本から本へつながる書評ブログ『淡青色のゴールド』

読書家の経営コンサルタントのdaisuketによるブログです。一冊ずつ丁寧に書評しながら合わせて読むと面白い本をご紹介します。

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2020年読んで面白かった本10冊

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2020年読んで面白かった本10冊

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事は2020年に私が読んだ本の中から面白かった本を紹介する記事です。ジャンルはバラバラですし、特に最新の本をがんばって追っている訳でもないので出版から年数が経っている本もあります。掲載順は基本的には読んだ順番です。

 

 

ネット右派の歴史社会学

知人の薦めで手にした本。日々インターネットに触れていると「ネット右派(いわゆるネトウヨ)」の存在はその勢いの大きさは非常に強く感じます。アメリカでは現在トランプ大統領のTwitterアカウントが凍結されるような騒動も起こっているように社会のさまざまなレイヤーにおける「分断」が叫ばれ、背景の一つとしては左右のイデオロギー対立的なものもあります。そうした対立や分断の背景理解を深めていきたいと考えて読みました。

私個人は現在NPOなどの公益的な活動を行っている組織に対するコンサルティングを主な仕事としており、どちらかというならリベラル的な発想に親和性があると自覚していますので、ネット上で見聞きする「右派的」で過激な発言には「なぜこういう発想になるんだろう」「理解が難しい」と感じてしまうことも正直しばしばありました。そうした感覚に近しいものをお持ちの方にはぜひ本書を一読することをお薦めします。

本書は日本のネット右派について、歴史的な様々な文脈からその成り立ちを考察するものです。500ページを超える大作でなかなか読むのに骨が折れる本なのですが、一貫した丁寧な姿勢でまとめられており、よくこれだけまとめたなと著者には強い敬意を感じます。現在「ネット右派」と呼ばれる存在は、ある特定の文脈や勢力による直線的な発展によってできあがったのではなく、様々な文脈が相互に影響しあい、合体や分離を繰り返す中でできあがってきたものだといいます。著者の専門はメディア研究で、本書でも右派に属する人たちの様々な言説を「アジェンダ(言説の論点、論題、テーマ)」と「クラスタ(特定テーマに対し近しい意見を持った集団)」の観点から整理しているのですが、アジェンダ・クラスタの網羅性や一つ一つに対する丁寧な記述がすごいです。取り上げているアジェンダには「嫌韓」「反リベラル市民」「歴史修正主義」「排外主義」「反マスメディア」、クラスタには「サブカル保守」「バックラッシュ保守」「ビジネス保守」「既成右翼系」「新右翼系」「ネオナチ極右系」などがあり、これらの組み合わせによって現在の「ネット右派」の成り立ちを説明する、というのが本書の基本的な構成です。これら個別のクラスタやアジェンダの中には経緯や論理がそれぞれあり、その一つ一つを本書の記述で丁寧に読み解くと、基本的にリベラル的な発想の私であっても理解不能だと感じるようなものは少ないし、対話も可能であるように感じます。現在の問題点はこれらの複数のクラスタやアジェンダが平成のさまざまな社会経済的な影響を受け変遷する中で、悪魔的な合体の果てにモンスター化してしまっていることであるというのが本書の主張であり、納得度はとても高いです。

NPOなど多様性や平等などリベラル的な活動を行っていると、差別などさまざまな反発を受けることも少なくないと思いますが、それに対して「差別はいけない」と無闇に言い続けるだけでは伝わりませんし、「理解不能だ」と切り捨ててしまっても何も解決しません。相手の論理や文脈の背景にどんなものがあるのか、まずはそれを知ってみることには価値があると感じます。

 

コミュニティマネジメントの教科書

crfactory.com

本書はNPOなどの非営利組織の組織運営支援を行っているCRファクトリーの代表呉さんが、長年の活動の中で培ってきたコミュニティ運営の知見を体系的にまとめた書籍です。事業計画を作ることやマーケティング戦略を練ることは非営利組織ならではの観点はありつつも、営利組織が培ってきた理論や実践から多くを学び参考にすることができます。一方で、組織づくりについてはボランティアをベースとする非営利組織では給与という営利組織における大きな要素が存在せず、根本的に異なった考え方をする必要があります。

