こんにちは、daisuketです。本記事は『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ』の書評・レビュー記事です。
- 内容紹介・目次
- ワークショップに特化した本
- カスタマージャーニーマップ作成本は目的によって選ぶべし
- ファシリテーションで参考になる具体的な視点
- 『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ』を読んだ方や興味を持った方にオススメの本
内容紹介・目次
内容紹介
マーケティングにおける顧客理解のためのフレームワーク「カスタマージャーニーマップ」に関する書籍です。
単にカスタマージャーニーとは何ぞや、ということを解説するのではなく、タイトルに「ワークショップ」と含まれている通り、実際に社内でカスタマージャーニーマップを作成、活用するためのワークショップを実施することを想定して、具体的なステップに分けて説明している点が特徴です。
Amazonより内容紹介を引用します。
顧客がどのような体験をし、何を感じているかをマップで可視化。
国内企業1000社、2000名が体験した
大人気のワークショップが本になりました!
●カスタマージャーニーマップとは
「カスタマージャーニー」とは、自社の製品・サービスに、人々がどのように出会い、
興味を持ち、購入や利用に至るのかを「顧客の旅」にたとえた言葉です。
顧客はどのような人物で、どのような行動をし、どのように感じているのか。
本書は、ワークショップ形式でカスタマージャーニーマップを作る方法を紹介します。
●本書のポイント
・「顧客視点で考える」をワークショップ形式で体験
・8つのステップでかんたんマップ作成
・「ペルソナ」を磨いて、仮説の精度を高める
・「マップから何を学んだか」先進企業6社の事例で紹介
・ワークショップを成功させる「ファシリテーション」の基本を解説
・「接点カード」「感情カード」「ペルソナシート(B2C/B2B)」をダウンロードしてすぐ始められる
目次
以下は本書の目次です。
- 第1章 カスタマージャーニーマップとは
- 第2章 ワークショップを成功に導くために
- 第3章 マップを作ってみよう(B2C編)
- 第4章 マップを作ってみよう(B2B編)
- 第5章 事例で学ぶマップの活用
- ‐B2C事例:チャコット、バリューマネジメント、JCB
- ‐B2B事例:トレタ、ビズリーチ、ユーザベース
- 第6章 マップからアクションにつなげよう
目次の通りB2C、B2Bそれぞれの違いも意識しながらそれぞれステップを細かく説明しており、分かりやすいです。
著者は広告等のマーケティング実務の経験を持った上で、現在はカスタマージャーニーマップの啓蒙・普及に努める方です。実際に多くの企業でカスタマージャーニーマップ作成のワークショップ・ファシリテーションを経験していらっしゃるようで、具体的な記述が非常に多く好印象でした。
本書の良い点
- カスタマージャーニーマップの解説が簡潔で初心者でも理解しやすい
- カスタマージャーニーマップを社内で作成することを念頭に、具体的なステップや意識すべきポイントなどがまとまっている
- B2B、B2Cどちらにも対応している
- 「接点カード」「感情カード」など社内で実施する際に必要となる小道具をダウンロードすることができる
本書をオススメする人
以下のような方にはぜひ本書を手に取ることをオススメいたします。カスタマージャーニーマップ初心者にはオススメです。
- カスタマージャーニーマップについて初めて学習する方の最初の一冊として
- カスタマージャーニーマップを社内で作成することを検討している方
- カスタマージャーニーマップ作成のファシリテーションを担当する方
なお、カスタマージャーニーマップを初めて学習する方の中で、すぐに社内でのワークショップの実践などの必要性はそれほどなく、フレームワークとしてのカスタマージャーニーマップ自体の学習をもっと深めたいという場合には、本書をスタートとして別の本も合わせて手にすることもオススメいたします。
というのも、本書はあくまでもワークショップを通したカスタマージャーニーマップ作成が主題となっているため、フレームワークとしての特徴よりもワークショップ自体についてのポイントが多く含まれています。カスタマージャーニーマップ自体についての理解を深めたり、他のマーケティングフレームワークとの違いや組み合わせ方などを理解するためには別の書籍も活用すると良いですが、本書の解説は初心者向けのものとしては非常に簡潔にまとまっていて分かりやすいので最初の一冊としては適しているように感じます。
