本から本へつながる書評ブログ『淡青色のゴールド』

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コミュニティ支援組織が「コミュニティ」について学ぶ読書会で読んだ本(随時更新)

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コミュニティ支援組織が「コミュニティ」について学ぶ読書会で読んだ本

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事では「コミュニティ支援組織が「コミュニティ」について学ぶ読書会で読んだ本」と題し、コミュニティについて学ぶ・考えることに関心を持った方にオススメの本をご紹介します。

 

「コミュニティ読書会」で読んだ本を紹介します

私は普段NPO等の非営利組織のコンサルティングを仕事としており、お付き合いのある組織の皆さんと2021年からコミュニティについて学ぶための読書会に参加しています(2022年からは幹事でもあります)。コミュニティマネジメントの考え方の普及・啓発、育成や支援等を行っているNPO法人CRファクトリーに関わる方やその周辺の方で行っている読書会で、コミュニティ支援に関わる自分たち自身がコミュニティについての学術的・思想的な背景を鍛えたり、そのような背景を持った共通言語を持つこと、そしてこの読書会自体がコミュニケーションの機会・場としての組織内コミュニティの一つとする、などの目的で開催しているものです。オープンで開催している読書会ではないのですが、読書会の開催期間が長くなり対象としてきた書籍が増えてくる中で、読んできた本のリストをご紹介するだけでも、コミュニティについて学びたい方にとって参考になるのではないかと考え、本記事を作成することにしました。

一口に「コミュニティについて学ぶ」といっても、どのような角度からどのようなことを考えたいかによって対象となる本は多岐にわたります。中には「コミュニティ」というキーワードがタイトルに含まれているわけではないけれど、「コミュニティ」について学ぶ上で非常に重要な本も多いです。というか、そちらの方が多いかもしれません。本記事では関心に合わせて読む本を選べるように、簡単な分類と内容紹介を行いますので、ご自身の関心や課題に合わせて読む本を選ぶ参考にしていただけると幸いです。「コミュニティ」というテーマとどのような視点、文脈が関わりうるのかを知っていただければ、本記事で紹介した本に限らず、ご自身で本を選ぶ際の参考にもなるのではないかと思います。

また、読書会自体は現在も継続しており、年に4ターム(4冊分)回していますので、今後も読書会が終了するたびに更新していこうと思います。

なお、主催がコミュニティ運営やコミュニティづくりの支援を行っている団体のメンバーであるため、コミュニティ運営やコミュニティづくりのノウハウについて扱った本を取り上げることはありません(今後はわかりませんが)。そこで主催メンバーの所属団体であるNPO法人CRファクトリーが出版しているコミュニティ運営についての考え方を記した本についても「番外編」として紹介します。

コミュニティ読書会でどんな本を読んできたか(読んだ順)

まずはコミュニティ読書会で読んできた本を読んだ順にご紹介します。それぞれの本の内容については後半に分類ごとに紹介していきます。書名の後ろの期間についてはその本を読んだ読書会の開催時期です。(1冊を全4回で読んでいます)

  • 『コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来』(2021年5月〜7月)
  •  『孤立不安社会 つながりの格差、承認の追求、ぼっちの恐怖』(2021年10月〜11月)
  •  『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』(2022年1月〜2月)
  •  『コミュニティの幸福論――助け合うことの社会学』(2022年5〜6月)
  • 『コミュニティ』(2022年7月〜9月)
  •  『ダイアローグ――対立から共生へ、議論から対話へ』(2022年10月〜11月)
  •  『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(2023年1月〜2月)
  •  『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(2023年5月〜7月)
  •  『社会関係資本――現代社会の人脈・信頼・コミュニティ』(2023年8月〜9月)
  • 『思いがけず利他』(2023年10月〜12月)
  • 『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(2024年1〜2月)

コミュニティに関わる視点による分類と内容紹介

「コミュニティ」というテーマ自体が非常に幅広い概念であり、さまざまな文脈でさまざまな事柄とか関わってきます。ここからはコミュニティ読書会で私たちが読んできた本を分類してご紹介しますので、ご自身のコミュニティとの関わりや、関心に合わせて読んでみたい本を選んでいただければ嬉しいです。

「コミュニティ」について基本から学ぶ

まずは「コミュニティ」というテーマについて基本から、包括的に学ぶための初級編の本です。

『コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来』(広井良典)

