本から本へつながる書評ブログ『淡青色のゴールド』

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書評『政策起業家』民間の立場から政策・法律を変えるあり方を示す熱烈奮闘記

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書評『政策起業家』民間の立場から政策・法律を変えるあり方を示す熱烈奮闘記

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事は駒崎弘樹さんの『政策起業家――「普通のあなた」が社会のルールを変える方法』の書評記事です。認定NPO法人フローレンスの経営者として日本の社会起業の第一人者ともいえる駒崎弘樹さんの新著で、社会起業家ではなく「政策起業家」というあり方を解説する書籍です。

 

内容紹介

本書はタイトルの通り「政策起業家」という政治や社会への新たな関わり方として注目される概念を解説する書籍です。政策起業家とは政治家や官僚といった専門職として政治や行政に関わる立場ではなく、民間の立場から社会のルールや制度を変え、時には新たな法律までつくる存在のこと。本書では自らが政策起業家としてこれまでにさまざまなルール・制度変更や法律制定や改正に関わってきた駒崎さんが、その実例を解説しながら政策起業という考え方を解説していきます。政策起業という考え方の日本における事例を知る上で駒崎さんは外せない存在ですので、その駒崎さん自身が自身の経験や考えを惜しげもなく披露している本書は非常に貴重なものですし、NPOだけでなく企業等においても最近特に強く言われる「社会課題の解決」という取り組みが実際にどのようになされているのかNPOや、社会起業、社会貢献など関連するキーワードに関心のある方も含め多くの方に手にしていただきたい本です。

Amazonの内容紹介より引用します。

★今の社会のルールに納得がいかない、疑問を持っている、全ての人へ !!
★政治家や官僚にならなくても、政策や法律のような「社会のルール」を変えられる手法を徹底紹介!
★著者はNewsweek誌「世界を変える100人の社会起業家」に選出された日本最大級のNPO経営者!
★発売前からSNSで話題沸騰!

少子高齢化や経済的衰退が進行する日本。加えて、地球規模の気候変動、度重なる災害……。
こうした暗澹たる未来を、私たちは子どもたちの世代に残したいだろうか。

もはや「偉い人たち」に政治と政策を任せるだけでは足りない。
私たち「普通の人たち」も、政策や制度づくりに関わり、社会課題の解決を行っていかなくてはいけない。その手法が「政策起業」だ。

「政策起業」を行う「政策起業家」とは、民の立場で社会のルールや制度を変え、時には新たな法律まで作ることができる人だ。
日本有数の「政策起業家」の1人である著者は、認定NPO法人フローレンスの代表として、全国初の共済型・自宅訪問型の病児保育事業「フローレンスの病児保育」や、今や全国約5,000施設(※2019年4月時点)に広がった小規模認可保育所のモデルとなった「おうち保育園」、日本で初めて障害児を専門に長時間お預かりする保育園「障害児保育園ヘレン」などを次々に事業として立ち上げ、その知見をもとに政策提言を行い、「小規模認可保育所の制度化」「医療的ケア児支援法の成立」など社会を変えてきた。

しかし、この活動は「限られた才能ある人が成し得るもの」ではない。
政策起業のやり方を知った様々な人々が、社会を変える様々なアクションを手掛け始めている。

本書では、それらの軌跡を、失敗事例も含めて等身大で語りながらも、あなたに余すことなくお伝えしている。

これまで政官に閉じていたルールメイキングに、誰しもが関わっていくためのヒントが満載の1冊!

"「不条理を何とかしたい」という強い思いがあれば、政治家や官僚にならなくても、ルールは変えられる。 "

さぁ今度はあなたの番だ!

本書の構成(目次)

本書は以下のように構成されています。

プロローグ
第1章 小麦粉ヒーローと官僚が教えてくれた、 政策は変えられる、ということ
第2章 「おうち」を保育園にできないか?小規模認可保育所を巡る闘い
第3章 「存在しない」ことになっている医療的ケア児たちを、社会で抱きしめよ
第4章 如何に「提言」を変革へと繫げるか
第5章 社会の「意識」を変えろ イクメンプロジェクトと男性育休義務化
第6章 「保育園落ちた日本死ね!!!」 SNSから国会へ声を届かせる方法
第7章 政策ができて終わりじゃない?「こども宅食」の挑戦
第8章 1人の母が社会を変えた多胎児家庭を救え
エピローグ
選挙だけでは「足りない」/力を貸してほしい
【付録】日本の政策起業家リスト
政策起業を学ぶ書籍リスト
謝辞