その他は、カスタマージャーニーマップ自体を知っているかは別として、社内あるいは社外でカスタマージャーニーマップ作成の支援を行ったりファシリテーションを行うような立場にある方については、ワークショップの際に意識すべきポイントなどが分かりやすくまとまっているためオススメです。
本書を読んだ理由
私自身はコンサルタントして、クライアントのカスタマージャーニーマップ作成の支援を行うことがあります。カスタマージャーニーマップについてはすでに何冊か書籍を読んでおりましたが、「ワークショップ」に特化した本ということで、普段自分自身がコンサルティングやファシリテーション、あるいはマーケティング講座の講師を行うときの参考になる視点が得られればと思い手に取りました。
読んだ感想としては実際にファシリテーションをする中で使える具体的なポイントをいくつか仕入れることができ、満足しています。
ワークショップに特化した本
繰り返しになりますが、本書の特徴はカスタマージャーニーマップ作成のための「ワークショップ」に特化した本ということです。
カスタマージャーニーマップ作成というのは一人で行うものではありません。一人で作成することもできなくは無いですが、カスタマージャーニーマップの目的はその作成を通して自社製品やサービスのターゲットユーザー像(ペルソナ像)やそのターゲット顧客の行動について、認識を合わせることで製品・サービス開発やそのマーケティング施策の改善に活かすことにあります。
一人でカスタマージャーニーマップを作成した上で、完成したものを関係者全員に読んで理解してもらう、ということも論理的には考えられますが、実際にはそれではほとんど効果は発揮しないでしょう。単なる文字情報を読んでも、それを顧客の姿や動きとしては認識されにくいものです。
だからこそ、ワークショップなりを開いて関係者の認識合わせを行ったり、ズレがどこにあるかを明らかにすることが大切なのですが、ワークショップを開催する際には難しいポイントがあります。それはワークショップに参加する人の中にはカスタマージャーニーマップのことを知らない人もいる、という点です。これは実際にワークショップを行う際にはけっこうなハードルとなります。
自分自身がカスタマージャーニーマップを理解しようと書籍を手に取る人がその概要を理解することは難しくなくとも、そこまでの興味も熱意も持っていない人に、限られた時間の中で、その意義や作成方法を伝えることは簡単なことではありません。
その点、本書は最初から社内でワークショップを行うことを念頭にまとめられているため、ワークショップ開催前の準備から当日の時間配分、ワークショップの中でどのようにカスタマージャーニーマップの意義や作成ステップを伝えるか、終了後のアクションプランの落とし込み方まで具体的にまとまっているため、本書に則って進めれば初めてワークショップを開催する方でもそれなりに形にすることができるだろうと感じます。
(普段からマーケティング初心者向けにカスタマージャーニーマップ作成の講師などをしている私としては、当日の進行時間は少し短めに感じました。ワークショップのコツとして短めに設定してある旨の説明もありましたが、その意図を汲んだとしてもかなり忙し目になると感じますので事前に時間配分含めたシミュレーションをしっかり行ったり、予備日を設けておくなどはしておいた方が安全かと思います。また、参加者からは本書には記載されていないような「こういうときはどうしたらいいの?」という質問が飛んでくる可能性もありますので、本番の前に簡単なトライアルなどをして想定問答を検討しておくなどの工夫も有効かと思います)
カスタマージャーニーマップ作成本は目的によって選ぶべし
一方で本書だけでカスタマージャーニーマップを理解しようとするとやや物足りないと感じる点もあります。
カスタマージャーニーマップにしても、その前提となるペルソナ像の作成にしても一つのフレームワークではありますが、目的によって作り方や活用の仕方はいくつかに分かれてくるかと思います。大きくざっくり分ければ「時間やコストをかけながら丁寧に作ってデータ主導の学び重視」なのか「ざっくりと関係者感の認識合わせや課題の洗い出しを行うスピード重視」なのか、です。本書がフォーカスしているのは明らかに後者です。
この二つはどちらが優れているというものではなく、目的や活用のフェーズによってどちらが必要となるかは変わってくるかと思います。
初めてカスタマージャーニーマップを作成して、その効果を確かめたいというような場合には本書は適しているでしょう。スピード重視とはいっても、関係者感で認識合わせを行ったり課題の洗い出しを行うことの威力は大きなもので、それだけでも複数の大きな改善が進むことも少なくありません。