本書はNPOや市民活動・ボランティア、サークル活動や自治会等の地域コミュニティまで、営利を目的としない組織の運営において、どのような視点を持って自分たちの課題を認識していけば良いのかを体系的に教えてくれる他、実際に改善に取り組む際に実践できる施策やワークも具体的に紹介されており、そのタイトルの通り今後非営利セクターで長く「教科書」として読まれるべき本だと感じます。特に昨今の新型コロナウィルスの感染拡大により、思うように活動ができていないコミュニティは少なくないと思いますので、その運営者の方はどういった点を守りながら活動を変化させていけばよいのかを考えるヒントになるでしょう。また、リモートワーク化により地域にいる時間が増えたり、家庭と仕事以外の所属コミュニティを探し始めた方も少なくないのではないかと思います。こうした第3の居場所や活動先を多くの人が持つことは新型コロナの感染拡大が落ち着いたとしても、今後の社会の中では非常に重要なものになると個人的には感じており、その意味では本書は今後来る「人生100年時代」に持つべきスキル、視点を学ぶことができる本だとも感じています。ぜひ多くの方に手にして欲しい本です。

本書については別途書評記事を書いておりますので、良ければこちらもお読みください。

 

daisuket-book.hatenablog.com

 

反共感論

さまざまなジャンルの本をゴチャ混ぜに読みながらもなんとなく重点テーマのようなものを設定していることがあります。2020年の重点テーマの一つが「共感」でした。前述の通り私は普段NPOなどを支援するコンサルティングの仕事をしておりますが、NPOの事業・活動は「共感」というキーワードを武器に使うことが少なくありません。例えば寄付集めなどの場面では社会課題やその課題で苦しむ対象者の難しい状況やツラさを強調し、それに対しての共感を強く感じてもらうことで寄付の獲得につなげる、という形です。NPOの文脈に限らず、最近は「共感」やその前提としての「ストーリー」、共感してもらう対象としての「ファン」などのキーワードがマーケティング等の中でも重要キーワードとして掲げられることが多いように感じています。自分自身がそれを武器として使うことがあるからには、しっかりと「共感」について理解をした上で扱っていきたいと考え、積ん読本の中から手にしたのが本書でした。

「共感」という言葉は基本的に前向きなイメージを持って捉えられることがほとんどですが、本書はそのタイトルからも分かる通り、その共感に対する全面的な肯定に対して待ったをかける姿勢で語られています。共感の持つ前向きな意義自体を否定するわけではなく、その影響により社会全体としては不適切な選択がなされてしまうことがありうるということを、心理学、脳科学や哲学などの視点から検討する試みがなされています。

本書では共感を「情動的共感(他者の苦痛を自分でも感じる能力)」と「認知的共感(他者が何を考えているのかを理解する能力)」に分けて解説をします。認知的共感は便利なツールであり、善き人であろうとするなら必須の能力であるが、それ自体は道徳的には中立的な働きを持ち、情動的共感の能力についてはしばしば道徳を蝕むような働きをすることがあると指摘します。例えば扇動的な政治家が特定の個人や集団に対する苦痛を我が事のように感じることを求めるなど情動的共感に訴えることを武器とすることがある、といった形です。著者の基本的な主張は、情動的共感で物事を判断するのではなく、それらとは距離を置きつつ、思いやりや親切心を使ったり、理性的な判断を行うようにするべきであるというものです。

情動的な衝動に留保をつけ、合理的な判断をすることの重要性はベストセラーとなった『FUCTFULNESS』でも指摘されるところです。個人としてそうした姿勢を省みることはもちろん大切ですし、仕事の中で「共感」を武器に使う機会のある人はそれを使うことの意味や適切性を都度自分自身に問いかけながら仕事をしていくことが必要なのではないかと思います。私個人の仕事でいえば例えばNPO向けのファンドレイジングのコンサルティングや研修などでは「共感という武器をいかに使うか」を伝えるような場面も少なくありませんので、今後も考え続けていきたいテーマです。

 

ソフィーの世界

パートナーから借りて読んだ本。何年も読みたいと思っていた本でしたが、やっと読む機会を持つことができました。

14歳の少女ソフィーはある日「あなたはだれ?」と書かれた手紙を受け取り、その日から哲学の世界を旅する不思議な出来事が起こっていく―というお話。哲学ファンタジー小説、というのでしょうか。ソクラテスやアリストテレスからカントやデカルト、ヘーゲルまで様々な西洋哲学史の巨人が登場して、古代ギリシア哲学から近代哲学までの主要な思想内容を学ぶことができます。