本書をオススメする人

本書は以下のような方に特にオススメです。

  • 「政策起業」「シンクタンク」等に関心のある方
  • NPO・社会起業・社会貢献等に関心のある方
  • 選挙以外での政治参加や社会課題解決に関心のある方
  • 認定NPO法人フローレンスに関心のある方

『政策起業家』の表紙画像

社会起業家本の殿堂『「社会を変える」を仕事にする』の続編的な魅力的な起業ストーリー本

本書は、すでに何度もお伝えしている通り「政策起業家」について知ることのできる本なのですが、まず何をおいてもお伝えしたいのが、文章が圧倒的に面白いということです。笑いあり、涙あり、熱くなる展開ありで、あまり読書に慣れていないという方でも、まるで少年ジャンプの痛快な漫画を読んでいるように一気に読み進めてしまえるのではないかと思います。

私は仕事柄(NPO等非営利組織のコンサルティング支援)、NPO経営者や社会起業家の方の著作をこれまでにも何冊も読んできているのですが、駒崎さんの文章の魅力はNPO業界の中でもちょっと飛び抜けているのではないかと思います。書籍だけではなく、TwitterやFacebookなどSNSでの表現もとても上手(しばしば炎上もしていますがw ちなみに、本書では「炎上」に対しての駒崎さんの姿勢や考え方の一端も事例ベースで記されています)ですし、講演などの口頭での表現も上手いので、全般的に考えを表現したり伝える力がとても強い方だなと感じています。

駒崎さんは本書に限らず著書多数で、どの本を読んでも面白い(全部ではないですが8割方は読了済み)のですが、特に本書は起業家本、起業ストーリー本としても非常に魅力に溢れています。本書では内容紹介でも引用した通り「小規模認可保育所の制度化」「医療的ケア児支援法の成立」「こども宅食」といった具体的な「政策起業」の事例が紹介されるのですが、それらは駒崎さんが代表を務める認定NPO法人フローレンスというNPOが実際にどのように社会課題の解決に取り組んできたのかという団体のストーリーであり、起業ストーリーが記された書籍です。

駒崎さんやNPO法人フローレンスといえば日本のNPOや社会起業の文脈では非常に有名な存在です。駒崎さんの第一作である『「社会を変える」を仕事にする』は社会起業家本の中では殿堂入りの作品とも言える程に有名な本で(私は大学時代に夢中になって読みました)、社会起業家本の中でも数少ない文庫化を果たしている作品(ちくま文庫。詳しくは本記事末尾の「本書を読んだ方にオススメの本」でご紹介します)です。社会起業家本の中で他に文庫化しているのはマザーハウス創業者の山口絵理子さんの『裸でも生きる』ぐらいではないでしょうか。

『「社会を変える」を仕事にする』では、元々ITベンチャーの経営者だった駒崎さんがNPO法人フローレンスを立ち上げるに至った経緯や、病児保育という当時の日本ではほとんど知られていなかった取り組みをビジネスの仕組みを取り入れながら作り上げていく姿やそれら全国的な制度に取り入れられていく様子などフローレンスの創業期が紹介されています。その後のNPO法人フローレンスと駒崎さんは病児保育という枠だけでは収まりきらず、子育て支援に幅広く関わるさまざまな先進的な事業を次々と立ち上げてきていましたし、駒崎さんもたくさんの書籍をその後に書かれていましたがそれらの書籍にはそれぞれのテーマがしっかり設定されており、フローレンスや駒崎さんの奮闘ストーリー自体が直接書籍の形で詳しく紹介されることはあまりありませんでした。

本書は「政策起業家」というタイトルが冠されており、駒崎さんの起業ストーリー本というわけではないのですが、そこで紹介されるのはフローレンスが、病児保育以外にどのような事業・活動に取り組んできたのかを詳しく知ることのできる起業ストーリー本としても楽しめる書籍となっています。

政策起業家とは?政策提言・社会起業家との違いは

本書のタイトルに冠されている「政策起業家」という言葉。まだまだ聞き慣れない言葉かと思います。そもそもどのような定義がなされているのかというと、本書のプロローグで紹介されている政策起業家という言葉を駒崎さんに伝えた元朝日新聞社主筆で評論家の舟橋洋一氏の言葉を引用すると、

「官僚や政治家だけでは解決できない複雑な政策課題に向き合い、公のための課題意識のもと、専門性・現場知・新しい視点を持って課題の政策アジェンダ化に尽力し、その制作の実装に影響力を与える個人のことを『政策起業家』と呼びます」