一方で以前にも何らかの形でカスタマージャーニーマップ作成などを行ったことがあってさらに詳細を深く検討したい場合や、あるいは長く提供している商材の改善のためにこれまでの顧客データ等の分析からがっつりと取り組みたいような場合には、本書だけではなくユーザー調査やペルソナ作成に関する書籍も合わせて活用する方が良いでしょう。(本書は単日のワークショップに特化しているため、ある程度時間のかかるようなユーザー調査やデータ分析については触れられていません)
ファシリテーションで参考になる具体的な視点
ワークショップのファシリテーションという観点では非常に具体的で参考になる点が多かったです。
例えば以下のような点は私自身が今後のファシリテーションを行う上で参考にしていきたいと感じた点です。
- 細かな議論に入る前に顧客行動におけるスタートとゴールの設定を丁寧に行うこと
- 顧客ステージより先に具体的な行動の検討から始めること
- 感情変化については言葉だけではなくアイコンや上下の位置などでの可視化が大切なこと
- 予定調和的な議論で終わらないため視点を飛ばす質問としてのワイルドカードの活用が有効なこと
- CEOバッジ、CMOバッジなどの導入による活性化
特に「ワイルドカード」「CEOバッジ」などの小道具の活用は普通のカスタマージャーニーマップの解説本を読んでも書いておらず、ワークショップに特化した本書ならではの視点です。
『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ』を読んだ方や興味を持った方にオススメの本
最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。
ドナ・リシャウ『ストーリーマッピングをはじめよう』
カスタマージャーニーマップについての理解をより深めたい方についてはカスタマージャーニーという単語自体が含まれた本だけではなく少し視点を広げてみることもオススメです。本書はUX改善のためにユーザーの体験する「ストーリー」を大切にしようということを主張し、カスタマージャーニーマップと似た視点で「コンセプトストーリー」とそのマッピングという観点で説明を行っています。
James Kalbach『マッピングエクスペリエンス』
マッピングエクスペリエンス ―カスタマージャーニー、サービスブループリント、その他ダイアグラムから価値を創る
- 作者:James Kalbach
- 発売日: 2018/01/26
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
マーケティングフレームワークとしてのカスタマージャーニーマップについての理解を深めたい方にはこちらの書籍がオススメです。「マッピング」というものについて体系的な整理を行っており、例えばカスタマージャーニーマップとサービスブループリントはどう異なるのかといった点について細かい点まで整理されています。ファシリテーションを行ったり、講師やコンサルティングを行うような方は一度読んでみると良いかもしれません。
高井紳二『実践ペルソナマーケティング』
カスタマージャーニーマップ作成の前提となるペルソナ作成について深く知りたい方にはこちらがオススメです。『はじめてのカスタマージャーニーマップワークショップ』の中ではペルソナ像もワークショップの中で作成するということでその場でワークシートを埋める形式になっていましたが、本来はデータを元に分析をしたり、実際にユーザーインタビューをしながら作成をしていくものです。本書はそれらのステップの進め方や事例について詳しく解説しています。
ミーガン・キャシー『コンテンツストラテジー』
今すぐ現場で使える コンテンツ ストラテジー ―ビジネスを成功に導くWebコンテンツ制作 フレームワーク+ツールキット
- 作者:ミーガン・キャシー
- 発売日: 2016/04/21
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
ワークショップなど社内での検討を進める際にカスタマージャーニーマップ以外の武器も仕入れたいというような方にはこちらがオススメです。サービス開発をする際のコンセプトつくりのためのステートメント(穴埋め)形式の考え方がいくつも紹介されています。コンテンツとタイトルに入っているように、製品開発というよりはWebメディア等の情報コンテンツ・サービスの方が適しているかとは思います。
清水誠『ビジュアルWeb解析』
WebサイトやWebサービスを担当している方であればこちらも非常にオススメです。カスタマージャーニーマップではなく「コンセプトダイアグラム」という別のフレームワークについての書籍ですが、Webサイト等の改善やKPI検討含めたユーザー行動の分析という点ではカスタマージャーニーマップよりも検討しやすく、実際のサイト改善にも活かしやすいように感じます。