まず一冊目にご紹介するのは公共政策、社会保障、医療など幅広いテーマを扱い執筆を始めとする発信活動も積極的に行っていらっしゃる研究者の広井良典さんの著作です。非常に丁寧に書かれた新書という印象の本です。約300ページと新書にしてはやや文量多めで、文章もかっちりしていますが、都市と農村、グローバル社会、社会保障、地域再生、ケア、科学、公共政策といった幅広いテーマとコミュニティとの関係を初心者にも理解しやすいように解説してくださいます。幅広いテーマそれぞれについて、歴史的な文脈や、関連する論文や書籍、現代的なテーマであればグラフや表などの統計データも適宜引用・解説されており、「コミュニティについて学びたい」と考えた方の最初の一冊として自信を持ってオススメできます。

『コミュニティの幸福論――助け合うことの社会学』(桜井政成)

「コミュニティ」について基本から学ぶ本の二冊目は、立命館大学政策科学部教授の桜井政成さんによる著作です。桜井さんはボランティアや市民活動・NPO等についての研究や著作を多く出されている研究者で、本書はコロナ禍が始まった2020年にオンライン授業用に作成されたテキストが元になっているそうです。大学の授業が元になっているということで、本書もコミュニティに関わる幅広いテーマを初心者でもわかりやすく解説してくれています。扱われているテーマは、「利他的行動」「ウチ・ソト文化」「地域コミュニティ・地元」「居場所―子ども・若者」「インターネット―SNS、オンラインゲーム」「当事者―LGBTを例に」「社会的包摂」「トラブル、排除」などなど。広井先生の『コミュニティを問い直す』はどちらかというと、各テーマの歴史的な経緯や文脈の記述が丁寧なところに特徴があるとすれば、本書は各テーマでより具体的な事例を元にした話題提供がされています。

現代社会の変化からコミュニティについて考える

続いては現代の社会そのもの、あるいはそこに起こっている変化を捉えるという視点です。社会の変化の中でコミュニティの重要性は変化しているのでしょうか。あるいはコミュニティの変化自体が社会の変化に影響を与えているのでしょうか。

『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン)

2016年に出版されベストセラーとなった本書についてはご存知の方は少なくないでしょう。本書を読んだことがなくとも、副題に冠されている「人生100年時代」というキーワードは聞いたことがあるという方は多いかもしれません。本書はまさにそんな人生100年時代に私たちの人生やキャリアのあり方にはどのような変化が起こりうるのかを解説した書籍です。働く期間が長くなる人生100年時代においては、一つの専門性を武器にハードに働き続けるだけでは不十分で、複数の専門性を組み合わせながら育てていけるようにさまざまな働き方を時期によって柔軟に変えていくことが重要だと提唱されます。そしてそのような柔軟な働き方の移行を可能にするのは、友人や家族などとの関係性から心身の健康やモチベーションを向上させる「活力資産」や新たな働き方へ導いてくれる多様な人的ネットワークである「変身資産」という二つの資産だといいます。「活力資産」「変身資産」の議論はまさにコミュニティの重要性を指摘しています。

『グッド・ライフ 幸せになるのに、遅すぎることはない』(ロバート・ウォールディンガー、マーク・シュルツ)

