こんにちは。daisuketです。本記事はコラムニストとしてTV出演などもされている犬山紙子さんの『私、子ども欲しいかもしれない。:妊娠・出産・育児の〝どうしよう〟をとことん考えてみました』の書評記事です。
- 内容紹介 どんな本か?
- なぜ読んだのか?子どもを持つことに対する考えの男女差
- 男性も含めてすべての大人が読むべき、知るべきことの多い本
- 男性も考えや悩みはさまざまである、はずなのに
- 『私、子ども欲しいかもしれない。』を読んだ方や興味を持った方にオススメの本
内容紹介 どんな本か?
妊娠・出産・育児にまつわる女性の様々な「どうしよう」についての声の詰まった本。
著者の犬山さん自身が子どもを持つかどうかを悩み、どのように出産するかを悩み、どう子育てをしていくかを悩み、とさまざまに悩む中で、そして身体や生活の変化の中で感じたことや考えたことが良いことも悪いことも正直に書いてあります。また、犬山さんはいろいろな場面で悩む中でたくさんの人の話を聞きにいきます。話を聞いた様々な人の考え方を、自分が選んだかどうかに関わりなく、偏りなく紹介されている点もとても良かったです。
子どもを持たない人、持ちたい人、子どもを産んだ人、働いている人いない人、色々な立場や考えの人に実際に話を聞き、感じたことを丁寧に受け止めて言葉にしていると感じました。どこかに偏ることなく、良いや悪いを簡単に決めることなくに書いてくれているからこそ、自分や家族の状況、性格や考え方、体調や体質、性別に関するあり方や感じ方、あるいは運や巡り合わせなど、本当に一人一人様々な「どうしよう」があり得ることを感じることができたように思います。
なぜ読んだのか?子どもを持つことに対する考えの男女差
パートナーが購入した本を借りて読みました。私たち夫婦にはまだ子どもがいません。子どもを持つかどうかについて何度か話し合いを持っていますが、なかなか結論は出ません。子どもがすぐにでも欲しい私とそうでないパートナー。この差は大きなものです。単純に子どもが好きかどうか、という話ではありません。育児はともかくとして、妊娠をすることも、出産をすることも男性である私にはできないからです。身体的な負担もキャリア的な関する断絶も私が肩代わりをすることは、残念ながら現在の医療技術の範囲ではできません。
この本を手にしたのはこうしたことをまさに夫婦で悩んでいる最中であったからです。元々子どもが欲しかった訳ではない、という犬山さんが色々悩んだり人の話を聞く中でどのように考えが変わっていったのかを知りたかったし、どのような考え方の人がいるのかを知りたいと考えていました。その動機には応えてくれる本だったと感じています。ただ、まぁ読んだからといって私たち自体の悩みがすぐに解決するわけではないですが。
私自身は男性として子どもや子育てにそれなりの関心を持ち続けてきましたし、妊娠も出産もこの男の身で代われるものなら変わりたいとも思ってきましたが、自分が想像できる範囲なんてたかが知れていることを、分かってはいたつもりでしたが改めて強く感じました。それでも、代われるものならという考え自体に変化はありませんが。
男性も含めてすべての大人が読むべき、知るべきことの多い本
この本のレビューで「もっと多くの女性に読んでほしい」というのを見かけました。そして犬山さん自身も女性に向けてということで書いているようです。もちろんこの本を読んで励まされたり、考えを整理することのできる女性は多いかと思います。
ただ、女性だけが読めば良い本ではないとも感じます。男性も含めてすべての大人が読むべき、知るべきことが多くつまった本です。それは自分自身が子どもを持つかどうか、妊娠・出産に関わる関わらないに限らずです。自分自身がそれらを直接経験するしないに関わらず、子どもや妊婦に社会的に完全に無関係な人などいないのですから。自分の家族や友人・知人が妊娠出産や子育てをするかもしれないというだけでなく、働いている中では上司や部下が妊娠・出産を経験することもあるでしょう。子育てというのは社会的な問題であり誰でも関わりのあることのはずです。
にも関わらず、妊娠・出産・育児について当事者以外にあまりにも知らないことが多すぎます。もちろん知ったからといってすべてを受け止めたり肩代わりできるわけではありませんが、知ることで初めてできる配慮や工夫、仕組みなどもたくさんあるのではないでしょうか。
男性も考えや悩みはさまざまである、はずなのに
