本から本へつながる書評ブログ『淡青色のゴールド』

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書評『コミュニティマネジメントの教科書』は人生100年時代の必読書かもしれない

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書評『コミュニティマネジメントの教科書』は人生100年時代の必読書かもしれない

こんにちは。経営コンサルタントの書評ブログ『淡青色のゴールド』にお越しいただきありがとうございます。本記事はNPO法人CRファクトリーの代表呉哲煥さんが執筆した『コミュニティマネジメントの教科書』の書評記事です。

 

 

内容紹介

本書はNPOなどの非営利組織の組織運営支援を行っているCRファクトリーの代表呉さんが、長年の活動の中で培ってきたコミュニティ運営の知見を体系的にまとめた書籍です。

「運営している団体にせっかく関わってくれたメンバーには居心地の良さを感じてもらったり、活動をする中での楽しみを感じてもらいたい」

これはどんな非営利組織を運営する方でも共通した想いだと思いますが、実際にどうすれば良いのか、どこから考えれば良いのかといったことを教えてくれる情報はなかなかありません。

事業計画を作ることやマーケティング戦略を練ることは非営利組織ならではの観点はありつつも、営利組織が培ってきた理論や実践から多くを学び参考にすることができます。一方で、組織づくりについてはボランティアをベースとする非営利組織では給与という営利組織における大きな要素が存在せず、根本的に異なった考え方をする必要があります。

本書はNPOや市民活動・ボランティア、サークル活動や自治会等の地域コミュニティまで、営利を目的としない組織の運営において、どのような視点を持って自分たちの課題を認識していけば良いのかを体系的に教えてくれる他、実際に改善に取り組む際に実践できる施策やワークも具体的に紹介されており、そのタイトルの通り今後非営利セクターで長く「教科書」として読まれるべき本だと感じます。

crfactory.com

本書の構成

序章 コミュニティマネジメントの教科書をつくろうと思った理由
第1章 コミュニティマネジメントの基本理論
第2章 優れたコミュニティの要件 ~コミュニティキャピタルの3因子~
第3章 コミュニティマネジメントの施策・ワーク集
第4章 これからの日本社会にコミュニティが必要な理由
第5章 コミュニティをつくり運営するあなたへ

オススメ度

★★★★★(5/5)

本書をオススメする人

本書は以下のような方にオススメです。

  • NPOや市民活動、ボランティア活動、サークル活動、自治会やマンション組合などの地域コミュニティなど非営利目的の組織の運営に関わる人
  • NPO等の組織で初めてマネジメントに携わり、悩んでいる若手マネージャー
  • ボランティアマネジメントやボランティアコーディネートに関わる人
  • これからボランティア活動やプロボノ活動をしたいと考えているビジネスパーソン
  • 「コミュニティ」に関するテーマに広く関心を持つ方

中でも私が特にオススメしたいと感じているのは2番目に挙げた「NPOの若手マネージャー」です。その理由は本記事後半に詳しく述べます。

コミュニティマネジメントといえばCRファクトリー

本書の出版元となっているNPO法人CRファクトリーは「すべての人が居場所と仲間を持って心豊かに生きる社会の実現」をビジョンとして掲げ、NPOやその他あらゆる非営利のコミュニティの運営や人材育成のためのセミナーやイベント、ツールの提供や情報発信、コミュニティに関する研究などを行っている団体です。

crfactory.com

「コミュニティマネジメント」はその言葉だけだと具体的なイメージが湧きにくいかもしれませんが、CRファクトリーではその本質を「強くあたたかい組織」というキャッチーなキーワードで表現されています。力強い活動を行う組織、そして関わる多くの人たちにとってあたたかな組織。それがコミュニティマネジメントの目指すところだとすれば、自分の組織運営にも必要不可欠な要素であることを感じる方は多くいらっしゃると思います。

私は普段経営コンサルタントとしてNPOや市民活動を行う組織からのご依頼を受けることも少なくないのですが、非営利組織の方からのご相談の多くは「人」か「資金」の悩みがほとんどです。特に人や組織に関する悩みは、ボランティアを中心としていて強制力のない多様なメンバーで構成されていることなど非営利組織ならではの悩みが多く、解決方法を見つけられずにいる人たちが少なくありません。

CRファクトリーではそのような悩みを抱える組織やコミュニティの運営者の指針となるようなセミナー・イベントを多く開催してきています。全国的に活動するような大きなNPOで、CRファクトリーさんのコミュニティ運営セミナーを卒業しているというケースも少なくありません。それだけ、NPOセクターにとっては唯一無二の知見を提供されている団体です。

本書はそのCRファクトリーのコミュニティ運営に関する知見をはじめて体系的にまとめた書籍です。これまではセミナーやE-learningを受講するしかその知見に触れる機会がなかった情報を書籍という形で学ぶことができるということで、出版前から非常に楽しみにしていた本でした。

NPOは何のために存在するのか?

本書はNPOに限らず、サークル活動やPTA、自治会やマンション組合など様々なコミュニティを対象として書かれている本ですが、ここからは特に私が普段接することの多いNPO(主に法人格を取得して運営されているケース)に関わる方を対象として、本書のオススメポイントをご紹介していきます。

NPOは課題解決を目指す!だけど、その前に。

NPOは何のために存在するのか?誰のために存在するのか?