本書はハーバード大学で80年以上続く、「幸福研究」の中でわかってきた成果を一般向けにわかりやすくまとめた書籍です。著者の一人であるロバート・ウォールディンガー教授によるTEDトークは歴代ベスト10にもなっています(2024年3月12日時点で4,600万再生)。本書はこのTEDトークのエッセンスを書籍化したものという位置付けです。80年という超長期の調査は被験者に定期的なヒアリングや各種の調査(健康診断等)を行い続け、被験者の家族や子、孫と代々調査対象が引き継がれて続いています。第二次世界大戦以前から続く研究ですので、被験者の方たちが経験してきた社会的な変化は非常に大きなものです。生まれ育った環境も、経験も、性格も多様な被験者を調査し続けた膨大な研究ではありますが、本書が私たちに提示してくる学びは非常にシンプルなものです。それは、幸福な人生には人とのつながりが重要だということです。家族やパートナーとの関係、友人との関係、職場での関係など様々な人間関係の側面をさまざまな人物のエピソードを元に解説し、私たちに内省を促してきます。個人的には、本書の視点はあまりにも個人の意志や責任次第という側面が強すぎるようにも感じる部分はありますが、副題にもなっている通り人間関係やコミュニティへの所属は何歳からでも前向きに取り組んでいくことが可能なテーマではあるので、シンプルなメッセージは非常に強力です。つながりが重要だとして、政策として個々人のソーシャルフィットネス(本書においては「人間関係の健全度」という説明もなされている語で、人間関係は筋肉と同じで何もしなければ衰えていくものでありエクササイズが必要であると述べられています)を鍛えるプログラムをどのように模索するかという視点があまりにあっさり触れられていただけだったのですが、個人的にはむしろそこが重要なのではと感じます。本研究からはそうした方向性の知見も引き出せるはずですので、今後の研究成果の学術方面での発信等も注目していきたいです。この本が孤独担当大臣を率先しておいたイギリスから出たものだったらまた少し違うんだろうかなどと考えながら読んだりもしましたが、皆さんはどのように感じるでしょうか。

「孤独・孤立」という社会課題とコミュニティの関係を考える

特に地域コミュニティや居場所としてのコミュニティという文脈に関心のある方にはぜひ考えていただきたいのが「孤独・孤立」という課題についてです。

『孤立不安社会 つながりの格差、承認の追求、ぼっちの恐怖』(石田光規)

社会学者石田光規先生の『孤立不安社会』です。タイトルの通り「孤立」という切り口から現代日本社会を読み解く書籍です。「孤立」「孤独」「ぼっち」「おひとりさま」など「孤立」やそれに類するキーワードはニュースの中でも私たちの日常会話の中でも頻繁に登場しますし、基本的にはマイナスの意味合いを想起する言葉ではありつつも、一方であえてそれを選択したりそれを誇示する生き方もあり(「ひとり◯◯」「ソロ◯◯」「おひとりさま」など)、全体的な印象としてはひとりひとりの選択的な志向の問題(もしくは努力の不足)であると捉えている方が多いのではないでしょうか。ただ、本書を読み進めていくと、あえて「おひとりさま」や「孤立」を選択できることや一定以上に他者とのつながりを享受することができるのは、社会的な強者の証であり、「孤立」は社会的な構造の中から生まれている社会課題であることを空恐ろしいほどに痛感させられます。他者とのつながりはその人が生まれ育った環境によっては「しがらみ」と感じられることもあり、特に戦後の日本社会はムラ社会的なしがらみからの解放は多くの人によって求められてきたものですが、その結果たどり着いた現代社会ではつながる相手を自分で選び、しかも相手からも同時に選ばれないとつながれない社会です。第一章では「婚活」が題材となっています。選び選ばれることのハードルの高さやマッチングサイトビジネスの便利で残酷な仕組みをもとに「孤立」という問題やつながれないことに対する「不安」とはどういうものなのかが語られるのですが、婚活を経験しているかどうかに関わらず私たち一人ひとりが日常の人間関係の中で感じていることが語られていることがわかります。ニュースで語られる孤立死などの話題は自分には身近ではないと感じる方でも、誰にでも関わりのある問題であり、しかも自分がつながり格差社会における「恵まれた上位層」であることに無自覚であったことを考えさせられます。

『社会的処方 孤立という病を地域のつながりで治す方法』(西智弘)

「孤独・孤立」とコミュニティについて考える本の二冊目は医師の西智弘さんが編著者を務めた『社会的処方』です。「孤独・孤立」が社会課題だとすれば、それを解消したり防いだりする手立てを考えていかなければなりませんが、社会的処方はまさに「孤独・孤立」に対応した具体的な実践です。社会的処方というのは従来の医療的な枠組みだけでは対処が難しい状態や問題に対して、薬ではなく「地域での人とのつながり」を処方するというものです。処方という言葉が含まれている通り、医療との連携の中で取り組まれるもので、認知症や抑うつ状態にある方にボランティアやサークス活動などの社会的なつながりが「処方」されます。実際にイギリスでは制度化されており、プライマリケアにおける実践的な仕組みが全国で100以上稼働しているだけでなく、救急外来患者の減少(14%)、患者の予期せぬ入院によるコストの減少(570万ポンド→450万ポンド)などの医療費の削減にもつながっているということで注目を集めているそうです。本書はそんな社会的処方の考え方や日本での取り組み事例などが解説されていますので、医療・福祉や地域づくりなどの現場に近いレベルでコミュニティについて考えたいという方はぜひ読んでみてください。

