淡青色のゴールド

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書評『ストーリーとしての競争戦略』経営戦略とは何であり、何でないのか

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書評『ストーリーとしての競争戦略』経営戦略とは何であり、何でないのか

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事は楠木健氏の『ストーリーとしての競争戦略―優れた戦略の条件』の書評記事です。経営戦略に関わる分厚い経営専門書でありながら異例の30万部超えのベストセラーとなっている書籍です。

 

内容紹介

一橋ビジネススクール教授を務める経営学者楠木健氏によるベストセラー経営書です。500ページを超える経営戦略論の大作ですが、その語り口はわかりやすく、経営学自体に馴染みのない方でも戸惑いなく読むことができます。組織経営に携わっていると、「戦略」や「計画」という言葉にはさまざまな所で出会うことになります。ただ、それらが意味している内容はあまりにもまちまちであったり、曖昧に使われすぎて本来何を意味しているのかということがわかりにくいまま使われていたりということが起こっているように感じます。では、組織経営に携わり戦略を考える立場にある人は何から学べば良いでしょうと私が質問された際には、まずは本書を読んでみてはいかがでしょうか、と推薦します。「戦略とは何か」という問いに対する答えを「その本質は競争にある」と端的に示しながら、実際にどのような構造になっており、どのように考えていけば良いのかをわかりやすく解説してくれます。

Amazonの内容紹介から引用します。

30万部突破のロングセラー!
戦略の神髄は 思わず人に話したくなるような 面白いストーリーにある。

大きな成功を収め、その成功を持続している企業は、戦略が流れと動きを持った「ストーリー」として組み立てられているという点で共通している。戦略とは、必要に迫られて、難しい顔をしながら仕方なくつらされるものではなく、誰かに話したくてたまらなくなるような、面白い「お話」をつくるということなのだ。
本書では、この「ストーリー」という視点から、究極の競争戦略と競争優位、その背後にある思考のパターンの本質を、多くの企業の事例を挙げながら解明していく。
一橋大学ビジネススクールで気鋭の経営学者、初の単独著作。
語り口調を使い、ストーリーを楽しめるような作りとなっている。

本書の構成

本書は以下のように構成されています。

まえがき
第1章 戦略は「ストーリー」
第2章 競争戦略の基本論理
第3章 静止画から動画へ
第4章 始まりはコンセプト
第5章 「キラーパス」を組み込む
第6章 競争ストーリーを読解する
第7章 戦略ストーリーの「骨法一〇ヵ条」
注記
索引

本書をオススメする人

本書は以下のような方に特にオススメです。

  • 経営や戦略立案に関わりのある人
  • 経営学に関心のある人
  • 経営戦略論を学んでみたい人

戦略とは何か?そして何ではないのか

戦略という言葉の前提であり本質は本書のタイトルにもある通り「競争」であると著者は語ります。競合関係にある他者の存在があるからこそ、戦略が必要になるということです。他者と自分は何が違うのか、どう異なることをするのか、競争環境の中でどのように継続的な優位を得るのか。それが戦略であるということ。非常に端的で分かりやすいですね。

こうした端的な定義解説を行いつつ、日々の組織運営に関わったり、ビジネス情報を収集する中で頻繁に目にし、しばしば「戦略」とイメージが混同しがちなさまざまな言葉との違いについても解説してくれる本書の第1章の「「ストーリー」とは何ではないのか」という節がとてもわかりやすく楽しく読むことができました(し、講師やコンサルタントとしてこれらの言葉を使用する立場のものとしても気をつけて言葉を使うべきであることを改めて感じました)

詳細はぜひ本書を手にしてもらえればと思いますのでタイトルだけ書きますと、以下のような説明を丁寧に一節ずつ設けながら解説してくれます。

  • 「アクションリスト」ではない
  • 「法則」ではない
  • 「テンプレート」ではない
  • 「ベストプラクティス」ではない
  • 「シミュレーション」ではない
  • 「ゲーム」ではない

戦略の本質としての「ストーリー」と「競合」との関係

本書ではとある組織がその継続的な優位を勝ち得るための強力な源泉は「ストーリー」にあるといいます。本書における「ストーリー」とは因果の論理をつなげること、です。つまりどういうことかと言うと、ビジネス全体を構築するいくつもの要素同士に一連のストーリーで説明できるようなつながりがあることが重要であるということです。また、良い戦略のポイントとして、要素を個別に見たときには「一見して非合理」とも思える要素の選択も含まれつつ全体のストーリーが構成されていることという点も挙げられます。競合する他社は自社を模倣しようとしますが、個別要素をいくら分析し個別に模倣を重ねたとしても、そうした視点は要素の合理的な組み合わせを探す視点となるので、非合理な要素は選択されえず、ストーリー全体は模様されないために競争優位が持続する、というのが本書の主な主張の骨子です。

経営学における競争戦略といえば例えばマイケル・ポーターなどが有名ですが、著者によればポーターが述べているのは「競争しないための戦略」です。コストリーダーシップ戦略にしろ差別化戦略にしろ、価格や提供価値を明確にすることで他社との違いを強調し、他社と競争せずに勝てる状況を作り出すことに本質があるということです。しかし、単純なコスト戦略だけでは価格競争に陥り自社も他社も疲弊してしまうだけであることは多くの業界、製品での実例により示されています。楠木氏が語る模倣可能性を加味したストーリーという捉え方は過去の競争戦略論も包含しつつ、納得度の高いものにまとめ上げられていると感じます。(著者の表現では「戦略とはdoing different thingsであり、doing things betterではない」というのも分かりやすいものでした)