それは「社会課題や地域課題の解決のためである」というのが一般的な回答です。自分たちが支えたいと考えている対象者(受益者)の課題を解決するために、組織され、事業を行うのがNPOです。私も普段、NPOのコンサルティングでビジョン・ミッションの策定や事業計画づくりを行う際には一番最初に問いかけるのがこの質問です。

社会課題を解決したり、あるいはこれまで社会や地域では見過ごされてきたような新しい価値観を作り出したり、届けたりする。それがNPOの存在意義であることは間違いありません。

ただ、その前に考えなければならないことがあります。課題解決をしていく中で、そこに関わっている自分たちメンバーは幸せであるだろうか、楽しんでいるだろうか、ということです。いくら課題解決を行うことができる事業モデルだったとしても、そこに関わる人がツラい組織では人はその組織に関わり続けることはできませんし、新たに参加する人も現れません。参加し活動を担う人がいなければ当然事業を続けることも、拡大することもできませんので、NPOとして課題解決をしたいのであれば、まずは関わる人の楽しさが必要であるということです。

ボランティアによる自由な関わりのメンバーをどうマネジメントするか

日本には特定非営利活動法人の法人格を持って活動している団体が全国で5万程もあります。その他にも財団法人や社団法人中にも公益目的で非営利徹底型の運営をしている組織もありますので、非常に多くの法人が非営利組織として存在していますが、特に特定非営利活動人(いわゆるNPO法人)には有給の職員を雇用している団体は多くはありません

ほとんどの団体はボランティアにより支えられています。

ボランティアという自由な、自発性に基づいて参加するメンバーをマネジメントするというのは簡単なことではありません。メンバーの募り方や参加方法によっては、メンバー間で参加の頻度もまちまちになります。週に一回の活動に毎回参加する人もいれば、1ヶ月に1回や2ヶ月に1回だけ参加する人もいます。モチベーションの違いにより参加頻度が変わるだけではなく、家庭の都合や仕事の都合などでやむにやまれず参加の頻度は低いが、想いとしては非常に熱いものを持っているという方だっています。逆に毎回参加してはいるけれど、参加態度は受身的で何かを積極的に引き受けたりはしないという方がいると、一部の中心メンバーにばかり役割や負担が偏ってしまうということもあります。

何らかのコミュニティの運営に携わったことのある人ならこのような悩みはよくあることだと思います。ただ、その解決策は通常のビジネスにおけるマネジメント手法を学んでもなかなか解決しません。だからこそ本書には意味があります。

「連絡を返してくれないメンバーがいる」
「ミーティングで意見が出ない」
「イベントの参加率が低い」

といった悩みに対して、具体的な打ち手を教えてくれます。

例えば、新規のメンバーを呼び込み、少しずつ中心メンバーに巻き込み、役割や出番を任せていくといった一つ一つのステップにコミュニティを運営する人や、そこに参加する人の感じていることを想像しながら読み進めることができ、非常に分かりやすいです。

日本社会の多くの課題に共通する「孤独」という問題

メンバーを巻き込み、メンバー自身が楽しみながら事業の発展や社会課題の解決に取り組んでいく、そのためのコミュニティマネジメントですが、本書の視点が素晴らしいのはコミュニティをマネジメントすることは非営利組織において課題解決という目的を達成するための単なる手段なのではなく、コミュニティマネジメントそれ自体にも社会的な価値があると指摘している点です。

著者は現在の日本社会にある様々な社会課題に共通する根深い問題として「孤独」という問題があると指摘します。

核家族化が進み、地域コミュニティが希薄になることで、子育てが孤育てになっていることが例えば児童虐待という問題につながっているといえますし、かつて高度経済成長期には会社が社員やその家族の面倒を見ていたものが終身雇用制が終焉していく中で労働者やその家族は孤独の中で人生の切り盛りをしていかなければならなくなっています。
そうした「孤独」という問題が多くの人に直面する社会の中では、誰かにとっての居場所となれるコミュニティが存在すること、そこを居心地の良い場所として運営していけることは社会的に非常に価値のあることだと著者は言います。この点は特に強く同感します。

人生100年時代は誰もが複数のコミュニティに関わる時代

『LIFE SHIFT』という本がベストセラーになり「人生100年時代」というキーワードが多くの人の耳に入るようになりました。その文脈とも絡みながら「働き方改革」が多くの職場で進められ、副業や兼業に挑戦したり、ボランティアやプロボノといった形で非営利組織への参加を始める方も増えています。そしてこの動きはどんどんと加速していくはずです。

人生100年時代は、労働人生が長くなるということを意味しますが、その労働人生はこれまでのような働き詰めのものではなく、家族との時間であったり、あるいは仕事とも家族ともまた違う自分の趣味であったり、住んでいる地域に関連する別のコミュニティに所属して活動する時間も同時に楽しんでいくような、そんな時代になっていくはずです。というか、そうしていきたいですよね。