別途書評も書いておりますので良ければご覧ください。

 

daisuket-book.hatenablog.com

 

「組織」という単位で人との関わりについて考える

特定の組織・団体を一つのコミュニティと捉えることもでき、組織開発的な議論の中にもコミュニティというテーマと相性の良い本もたくさんあります。

『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(宇田川元一)

経営学者の宇田川元一さんによる著作です。福祉や医療領域で理論化がなされ、良い実践も見られるナラティブアプローチを組織開発に取り入れるというのが本書の主題です。福祉や医療においては被支援者や患者側のナラティブを重視するというナラティブ・アプローチを組織という文脈で捉えると、組織内のメンバー・同僚でお互いに見えていることや考え方が異なる状態でそれぞれの立場からの「正論」をぶつけ合っても解決しないので、相手の立場を観察し、自分と相手の間にある溝に橋をかけることを考えることが重要だということを、「準備」「観察」「解釈」「介入」と4つのステップに分けて解説していきます。「コミュニティ」というキーワードをどのような文脈や大きさで考えるかにもよりますが、何らかの組織・団体など一定以上クローズドなコミュニティについて考える際の視点を深めることができます。本書の中では人間関係には「私とあなた」「私とそれ」大きく二つの関係があり、この二つの関係のバランスや使い分けを考えていくことが重要であるということが指摘されるのですが、適切な組織・コミュニティ運営を考えていく際にも、あるいはコミュニティの内と外の問題を考える際にも重要な視点を与えてくれます。

人間関係を考える上で重要な関連テーマについて考える―「対話」「利他」

どのような単位、文脈で考えるにしろコミュニティには複数の人が含まれており、その関係づくりや関係性の変化自体に関わるテーマを考えるということもコミュニティという幅広い概念に向き合っていく上では非常に大切なことだと考えます。

『ダイアローグ――対立から共生へ、議論から対話へ』(デヴィッド・ボーム)(テーマ:対話)

本書は『ダイアローグ』というそのものズバリなタイトルを冠しており、このテーマに関心のある方にはそれなりに有名な本だと思いますが、なかなか難解な本です。副題の「対立から共生へ、議論から対話へ」や帯に書かれている文言を読むと、何かこの本に明確な「対話とはこういうものである」「こうすべきである」というような「答え」が書いてあるような期待を抱いてしまいますが、そういう類の本ではありません。ボームがさまざまなところで書いた小編を後から一冊にまとめた本なので体系的でもありませんし、ボームが理論物理学を主体に心理学や哲学にも精通した人物ということで「コヒーレンス」など独特な用語用法も飛び出てきます。それでも、多くの人に読んで欲しいと感じる本です。対話的な手法に注目が集まる昨今だからこそ、本書を読んだ人同士で「対話とは何だろうか」という対話を行うような場面が少しずつでも広がるならそれは素敵なことなのではないかと思いますし、ボーム自身もそうした対話的な営みやグループがグローバルレベルで広がっていくことが必要だ、と述べています。

ボームはあらゆる社会課題は対話的でない関係や思考から生まれているといいます。ではそれを解決すべき対話的な状態とは、唯一の正解を導き間違っている個人を正すための営みではなく、何か事前に明確になっている答えや目的のために行われるものでもないといいます。集団的思考、参加、保留、意識・感情、そして文化などさまざまな抽象的概念を用いたボームの考えを味わうと、具体的で明確な言語化は難しくとも、自身が対話的な取り組みやさまざまな場に対するときの視座は一段上がるように思います(そういう何か個人として成果を得た、と安易に結論したくなる姿勢に注意せよと言われている気もしますが)

『思いがけず利他』(中島岳志)(テーマ:利他)