男性として読んで感じたことととしては、女性が人によってさまざまに悩んでいたりすることと同じように男性側も感じ方や考え方、妊娠・出産・育児への向き合い方もさまざまであるはずなのですが、「無理解な男性」と一括りにされてしまっているようで立場なく感じる瞬間がいくつかありました。「なんでこんな無理解で偏屈なオヤジと一緒にされなくちゃいけないんだ」と。
実際問題として無理解や無関心がまだまだ多いのだと思いますし、じゃあ男性側の視点からこの本のようなものを作れる人がいるかと言われるとまだそこまで社会的に男性側の視点や関わり方というのは成熟できていないんだろうな、とも感じますが。とはいえ、個人的には妊娠・出産・育児の話題に限らず世の男性像的なものと一緒くたに扱われることに違和感を感じることも多くあるので、そういう違和感をこの本を読みながら感じていたのですが、ふとその途中で気がつきました。
「あ、女性が妊娠・出産・育児への無理解から社会の中で感じる違和感もこういう感覚に通じるのかも」と。
自分が女性になることや、妊娠・出産を代わることはできないけれど、せめてこうしてメタ認知的な思考であれこれと想像したり、考えていくことは続けていきたいものです。
非常に語り口が平易で読みやすい本なので、自分の思考も日常やその延長の中の自然体で考えやすかったです。このように色々感じながら思考をあれこれと飛ばしていける本は良い本だなと感じます。良い本でした。
『私、子ども欲しいかもしれない。』を読んだ方や興味を持った方にオススメの本
最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。単純に妊娠・出産・育児ということではなく、あくまで妊娠や出産を身体的に肩代わりすることのできない男性としてどのように関わるか、どのような視点で考えるか、という観点からの紹介です。
小室淑恵・駒崎弘樹『2人が「最高のチーム」になる―― ワーキングカップルの人生戦略』
男性として考えなければならないことは、現在や今後の日本の子育て世代が考えなくてはならないのは単純な「共働き」なのではなく、お互いにキャリアを志向する2人の集まりなのである、ということ。ともに組織の経営を行いながら子育てをする2人が家庭マネジメントについてどう考えているのか、が書かれている本です。
リンダ・グラットン『LIFE SHIFT』
「人生100年時代」というキーワードはかなり有名になったので本書を読んだことがなくても聞いたことがあるかもしれません。出産や子育てを含むライフプランを検討していく上で、私たちが人生100年時代というこれまでにない長い人生の中で人生設計をしていく必要があることを考えさせてくれます。
ハーバード・ビジネス・レビュー2020年2月号「デュアルキャリア・カップルの幸福論」
単なる共働きではなく、双方がキャリア志向のカップルのことを「デュアルキャリア・カップル」と言います。ビジネス論文や批評などを掲載しているハーバード・ビジネス・レビューで2020年2月号でこのデュアルキャリアカップルについて特集されていますので、興味のある方はぜひお読みください。親世代やこれまでの世代と何が違い、違うからこそ考えないといけないことは何なのか、ヒントとなる視点が得られます。
武田信子『社会で子どもを育てる』
『私、子ども欲しいかもしれない。』を読んで感じたことの一つとして「日本は子どもを産み、育てることをあまりに家庭の問題とだけ考えすぎている」ということ。子どもは未来の社会をつくっていく存在であり、出産や子育てという問題は社会全体としても捉える必要があるものだと思います。本書はカナダの事例を紹介しながら社会で子どもを育てるとはどういうことかを考えさせてくれます。 少し古い本ですが、オススメです。
山口慎太郎『「家族の幸せ」の経済学』
妊娠・出産・子育てについて考えるときに必ず意識しなければならないのがおカネの話。特に日本は子育てに多くのお金がかかる国だと言われています。本書は出産や子育ても含めて「家族」にまつわるおカネや、経済全体(景気や政策など社会全体に関わる話)にさまざまなトピックをデータを元にしながら解説してくれます。データを元に分かりやすく解説してくれるため非常に読みやすく、納得感もあります。価値観の色々分かれるトピックだからこそ、数字で客観的に判断できる部分はしっかり押さえておきたいですよね。