西洋哲学思想を簡単に分かりやすく学ぶことができるということで「一番やさしい哲学の本」というキャッチコピーもつけられているようですが、実際非常に分かりやすいです。ただ、本書の素晴らしい点はやはりあくまでも小説であるということです。「あなたはだれ?」という差出人不明の手紙の謎に迫っていくというミステリー要素もあり、小説としての出来が非常に良いです。そして、哲学者本人たちが登場しながら紹介されていく思想の内容についても、実際に主人公ソフィーと一緒に具体的な問いとして体感しながら読み進めることができ、哲学することを楽しみながら読み進めるのは読書体験として非常にぜいたくなものです。子どもから大人まで幅広く楽しめる一冊。

この国のかたち

2019年から2020年年初にかけて『竜馬がゆく』『翔ぶが如く』『坂の上の雲』の幕末〜明治の3作を続けて読みました(『竜馬がゆく』のみ再読)。本記事で紹介するのもこのどれかにしようかとも思ったのですが、『この国のかたち』を選びました。

『この国のかたち』は1986年から著者が亡くなる1996年まで文藝春秋に掲載された歴史随想で、文庫では全6巻で刊行されています。日本や日本人の歴史について語るエッセイなのですが、一貫した日本人像を描くというよりは、著者の長年の執筆活動やその前提としての歴史研究の成果から抽出された司馬遼太郎の日本史観のエッセンスが表されたものと感じます。古代から太平洋戦争までさまざまな時代のことが述べられていますが、やはり個人的に注目したいのは戦前の日本についての記述です。

特に「統帥権」に関する論考は、作家司馬遼太郎としての執筆活動の原点ともいえるリサーチクエスチョンに答えるものでしょう。司馬遼太郎が作家になったきっかけは自身が太平洋戦争に従軍する中で「日本とは、日本人とは昔からこんなに格好悪かったのか?」「いつからこうなってしまったのか?」という疑問を感じたからだと言います。そして「統帥権の拡大解釈」こそが、その直接的な原因の一つとなりうることに気づいたのは『この国のかたち』を書いたことによる、と司馬遼太郎は言います。司馬遼太郎の歴史認識は「司馬史観」と呼ばれることもあり、最近では否定される向きもあるようですが、日本の歴史や現在・これからについて考える真摯な視座の一つとしてその価値は非常に大きいと感じます。

小説作品についての言及も多いため、司馬作品を複数読んでいる人の方が楽しめるとは思いますが、日本史に興味のある人であれば本書から読み始めても良いでしょう。

学習する組織

コンサルタントとして事業開発だけでなく組織開発に関わることもあるため、読まねば読まねばと思いつつなかなか手を伸ばせず積ん読期間が長引いていた本だったのですが、本書を題材としたアクティブブックダイアローグ(ABD)が開催されることを知り、そこで読みました。ABDは集団で一つの本を読み解く読書手法で、各自が分担したパートの要約を作成し、全員で一冊の本の要約を完成させ、そこから感じることや考えたことに関する対話を行うことでさらに学びを深める、というものです。ABD自体に興味があり、探していたところ『学習する組織』でのABDが開催されるということで参加してみました。ABD自体の感想は話がそれてしまうので省きますが、自分が直接は読んでいないパートについてもある程度理解が進むという感覚をつかめたことは良かったです。

「学習する組織」の内容については本書自体は読んでいなかったものの、有名な本でありいろいろなところで聞きかじっていたのである程度知っていると思っていたのですが、原本を改めて読んでみてやはり良かったです。「システム思考」や「U理論」などの最近のトレンド的なテーマと親和性があるのはもちろんのこと、もっと広範にここ最近の組織開発論、ビジネス思想のトレンドのベースになっていると感じました