本書はタイトルにもある通り「利他」について考える本です。コミュニティの目的というのもさまざまあるかと思いますが、特に非営利の市民活動や地域活動などでは人々がそのコミュニティに関わる動機やコミュニティの中で行われる主要な活動の視点として利他的であることが含まれるということも珍しくないでしょう。ただ、何が利他的であって、何が利他的でないのかというのは、考えてみると答えるのが簡単ではありません。今回本書の紹介をこうして追記している2024年1月は年始に能登半島地震があり、寄付やボランティアといった利他的な行いについての話題が多く発信されていますし、例えば有名人の寄付やボランティアの行いに対して「偽善だ(利己的である)」というバッシングがなされたり、と残念ながらよくある不毛なやりとりがSNSを中心に散見され見ているだけでも疲弊してしまいそうです。利他ってどのように考えたら良いのでしょう。

本書は政治学者の中島岳志さんによる著作なのですが、まず非常に読みやすいのが特徴です。利他という考えるのが難しそうなテーマではありますが、落語、共感、ヒンディー語、ボランティア、支配、ケア、送り手と受け手、過去と現在と未来、親鸞、偶然と必然…と自在に話題を転換しながら進んでいく中島さんの語り口というか表現が素晴らしく考えることを楽しみながら読み進めていくことができます。個人的に特に利他を考える上での視点がグッと広がったと感じるのは送り手と受け手という話に続いて、過去現在未来という時制の視点を取り入れてくれたことです。利他的であるかどうかは受け手側がどのように感じるか次第であるというのはまぁ当たり前の話ですが、そこに「受け取るのはいつなのか」という話が入ってくると非常に面白くなります。

一点注意をしていただきたいのは、本書は論理的で体系的な学術書ではありませんし、本書に「利他とは何か」ということの答えが書かれているわけでもありません。(そもそもそんなものないのかもしれないですし)人事を尽くして天命を待つじゃないけれど、理路整然と思考を尽くした先に感じる何かでないと利他は語れないのではないか、というのが本書を読んだ個人的な感想です。そして、中島さんの話題の転換の仕方というかレトリックが素晴らしすぎて油断するとスッと読み飛ばしてしまいそうなところに実は考えがいのあるポイントが潜んでいたりしますので、ぜひ誰かと感想を交換しながら読むことをオススメします。

ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)について考える

ソーシャル・キャピタルは一般に社会における人々のつながりや信頼関係、またはそれらに対する期待や規範のことを指すとされますが、コミュニティというテーマとは多くの文脈で視点や議論が重なり合う重要なテーマです。

『社会関係資本――現代社会の人脈・信頼・コミュニティ』(ジョン・フィールド)

本書は2022年秋に日本語訳版が出版された比較的新しい社会関係資本の入門書です。社会関係資本・ソーシャル・キャピタルは教育やまちづくりなど人の教育や参加に関わるような分野では広く参照もしくは言及される概念となっており、聞いたことがあるという方は少なくないでしょう。ただ、それが実際にどのような概念なのかを本当に理解しているかというと自信を持てる方はあまり多くないのではないでしょうか。本書では、社会関係資本の文脈で最も名前の挙がるパットナムだけでなく、教育や格差、それらと関わる文化について研究してきたブルデューやコールマンを含めて社会関係資本理論の「古典」と位置付け、各人の研究の概要とそれぞれの理論の課題(限界)を示します。基本的に良いものとしてだけ理解されている社会関係資本理論にも負の側面が多くあることや、定義や理論、あるいは測定に多くの曖昧さや不明確な部分が残っていることを幅広い地域・分野の多くの論文や書籍を引用しながら丁寧に解説がなされます。また、社会関係資本の古典以降の重要トピックスとしてインターネットと社会関係資本の関係についても、やや踏み込みは浅いですが論じているのも重要です。多くの課題はあっても今後も社会関係資本理論の活用は進んでいくでしょうし、個人的にもそうあって欲しいと感じていますが、だからこそ政策的あるいは各実践レベルで社会関係資本の醸成や測定に関わる方にはぜひ本書を手にして基本的な理解の度合いを高めていただければと思います。ちなみに、本書を読む際には先に巻末の「解説」を読むと、全体像をスッキリと理解しながら読み進めることができやすいと思います。

上級編

こちらに分類している本は、特定の分類、テーマに限らず社会学など学術的な難易度がやや高いものです。

『コミュニティ』(ジグムント・バウマン)