という定義となります。

政策の立案に関わるというと政治家や官僚のことだけの問題と考えてしまいがちですが、実際の政策立案の過程にはさまざまな関係者が関わっていて、政策起業家は特に政治家や官僚ではない立場から利害関係者の議論への参加や意見の反映などに能動的に影響を与えていく存在ということですね。

近しい言葉では「政策提言」というものがありますが、これは政治家や官僚等の政策立案に関わる人に対して特定の課題に関連する政策の制定や考え方や実施方法を含めて取り入れることや推進してもらえるように働きかけを行う活動のことを指すとされています。まったく別の概念というより、政策起業家が行う活動のうち特に政治屋か官僚に働きかける活動については政策提言と呼べると思います。また、政策提言活動は例えばNPO等によっては組織の事業の一つとして位置づけ組織的にその活動に取り組んでいる場合もありますが、政策起業家という言葉は組織よりも個人を指す概念と捉えることができるでしょう。

社会課題の解決に関わるあり方を表す言葉として「社会起業家」もよく知られています。詳しく語りだすと長くなってしまいますので簡単にまとめると、社会課題の解決に関わるという点で政策起業家と社会起業家には共通する部分があります。実際本書の著者である駒崎弘樹さんは日本を代表するような社会起業家の一人でもありますし、一人の人物がどちらにも当てはまるという事例は他にもたくさんあると思います。では違いは何かというと、社会起業家といった場合には「社会課題をビジネスの仕組みを使って解決することを目指す」という事業活動的側面が重視されるのに対して、政策起業家と特に言う場合には(駒崎さんのように自身がソーシャルビジネスやNPO活動による事業・活動の現場を持っている場合もあると思いますが)事業活動の有無に関わらず政策的なアジェンダ形成による社会課題解決を目指す場合を指すといえるでしょう。

ちなみに、駒崎さん自身は社会起業家であり政策起業家でもある、という存在ですが、すべての社会起業家が政策起業家も兼ねることができるか?というとそうではないと私は感じます。社会起業家が行う事業は特にソーシャルビジネスと呼ばれ、ビジネスの仕組みを活かして社会課題解決に取り組むことがその特徴ですが、ビジネスの論理自体は一般の営利目的と変わるわけではありません。多くの物事をビジネス的視点で捉えると、そこには事業の対象から漏れてしまう対象者がいたり、ビジネスの仕組みだけでは解決しきれない分野や課題というものも存在しますし、自社の利益をあげるという論理が強ければ、自社のビジネスモデルは他者には真似されにくいものを目指していくということもありえます。一方で政策起業家的な発想に立つと、自社・自組織で立ち上げたモデルを、いかに公の力も使って全国の受益者の元へ届け、課題の解決を図るかという論理が優先され、自組織のモデルを開示することであったり、模範となることを目指すことであったりという発想になっていくことになります。(この書き方は社会起業家に対してフェアではないようにも思いますが、この記事はすでに魅力が知れ渡っている社会起業家という考え方に対して政策起業家がどう異なるのかという観点からわかりやすさを重視して書いてみたということでご容赦ください)

活動と政策提言の両立が重要

先に駒崎さんは社会起業家であり政策起業家でもあると書きましたが、これはつまり駒崎さんが率いる認定NPO法人フローレンスが、現場での事業活動の実践と政策提言の両方の活動を行っているということです。

これは社会課題の解決に対して確かな影響を与えたいと考えるNPOにとっては非常に重要な考え方です。
ソーシャルセクター版の『ビジョナリー・カンパニー』とも評される『世界を変える偉大なNPOの条件』では世界的に大きな影響を与えているNPOに共通する6つの原則が解説されていますが、その最初の原則として提示されるのが「現場の活動(サービス提供)と政策提言(アドボカシー)をどちらも行う」という原則です。

政策提言の活動は歴史的には住民運動・市民運動などで行政の責任を問うような行政との対立姿勢の中で築き上げられてきた面もあるため、現場で困っている人と支援することとは一線を画すような捉え方をされる場合もありますが、近年特に言われる「社会課題の解決」ということを考えたときには、単体の組織だけでやりきるということはどうしても難しく、課題全体・社会全体のことまで視野にいれるとしたら政策や制度など公的な仕組みも視野にいれることが必要になってくるように思います。