同じくビジネスの構成要素に注目するものにビジネスモデルがありますが、ビジネスモデルとの違いは、ビジネスモデルが戦略の構成要素の空間的な配置に焦点を当てるのに対して、戦略ストーリーは打ち手の時間的展開に注目することであると著者はいいます。

少し著者の言葉を引用しましょう。

戦略ストーリーをつくるということは、このように現在地や目的地や地図情報を記した地図の上に、自分たちが進むべき道筋をつけるということです。到達すべき目的地を特定したり、地図情報を細かく書き込むことは、あくまでも下ごしらえであって、戦略ストーリーではありません。ストーリーという道筋を組織のすべての人々が共有し、道筋のついたリズをポケットに入れて、それを見ながら進んでいく。これが私の「戦略を実行する組織」のイメージです。

本記事の解説はやや抽象度の高い書き方となっていますが、実際には本書内では事例解説やサッカーなどのスポーツによる説明が程よくなされているために理解するのはそれほど難しくありません。

真似されにくいストーリーを作り上げるための一貫性とコンセプト

良い戦略ストーリーになっているかどうかの評価基準はストーリーの一貫性であると著者はいいます。一貫性の次元として挙げられているのは次の3つです。

  • ストーリーの強さ(robustness)
  • ストーリーの太さ(scope)
  • ストーリーの長さ(expandability)

つまり、強くて太くて長い話としてストーリーが語られるようであれば競合による模倣は簡単ではなく良いストーリーになっている、ということです。

また、ストーリーにはコンセプトも重要です。事業やサービスのコンセプトであり、組織全体に関わるものであればバリューやクレドなどと呼ばれる価値観にも通じるものですね。

コンセプト策定のためには本質的な顧客価値を定義することが必要です。本質的な提供価値を定義するとは「本当のところ、誰に何を売っているのか」という問いに答えることだと著者はいいます。

このコンセプトを検討する際に注意すべき点として分かりやすいと感じたのは、価値中立的な表現であるべき、ということです。例えば「最高の」「世界一の」などの無条件に肯定的な形容詞を使うべきではないといいます。有名な成功事例としてサウスウエスト航空の「空飛ぶバス」、スターバックスの「第三の場所」などが挙げられているのですが、これらの表現はそれ自体に肯定的な形容詞は含まれません。いずれも価値中立的な言葉で表現されているからこそ、それが誰にとってどのような価値を持つものなのかを検討することにつながるのだといいます。

模倣・横展開による課題解決スピード向上を狙うNPOの立場から

さて、本書では良いストーリーとは簡単には模倣されないだけの強さ・太さ・長さを持っているものであるということが解説されているのですが、営利組織ではなく非営利組織の場合には本書の教えを逆に理解することができます

非営利組織においては利益の創出ではなく、社会課題の解決がその組織の存在意義であり目的となっている場合が少なくありません。特定の社会課題の解決のためには特定の組織だけでその課題への対処にあたり続けるのではなく、成果の出る事業が確立されたのであれば、なるべくそれを他の事業者にも模倣してもらって他地域にも横展開していける方が良いという考え方も成り立ちます。これを本書に当てはめると、NPOにおいてはなるべくシンプルで模倣されやすいストーリーを構築することが必要になるということです。とはいえ、事業・組織としての継続性も確保しなければならないのは当然ですし、事業内容や対象受益者によっては他の組織やサービスと競合・競争関係にある場面も実際にはしばしばあり、こうした文脈では本書の教えをそのまま適用することも必要になるでしょう。また、どのような範囲における戦略を考えようとしているかによってもNPOならではの事情を考慮すべきかどうかが変わるといったこともありそうです。

NPOに関わる方もぜひ一度本書を読み、自組織の戦略の検討方法について考えてみていただければ幸いです。

『ストーリーとしての競争戦略』を読んだ人にオススメの本

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

入山章栄『世界標準の経営理論』

本書を読んで経営学自体をもう少し学んでみたいと考えた方にオススメなのが『世界標準の経営理論』です。大ベストセラーの書籍ですのでご存知の方も多いかと思いますが、売れているだけの確かな価値を持っていると感じます。分厚い本ではありますが、関心のあるテーマから読み進められますし、お手元に一冊置いて必要に応じて学んでいくのも良いかと思います。

野中郁次郎・勝見明『共感経営「物語り戦略」で輝く現場』

『ストーリーとしての競争戦略』と同じく戦略立案をテーマにした本です。キーワードとされている「物語り」も「ストーリー」と近しい印象を受けますが、「物語」ではなく「物語り」であり「語れる」というところに力点が置かれており語れるからこそ共感が生まれるということを軸に、さまざまな企業やサービスの事例解説が行われる書籍です。

当ブログで書評も書いておりますので良ければお読みください。

 

daisuket-book.hatenablog.com

 

小田理一郎『「学習する組織」入門』

一人で経営戦略を立案したいのではなく組織として成果を出すための戦略を練っていきたいということを考えていらっしゃる方であれば、戦略とは何かということの理解だけではなく、組織をどのように変革していくべきかについても視点も持てるとより良いでしょう。オススメはピーター・センゲの『学習する組織』ですが内容が平易ではないため、すぐに実践につなげていきたいという方にはこちらから読むのがオススメです。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。