「自己マスタリー」「共有ビジョン」「チーム学習」といった本書の基本的なテーマは、VUCAと呼ばれる社会状況の中で今後ますます重要になっていくでしょう。実践、現場に活かすという意味では訳者の一人小田理一郎氏の『「学習する組織」入門』の方が使いやすいと思うが、何度も立ち返り、感じ、考えを深めていくものとしてはやはり本書を手元に置いておきたい。2020年には『サーバント・リーダーシップ』も読み、これもなかなか一読ですべてを理解することのできる本ではなかったが、数年ごとに読み返して新たな学びを得続けていくような読み方をする本というのは貴重な存在であり、年に数冊はそうした本に出会っていきたいなと思います。

私とは何かー「個人」から「分人」へ

作家平野啓一郎氏の著作。著者が小説作品の中でもテーマとして扱ってきた「分人主義」について解説する本です。

個人という単語はindividualを訳したものであり「これ以上分けられない」という意味を持つ単語ですが、身体的にはともかくとして内面としてはむしろ複数の分人dividualsからなっているのが我々人間ではないか、というのが分人主義の基本的な考え方です。付き合う人や場面によって「キャラ」を使い分け、その「キャラ」や「仮面」の裏側に「本当の自分」がある、というのは「分けられない個人」信仰によるものであり、分人主義は単なるキャラの話ではありません。相手との関係性によって、相手からの影響も受けて自然とできあがるあり方であり、私たちは内面に複数の分人を抱えながら生きている、というのが著者の主張です。

付き合う人を変えることの効果はこれまでもいろいろなところで言われてきましたが、私たちは影響を相互に与え合うことで成り立っているのであり、付き合う人や付き合い方を変えることで自分の中の分人の構成比を変えていくことができる(自分の中の分人同士も相互に影響し合う)という発想は面白く、腑に落ちる部分が多かったです。人間は社会を構成する社会的な動物であるというけれど、「社会的動物」ということの意味を捉え直すことができる考え方になりうるとも感じます。

福祉や教育など対人支援に関わる人も読んでみると面白いのではと思っています。例えばDVや児童虐待等の被害者の支援を考えるときに、新しい環境の中で新たな分人を作っていくことを考えること、特定の分人を小さくしたり消去して新たな自分を生きることができると伝えられること、そしてとはいえ被害者は加害者との分人の構成比が高い状態からスタートしているということなどを支援者間や支援者と被支援者の間で共通認識を作りながら支援を進めていくことができると良いのではないかと感じます。

個性の尊重が言われつつ、同調圧力が働きやすい社会の中で新たな個人としてのあり方を考える一つのとっかかりにすることができる考え方でしょう。なお、分人主義について小説作品で触れてみたい方は『空白を満たしなさい』『ドーン』がオススメです。また、近しい発想を別の切り口でえぐっていると感じたのが村田沙耶香氏の『コンビニ人間』です。ご興味のある方はぜひ読んでみてください。

21Lessons

2019年の年末休みに『サピエンス全史』を読み始め、2020年中に『サピエンス全史(上・下)』『ホモ・デウス(上・下)』、そして『21Lessons』を読みました。ユヴァル・ノア・ハラリはすごいですね。3作を通した一貫した構成力と、ユーモアを交えつつ記述する表現力、非常に素晴らしいです。これまでこの手の人類学的な本から受けた知的好奇心的な刺激ではジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』が最高だったのですが、抜いてしまったかもしれません。特に歴史学、文化人類学的な価値中立的な解説をしながらも、「文明は人類を幸福にしたのか」というような価値判断にも踏み込んだ記述を行う点が良いです。

『サピエンス全史』が最も有名なのでこれだけ読んだ、という人も少なくないと思いますが、現在やこれからの社会について考えたい方は、3部作を通して読むことを強くオススメします。まず『サピエンス全史』が人類社会の「過去」について整理した本であり、「虚構」というキーワードから人類史における貨幣・帝国・宗教・科学・自由主義などを一貫して解説する構成力は圧巻です。続く『ホモ・デウス』は人類の「未来」に関する本です。デウスとは神であり、人類はこの先神性(不死と至福)を獲得する方向に進んでいくだろうということが中心の軸になっています。本書の主張の中で「人類は疫病を克服した」という文脈があるのですが、新型コロナウィルスの登場により状況が少し変わってはいますが、それでもハラリがしているのは予想ではなく未来の可能性の話ですので、色褪せるものではありません。