だとすると、今後の社会においては営利組織におけるマネジメントスタイルだけでなく、非営利組織への参加態度や運営方法を知っている人が増えることは非常に価値が高まります。その意味では本書は人生100年時代における基本スキルを伝える必読書となっていく可能性も秘めていると感じています。

初めてマネジメントを経験するNPOの若手マネージャーに特にオススメ

さて、少し話が大きな文脈に飛んでしまったので、最後にとても具体的にこの本を読むべきと感じる人向けにおすすめポイントをまとめます。

私が本書を特に強くオススメしたいのは「初めてマネジメントを経験する若手マネージャー」です。

本書自体が主に想定しているのは有給職員はほとんどいないようなボランティアベースの組織だと感じますし、そのような組織の運営に役立つことはここまで述べてきた通り間違いないのですが、それらの組織とは別に私がぜひ本書を読んで欲しいと感じるのは、有給職員を中心に運営されている非営利組織におけるマネージャーです。

創業代表者が若い組織においては、中心メンバーも若くしてマネージャーとなることが少なくありませんが、このような若手マネージャーの中には自分自身がマネジメントした経験どころかマネジメントされた経験もほとんど持たないままにマネージャーとなる場合もあります。

多くの人はチームメンバーとの関係構築や、その中で事業目標をどのように達成していくかということに悩み、マネジメント本を読んだりするのですが、悩みがうまく解決しないことも多くあります。企業のマネージャーと異なる点は多くあるのですが、一番難しさに直面しやすいポイントとしては有給職員を中心とした非営利組織においても、若手マネージャーがマネジメントする対象はボランティアベースの人材も多いということが挙げられます。ボランティアやプロボノ、そして学生インターンなどです。それらの関わり方の人たちが混在している場合もあり、参加頻度も、能力も、モチベーションも非常に多様な人たちのマネジメントを、給与という金銭的な関係や強制力を抜きにしてマネジメントしなければならないので、非常に高度なマネジメントスキルが求められるのですが、なかなかそのことを理解してくれる人も、教えてくれる人もおらず、悩み続けてきた方とこれまで何人もお会いしてきました。

その人たちにはぜひ本書を薦めたいです。本書の具体的な視点を知ることで、多様なメンバーの参加方法をデザインし、NPOとしての成果を挙げていくことの楽しさや価値を感じ直すことのできる人は間違いなく増えるでしょう。

私としては今後コンサルティングさせていただくNPOに悩める若手マネージャーがいた場合には本書をオススメする機会が多くなると感じています。

『コミュニティマネジメントの教科書』を読んだ方が次に読むべき本

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

ファンドレイジングについて学びたい『ファンベース』

NPO等の非営利組織でファンドレイジングに関わっていらっしゃる方であれば、次の一冊としてぜひおすすめしたいのが『ファンベース』です。『コミュニティマネジメントの教科書』は支援者に対してのコミュニケーションや参加機会の提供を考える上でも役立ちますが、運営メンバーにも近いような参加者について考えていくことととは別に、組織やその活動を応援してくれる「ファン」としての寄付者との関係について考えていく際に示唆に富む視点を多く提供してくれる一冊です。

ボランティアマネジメントについて学びたい『こんな夜更けにバナナかよ』

ボランティアを中心とした組織運営やイベント運営などを行っていて、にもかかわらず自分自身はボランティアをした経験があまりないという方であれば、ボランティアに参加することで感じる戸惑いや驚きや悩み、そして楽しみをボランティアに参加した人たちが実際にどのように感じているのかを知ってみることがオススメです。本書は障害者の自立生活の支援ボランティアという福祉分野のボランティアたちを取材したルポですが、単なる取材ではなく著者自身が体当たりでボランティアにも参加し、悩んでいる姿が丁寧に描かれている素晴らしい本です。私自身が学生時代にボランティア活動をしながら悩んでいたときから何度も読んでいるオススメの本です。

マネジメントについて更に学びたい『チームが機能するとはどういうことか』

マネジメントについてさらに学びを深めたいという方にオススメなのがこちらの本です。タイトルの通り「チームビルディング」についての本なのですが、チームを率いる中でリーダーが果たすべき役割はなにかということをとても分かりやすく捉え直すことができます。

事業づくりについて更に学びたい

稼ぐNPO~利益をあげて社会的使命へ突き進む~

稼ぐNPO~利益をあげて社会的使命へ突き進む~

 

メンバーにとっての居心地の良さや楽しさ、活躍などについては十分に構築することができた次の段階として、より活動を充実させたり、社会課題の解決という点でさらに発展させていきたいという方にオススメなのが『稼ぐNPO』です。非営利組織向けの本で「稼ぐ」とタイトルにつけている点が特徴的ですが、お金を稼ぐこと自体を目的とする訳ではもちろんなく、NPOとしての価値を伝え広げていくためにどのようなビジネスモデルを構築すればよいかを分かりやすく教えてくれます。受益者や参加者や地域の人、寄付者などNPOに関わる多様なステークホルダーそれぞれにとっての価値をどのように形作っていくか、具体的なステップやフレームワークを学ぶことができます。

 

最後までお読みいただきありがとうございました。