとは思いますが、自組織が取り組む社会課題を社会的に広く認知され、解決していくことを本気で望む方はアドボカシー活動の具体的ステップをイメージするために、ぜひ『世界を変える偉大なNPOの条件』とともに手にしてほしい一冊です。

注意が必要だと感じる点①:”偉大なNPO”とは何を指しているか?

さて、少し長くはなってきましたが、もう少しだけ。
ここからは本書を読む上で少し注意が必要だと感じた点をお伝えします。非常に良い本で、多くの人に読んでほしいのですが、誤った認識が広まって欲しくはないと感じる点もあります。

まず、本書でいう「偉大なNPO」が何を指しているのかという点です。本書の調査では何段階かで調査対象NPOの選定が行われているのですが、その最初の段階で「その組織は、大きくかつ持続的な成果を全国的もしくは国際的に達成したか」が問われています。つまり、地域に根ざした活動を志向して、地域内で良質な活動を行っている組織は本書の調査対象からは外れているということです。

すべてのNPOが全国的あるいは全世界的に共通する課題の解決に取り組んでいる訳ではないので、自組織の目指すところとの前提の違いには注意が必要な点です。もちろん本書でも「全国レベルでの課題解決を志向していなくても参考になる点はあるはず」とフォローされていてそれはその通りだと思いますが、その場合6つすべての原則を志向しなくてもいいとは思うので見極めながら読んだ方が良いですね。(例えばアドボカシーなどは特に)

注意が必要だと感じる点②:ビジョン・ミッションの軽視と誤読させうる表現

注意点の二つ目はビジョン・ミッションや理念を軽視した捉え方が誤解を招く可能性があると感じる点です。

この手の調査研究本のセオリーとして原則を導き出す前に「業界でよく言われる話とは反する結果が出た」として通説の否定から入りますが、本書ではその中で「通説4 模範的なミッションステートメント:美しい理念の文言を紙の上に記しているのはほんのわずかだ。ほとんどの組織は、日々の活動に忙しくて文章にしている暇がない」と書かれています。

この文言だけを読むと「ビジョン・ミッションは重要でない」という誤ったメッセージを発していて危ういのですが、むしろ本書をしっかり読んでいくと組織としてのミッションや使命、価値観がスタッフやボランティア、寄付者に根付いているかという点は各原則の解説で繰り返し繰り返し出てきます。組織使命の共有ができているかどうか自体が6つの原則の前提として必要だとすら言えると感じます。

実際通説4の記述も先ほどの引用の前に「いずれのNPOも、抑えがたい使命感や理想、価値観の共有によって導かれている。実際、組織の運営が不安定であっても、社会に影響を与えたいという強い願望を一人ひとりが持っているため、団結が保たれている」と書かれています。ここまで分かってて、要は「言葉尻だけ整えても意味がない」ということを言いたいがために「ミッションステートメントは言われている程重要じゃなかったよ」という表現を取っている点は自論を際立たせたいだけのように見えてしまいます。全体的には非常に良書なだけに少し印象が悪く残念な点です。

注意が必要だと感じる点③:組織基盤の軽視につながりうる点

注意点の三つ目は組織基盤の必要性の軽視に繋がりうる点です。同じく「否定された通説」のトップバッターに「完璧な運営」が挙げられています。綺麗な戦略や計画の有無は影響力とは無関係だ、と。計画ばかりを考えていて、実行が伴わないのでは意味がありませんので、それはその通りだと思うのですが、そう言いつつも本書の最後には6つの原則と並んで「影響力を持続させるために」という章が設けられ、カネやヒトといった基本的な組織基盤の強化が重要である点が常識的に指摘されていますし、そもそも原則5の環境の変化への適応というのも要は「事業の見直しをできるだけの視座の高さとPDCAサイクルを回す力を持て」ということなので、その意味で基本的なPDCAを回せるだけの組織基盤はやはり重要です。計画や組織という言葉の意味合いを官僚組織的なものとして捉えるな、というところで読み取るべきかと思います。
(この辺りは私自身がNPOコンサルとして戦略や計画を作成する支援を仕事としているので、ポジショントークなのかもしれませんが)


ということで、いくつか注意点はありますが、それでも非常に良書です。多くのNPO関係者が本書を読み、自組織のあり方、事業・活動のあり方を見直すヒントを掴んでもらえると嬉しいなと思います。

『世界を変える偉大なNPOの条件』を読んだ人にオススメの本

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

坂本文武『NPOの経営』

『世界を変える偉大なNPOの条件』は全国的、あるいは全世界的な影響力を持つNPOについての分析調査を行った本でしたが、すべてのNPOがそのような組織を志向するわけでは当然ありません。では地域レベルで活動するNPOとしてはどのような視点を持ち組織の経営にあたれば良いのか?という観点で非常に参考になる書籍です。関連する書籍は複数ありますが、個人的には一番オススメです。

エリック・リース『リーン・スタートアップ』

原則5の環境の応じた事業の軌道修正に関して。NPO向けの本ではなく営利事業を想定して書かれた本ではありますが、近年の若いNPOはスタートアップ的な発想を持つ場合も少なくありませんし、NPOの経営においても参考となる視点の持ち方です。

リチャード・P・チェイト, ウィリアム・P・ライアン, バーバラ・E・テイラー『非営利組織のガバナンス』

「原則6の権限移譲やリーダーシップ」に関連したオススメ書籍。理事会のあり方という側面から論じた書籍です。NPOが法人として適切な運営を続けていくためには理事会が良いリーダーシップを発揮していくことが必要です。きれいな戦略や計画には描ききれない未来に力強く向かっていくために理事会や経営メンバーがどのような視点を持てば良いのかということが述べられています。「否定された通説:完璧な運営」で述べられているMBA的なきれいな戦略・計画の次元からさらに先に進むためにNPOとして、理事としてどのような視点を持てば良いのかのヒントを得ることができます。

書評も書いておりますので良ければお読みください。

 

daisuket-book.hatenablog.com

 

 

最後までお読みいただきありがとうございました。