著者はポーランド出身で、イギリス・リーズ大学で長く教鞭をとった社会学者のジグムント・バウマンです。ポストモダンのグローバル社会やその中で生きる個人について、さまざまな角度から考察を行ったバウマンが2001年に出版したのが本書です(日本語版の出版は2007年、私が読んだのは2017年に出版されたちくま学芸文庫版)。「コミュニティ」というキーワードは近年非常にさまざまな文脈で使われており、年々その注目度は増しているように思いますし、基本的にはどこでも「良いもの」として扱われています。私自身も非営利組織支援を主に仕事にする中で、地域その他さまざまな文脈における「コミュニティづくり」の活動に関わることもあり、コミュニティをつくることや活性化することを目指すことが多くあります。しかし、バウマンはそのような無条件のコミュニティ信奉には警鐘を鳴らします。日本語版の副題に「安全と自由の戦場」とありますが、コミュニティというものは一定の側面から見れば何らかの価値観や規律の元に個人の自由を制限するという側面もあります。もちろんグローバル化が進み、近代社会において個人を包摂してきた国家や企業の枷が緩み、それ以前の地域コミュニティの枠組みもとうに衰退してしまっている中で、新たなコミュニティの構築を個々人が求め、模索することは当たり前のことではありますが、現代社会の中で進むコミュニティ化の中には”エリート”と”ゲットー”の分断を推進しているようなものも少なくないというバウマンの指摘を無視したコミュニティ万能論に依存してはいけないでしょう。コミュニティが大切であることを信じてコミュニティづくりに関わる人にこそ、コミュニティの持つリスクについても考えを巡らせることは必要なことだと感じます。読みやすい本ではないですが、オススメです。

番外編:コミュニティ運営・コミュニティづくりについて学ぶ

最後に番外編です。私たちの読書会の対象書籍ではないのですが、本記事にたどり着いた方には関心をお持ちの方も多いだろうということで、コミュニティ運営やコミュニティづくり・仲間集めに関する本をご紹介します。

『コミュニティマネジメントの教科書』(NPO法人CRファクトリー)

crfactory.com

本書はNPOなどの非営利組織の組織運営支援を行っているCRファクトリーの代表呉さんが、長年の活動の中で培ってきたコミュニティ運営の知見を体系的にまとめた書籍です。事業計画を作ることやマーケティング戦略を練ることは非営利組織ならではの観点はありつつも、営利組織が培ってきた理論や実践から多くを学び参考にすることができます。一方で、組織づくりについてはボランティアをベースとする非営利組織では給与という営利組織における大きな要素が存在せず、根本的に異なった考え方をする必要があります。

本書ではNPOや市民活動・ボランティア、サークル活動や自治会等の地域コミュニティまで、営利を目的としない組織の運営において、どのような視点を持って自分たちの課題を認識していけば良いのかを体系的に教えてくれる他、実際に改善に取り組む際に実践できる施策やワークも具体的に紹介されており、そのタイトルの通り今後非営利セクターで長く「教科書」として読まれるべき本だと感じます。特に新型コロナウィルスの影響により思うように活動ができていない・再開できていないコミュニティは少なくないと思いますので、その運営者の方はどういった点を守りながら活動を変化させていけばよいのかを考えるヒントになるでしょう。また、リモートワーク化により地域にいる時間が増えたり、家庭と仕事以外の所属コミュニティを探し始めた方も少なくないのではないかと思います。こうした第3の居場所(サードプレイス)や活動先を多くの人が持つことは新今後の社会の中では非常に重要なものになると個人的には感じており、その意味では本書は今後来る「人生100年時代」に持つべきスキル、視点を学ぶことができる本だとも感じています。ぜひ多くの方に手にして欲しい本です。

本書については別途書評記事を書いておりますので、良ければこちらもお読みください。

 

daisuket-book.hatenablog.com

 

更新履歴

2023年11月24日 公開

2024年1月19日 更新(『思いがけず利他』を追加。合わせて分類を微修正)

 

以上、いかがでしたでしょうか。

変化が早く、多くの社会課題による不安感も年々大きくなる社会の中で、人とのつながりや関係性の価値を考える「コミュニティ」というテーマは、さまざまな分野、文脈において重要性が増していくでしょう。私自身もこれからも勉強と実践を続けていきたいと思いますが、あたたかなコミュニティにあふれた豊かな社会にしていくためには、一人でも多くの人がコミュニティに対して価値や希望を感じていることが何より重要だと考えます。本記事がコミュニティについての関心を高め学ぶことのきっかけを提供することにつながれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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