『世界を変える偉大なNPOの条件』の中で紹介される事例を読んでいるだけでは、実際にどのようにその両立をしていけば良いのかを考えるのは難しかったのですが、駒崎さんやフローレンスさんのあり方というのは日本の他のNPOにとっても参考になるものではないでしょうか。

本書では「小規模認可保育所の制度化」「医療的ケア児支援法の成立」「こども宅食」といった具体的な課題への取り組みがストーリー仕立てで紹介されていきますが、政策起業につなげていくための大きな流れは共通しています。

①課題を「発見(受益者の困り事や痛みを認識し、課題が存在すること訴えること)」
②自組織を中心に課題に対処するための方策を考え、実行する(この過程で既存のルールや仕組みの問題点を認識し)
③より課題への対処がしやすくなるために、あるいは全国で課題解決がなされるために、必要な政策や制度の立案を関係者へ訴える
④立案、施行された法律や制度の下で現場での課題解決を継続する

ものすごくシンプルに言ってしまえば「成功事例をつくって、全国展開する」ということです。もちろん成功事例をつくるのがいかに大変で、私たちが暮らす社会の既存のルールでは暮らしにくさや生きづらさを感じている人がたくさんいることや、そうした既存のルールの中でなんとか対処する方策を考え出すことも、政策アジェンダに載せていくことや実際に課題解決につながる政策や制度つくりを行うこと、作られた政策メニューが各地の現場に展開されるまでにも大きな課題があることなどは本書の中で繰り返し語られますので、気になる方はぜひ本書をお読みください。

政策起業も大切だけど、政治家を選ぶ選挙もやはり大切

個人的に本書を読んでさすが駒崎さんだなと感じた点は、政策起業家という政治家ではない民間の立場から政策立案に関わる存在やそのあり方を提唱する本の中で、同時に「政治家という存在の大きさ」や「政治家を選ぶ選挙の重要性」についてもわかりやすく強調している点です。

各テーマでの政策立案や制度の設計に民間の立場から関わっていくのが駒崎さんやフローレンスの皆さんですが、政策立案や法律制定には政治家や官僚の存在も欠かせません。特に駒崎さんは選挙によって私たちが選ぶ政治家という存在の大切さについて強く訴えています。

医療的ケア児支援法制定への動きを描いた第3章から少し引用しましょう。

まーくんママ、もとい野田聖子議員は医療的ケア児の母親当事者として、どう困っているか、何が必要なのか、本当に詳しく、細かいところまで官僚に説明していた。なるほど、当事者が政治の場にいる意味、というのはこういうことか、と気づかされた。通常、社会課題の当事者はマイノリティで、なかなか政治の場で発言はできない。しかし、当事者が政治家の中にいると、誰よりも雄弁にその問題を熱を持って語ることができ、政治的アジェンダに押し上げることができる。
政治の場に多様な「当事者」がいる必要というのは、こういうところにあるのだ、と知った。マジョリティで社会課題の当事者になったことがない、弱い立場にいたことがない、という男性だけで政治の場が構成されてしまったら、それは危ういことだ。もちろん「理解」することはできる。しかし、難しいテーマを押し進めるために、何らかの当事者性というのはとても強力な原動力となる。たくさんの当事者たちを政治の場に送り出さなくてはいけないのだ。

政策起業というあり方を提唱し、政治に関わる可能性を開いていくことは大切だけど、それだけで良いわけではなく、私たちが政治家を選ぶ選挙というものもやはりとても大切なものであるということをとてもわかりやすく印象づけてくれます。

「普通のわたし」が社会のルールを変えるとは

本書は駒崎さんの視点で駒崎さんの活躍が描かれるストーリーが多いですが、政策起業家というものは駒崎さんのような抜きん出た特別な存在でなくてもできることである、と駒崎さんは言い、「第8章 1人の母が社会を変えた 多胎児家庭を救え」では駒崎さん視点の駒崎さん発案の課題解決ではなく、フローレンス社員の市倉さんの物語が紹介されます。

SNSを活用した広報施策を仕掛けていくことやその反響を緊急記者会見という形で提示することなどは、そのノウハウや実績がフローレンスという団体に蓄積されていたからこそ発揮できた影響力という面も少なからずあるでしょうが、それでも地元の区議に連絡して課題を訴えることや、実態調査のためにSNSを始めとしたインターネットの手法を活用すること、そして新聞やテレビと言ったメディアへの働きかけ(PR)を行っていくといった一連の流れ自体はそれ程特殊だったり突飛なものということではなく、課題を「発見」した誰でも、全国でさまざまな社会課題の当事者の支援に取り組む小さなNPOでも参考にすることはできるものであると感じました。