そしていよいよ3作目の『21Lessons』では21のテーマから「現在の社会」について考えます。「自由」「移民」「テロ」など21の具体的なテーマから現代社会を掘り下げるという視点の本で、21の多岐に渡るテーマは前2作のようにすべてが一貫したストーリーで語られる訳ではありません。ただ、読み進めていくことで、さまざまなテーマやシステムが複雑に絡まって成り立っている現在の社会の姿があぶり出されていきます。21のテーマのどこに特に関心があるかは個人によってさまざまだと思いますが、どのテーマを考えるにしろ、個別のテーマだけを考えていたのでは解決しようがない、だがすべてのテーマに精通した人は存在しないという現代の社会の難しさを冷静に明確に指摘します。『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』はこの本のためにあったと言っても良いぐらいに感じる良書でした。

 

ハイペリオン

ここ数年、ちょこちょことSFを読み進めています。その中で出会った一冊。SF好きにというより小説好きにはぜひオススメしたい作品です。

28世紀、人類は宇宙に進出し多くの惑星に植民を進め連邦政府を構成しています。辺境の惑星ハイペリオンへ「巡礼」の一団として集まった構成員たちが順番に自らの物語を語っていく。それぞれまったく異なる目的で集まった彼らだが語りが一つずつ進んでいく中で、惑星ハイペリオンやその惑星の謎や秘密が少しずつ明らかになり、彼らの物語が複雑に絡まり合っていることが徐々に明らかになっていき、ハイペリオンの遺跡に封じ込められる伝説のシュライクの謎、宇宙の蛮族の連邦への侵攻など徐々に物語の全体像が明らかになっていく…というお話。

司祭、軍人、詩人、学者、探偵、領事と職業がバラバラの各人の物語それぞれに代表的なSFテーマが織り込まれていたり、一人称もあれば三人称もあり、文化人類学的アプローチの物語も、ハードボイルドなラブストーリーも、ハードな戦闘描写も、もうなんでもありで小説として非常にカロリーが高いです。てんこ盛り、という感じ

緻密な情景描写もなかなか想像するのが難しく、上下巻苦労しながら読み進めてきて、いやこれどう伏線回収するんだろと思っていたのですが、まさかの回収はすべて続編の『ハイペリオンの没落』でした。この作品はこの作品でそれなりの結末を用意するのかと思ってので若干肩透かしを食らった気分もありますし、今現在『没落』を読み進めている最中なのでまだこの物語がどうなっていくのか分かっていないのですが、それでもこのハイペリオンの物語と構成は忘れられない読書体験になったことは間違いありません。

銀河英雄伝説

この作品もずっと読みたいと思っていた本でした。こうして振り返ってみると2020年は長年読みたいと思っていた本を消化することが多かったのですね。

あまりの面白さに1巻から10巻まで一気に読んでしまいました。その名の通り宇宙が舞台のお話なので、この作品もSFといえないこともないですが、この物語の舞台は極端な話宇宙でなくてもできてしまいます。その意味でこのような作品は「スペースオペラ」と呼ばれます。何巻かの解説で「アメリカではスペースオペラという言葉や分野は揶揄の対象にもなっている」という話がありましたが、日本ではアニメやライトノベルの隆盛もあって少し状況が違いますね。

専制君主による「帝国」と民主共和制の「同盟」、そして独立商人たちの勢力による三つ巴的な構図は三国志なども下敷きにしているようで、物語としてのパワーが強いです。そして何よりラインハルトやヤンを始めとしたキャラの魅力が素晴らしいです。勧善懲悪の話ではなく、いずれの勢力のどのキャラにも自分なりの立場や思想があり、絶対的な正義は存在しないことが一貫して強調されることや、未来から歴史を語る視点での歴史物語的な記述があることなどが、本作を単純な戦略・戦術もので終わらせなかった背景にあります。特に「天才による専制政治と堕落した民主主義の対立」や、「市民の無関心」といったテーマは現代の社会に対するメッセージ性も強く本書を題材に政治や社会について考えることも面白そうです。「英雄待望論」「銀河英雄伝説世界のジェンダー規範のあり方」などは特に考えてみたいテーマ。

 


以上、2020年に読んだ本の中から特に面白かった10冊をご紹介しました。10冊と言いつつ、シリーズ物は一緒くたに扱っていたり、関連作についても紹介したりしてしまったので、全然10冊におさまっていない気もしますが、少しでも興味をひく本があれば幸いです!