特に私自身は日頃多くのNPOにコンサルタントや研修講師として関わる中で、独自の社会課題を認識はしているのに、社会に対して課題の存在を訴えるという視点や姿勢が足りないNPOが多いことは課題に感じています。本書を読んで、政治家やメディア、そして市民に対して課題を訴えかけるとはどういうことなのかの具体的イメージを多くのNPOが掴んでもらえると良いなと感じました。

本書を読んだ方にオススメの本

最後に本書を読んだ方や関心を持った方にオススメの本をご紹介します。

駒崎弘樹『「社会を変える」を仕事にする』

一冊目は駒崎さんの『「社会を変える」を仕事にする』です。本文中でもご紹介しましたが、数ある社会起業家による著作の中でも殿堂入りといえる本で、社会起業・ソーシャルビジネスやNPOによる社会課題解決の魅力をこれでもかと感じることのできる一冊でし、駒崎さんやフローレンスというNPOの成果をストーリーで知るという意味では『政策起業家』の前編にあたるような本であるとも言えますので、未読の方はぜひこちらもオススメします。

五十嵐立青『あなたのまちの政治は案外、あなたの力でも変えられる』

二冊目は現茨城県つくば市町の五十嵐立青さんの書籍です。この本は五十嵐さんがつくば市議会議員を2期8年務めた後に出版されたもので、地域に住む一人の市民目線で自分が済むまちの課題(子育てや防犯や市の公共事業のあり方)に対してどのように関わっていくことができるのかということを非常に具体的な物語形式で知ることができます。『政策起業家』で扱われる政策や制度は国レベルの大きなものが多かったですが、自治体や地域レベルの課題への関わり方という点ではこちらの本を併せて読むとよりイメージが湧きやすいでしょう。

ジョエル・ベスト『社会問題とは何か』

三冊目は社会学から。『政策起業家』では民間の立場から政治家や官僚へ働きかけることであったり、時にはインターネットやメディアを通じて市民の声(世論)の盛り上がりをつくっていくことの大切さが示されていましたが、こうした広く市民に社会的な課題であると認識されていくプロセスをモデル化し解説する本です。駒崎さんもNPOの最初の役割は課題の「発見(問題と定義されることによって初めて問題と認識される)」とおっしゃっていますが、その発見から政策アジェンダにのり、制度化されて施行されるまでの一連の流れをさまざまな社会問題を分析する中でモデル化した本書を読むと、フローレンスのアプローチは社会学的なモデルにもしっかりと乗っていることがよく分かります。

書評を書いておりますので良ければお読みください。

daisuket-book.hatenablog.com

レスリー・R・クラッチフィールド、 ヘザー・マクラウド・グラント『世界を変える偉大なNPOの条件』

四冊目は本文中でもご紹介した『世界を変える偉大なNPOの条件』です。政策起業家になるためには必ずしもNPOである必要はありませんが、ご自身がNPOに関わっていたり、これからNPOに関わっていきたいと考えるのであればぜひ一度は読むことをオススメします。ソーシャルセクターでは社会状況の変化にも応じながら次々に新しい考え方が登場する分野ですが、結局はこの本で言われている大切な原則がマイナーチェンジを繰り返しながら登場しているのだな、ということも感じたりする、今でも十分に通用する本です。

書評を書いておりますので良ければお読みください。

daisuket-book.hatenablog.com

M・ミントロム『政策起業家が社会を変える:ソーシャルイノベーションの新たな担い手』

最後にご紹介するのは2022年3月9日に発売されたばかりの『政策起業家が社会を変える:ソーシャルイノベーションの新たな担い手』。駒崎さんの著作と同じく「政策起業家」をテーマにしています。日本ではごく最近になって聞かれ始めた言葉ではありますが、実は欧米では30年以上も実践や研究が進んでおり、知見の溜まっている概念です。本書は長年政策起業を研究してきた著者が世界各地の事例を踏まえながら政策起業家としての戦略などを解説するものです。翻訳者の一人の三井さんは岩手県陸前高田市で実際に政策起業家(NPO経営者・元市議会議員)として活動する方であり、陸前高田での事例も本書の理論を元に紹介されています。

なお、三井さんはご自身のnoteでも政策起業家について解説する多くの記事を書いていらっしゃいますので、政策起業家についてさらに知りたい方はこちらのnote記事を読むこともオススメです。

note.com

最後までお読みただきありがとうございました。