淡青色のゴールド

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書評『社会を知るためには』社会は「わからない」ということの受け止め方

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書評『社会を知るためには』社会は「わからない」ということの受け止め方

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事はちくまプリマー新書の『社会を知るためには』の書評記事です。タイトルの通り「社会を知る」ということをテーマに、なぜそれが難しいことなのか、どのようにその問いに向き合えば良いのかということを考える本です。

 

 

内容紹介

本書はタイトルの通り「社会を知る」ことをテーマとした本です。著者は立命館大学産業社会学部教授の筒井淳也氏であり、社会学の入門書としての性格も強く持ちます。実際これまで何冊も読んできた社会学入門書の中では最良の一冊ではないかと感じています。(理由は後述します)

「社会が良くわからない」「社会を知りたい」

そのように考えたことのある方は少なくないのではないでしょうか。私自身も長年そのように考えてきました。ただ、なかなかその「答え」といえるようなものにはたどり着けません。真面目にニュースを読んだり、本を読んだり、考えたり、周りの人と議論したりしても、社会とは何で、何が問題で、何をすれば良いのか、そういったことは一向にわかりません。むしろ学んだり、見聞きする範囲が広がる程わからなさが強まっていくという感覚すらあります。

でも自分とは違って、世の中には、社会についてちゃんと「わかって」いる人がいるのではないだろうか。自分もわかるようになるためにはどうしたら良いだろうか。

そんなことを私はずっと考えてきたのですが、この本はその問に明確な答えをくれます。「社会はそもそもわからないものである」と。

その理由と、その上での社会への向き合い方をとても平易な語り口で語ってくれます。こんな本に高校生のときに出会いたかった!と私は強く感じます。

Amazonの内容紹介から引用します。

「社会」という言葉は、様々な形で使われていて、普段は存在を意識しないが、その実態はとてもあいまいだ。では、どのようにすれば「社会」を理解できるのか?複雑化、副作用、絡み合う因果関係など、その特徴をつかむ。

本書の構成

本書の目次をご紹介します。

第一章 「わからない世界」にどう向き合うか
第二章 専門知はこうしてつくられる
第三章 変化する社会をどう理解するか
第四章 なぜ社会は複雑になったのか
第五章 変化のつかまえ方
第六章 不安定な世界との付き合い方
あとがき
読書案内まとめ

オススメ度

★★★★★(5/5)

本書をオススメする人

本書は特に以下のような方にオススメします。

  • 社会学・社会科学に興味のある方
  • 学部選択に悩む高校生(特に文系への進学を考える人)

『社会を知るためには』の画像

電子書籍で読みましたが、書き込みもしたいので紙版を買い直そうか悩んでいます

 

「社会はわからないものである」という高校生の自分に聞かせたかった明確なスタート地点

「社会をどのように知ればいいのか」

これは高校生当時の私にとって最も大事な問いでした。いや、もしかしたら今でもそうかもしれません。

大学選びなど進路選択をするにあたって高校生の私は「将来は社会の役に立つことがしたい」と漠然と考えましたが、大きな問題がありました。「そもそも『社会』が何かよくわかっていない今の自分には何が役に立つことで、自分が何になれば良いのか判断することができないのではないか」ということです。

そのように考えた私はまず最初にやるべきは「社会を知ること」だと考え大学では「社会について学び、自分なりの社会を見る視点を身につけられるであろう」社会科学を学ぶことを志しました。そして大学入学後には「実際に社会に関わる経験をする必要がある」とも考え、さまざまなボランティア活動に勤しんだりもしました。

その結果、現在では主に社会課題解決に取り組むNPO等の公益組織の方たちをコンサルティングや研修講師として支援することを仕事とするに至っています。もちろん紆余曲折はありますし、他にもいろんなことを考えたり経験したからこその現在の仕事ではあるのですが、それでも「社会を知る」ということが私にとって長年とても大きなテーマであることは確かですし、残念ながら今でも良くわからないと思っています。

良くも悪くもオトナになったので、「わからないということ」を心に抱えたまま目の前の「社会課題を解決する」仕事に取り組んだりできるようにもなっています。ただ、ここ最近はむしろ社会のことがどんどんとわからなくなっているとも感じています。世界中で「分断」が叫ばれるようになったり、新型コロナウィルスの感染拡大により社会生活が大きく変化したりしています。そして自分自身では仕事として5年、それ以前のボランティア・プロボノ時代も含めれば15年もさまざまな社会課題を解決する事業・活動に関わってきたし、自分以外にもたくさんの人たちがそのような活動に関わっているにも関わらず、社会が良くなっているという実感をそれほど強く感じることはできていません。

そんなモヤモヤとした気持ちへの向き合い方を本書は丁寧に教えてくれます。

「そもそも社会はわからないものである」と。

そして、この言葉をスタート地点として受け止めてからこそ社会に対する向き合い方、関わり方を考えることができる。社会科学はそんな社会について考える学問であり、特に社会学というものが他の社会科学や他の学問分野と違い「社会のわからなさ」を追求するという特徴をもった学問であるということを教えてくれます。

本書の「はじめに」にはまさに私の問題意識にぴったりな言葉が書かれていました。

「世の中を変える人間になろう!」という掛け声をよく聞かされるかもしれません。もちろん、私たちの社会は多くの問題を抱えていて、変えていかなければなたないことはたくさんあります。ただ、変えるためにはその前に「知る」ことも重要です。そして社会というのは、知れば知るほど「わからない」ものだという実感を持ってほしいのです。
社会は、決して思い通りにならないものです。しかし他方で、動かす余地がいくらでもあるものです。

社会はなぜ「わからない」のか

本書では第一章で社会がなぜ「わかりにくい」のかということを解説し、それ以降の章でそのようなわからない社会に対して社会学を始めとする学問がどのように向き合っているのか、そして私たち一人ひとりがどのように考えていくべきなのかということを語っていきます。

なぜ社会がわかりにくいのかという点については現代の社会が持つ3つの特徴から説明されます。

①専門システムの発達:現代の社会、現在の生活は「専門知識」や「専門的な仕組み」に取り囲まれており、すべてに精通する人は存在しない(だから全体を見通すことができる人はいない)
②分業の拡大:専門的な知識やそれを活かした仕組みが、周囲から独立して存在しているわけではない(だからある分野の専門家であってもその分野のことでさえ正確に予測できないことが多いし、分業社会というのは専門外のことに影響され合うリスクを受け入れることである)
③再帰性:社会は動き続けており、私たちはそこに投げ込まれている(社会を変えるとは止められない自動車を走りながら修理するようなもの)

社会をわからなさについて示した図がとてもわかりやすかったのでご紹介します。

第1章6節の画像

第1章6節より

社会学入門として最良の本

高校生の時にこんな本に出会いたかった、と心から思います。これまでにも社会学入門の本は何冊も読んできたのですが、他の社会学入門と本書はまず視点がことなります。

「社会学とはどのような学問か」という問いに答える形で書かれているのが通常の社会学入門書である一方で、本書は社会学について解説する記述は多いものの社会学を解説すること自体は目的としていません。あくまでもその視点は「社会を知る」という私たちが知りたいこと自体を軸にして社会学やその他の学問のアプローチ視点の違いを解説してくれます。

例えば第二章第3節「自分の土俵をつくらない学問」では以下のように経済学との違いを説明します。

「土俵を作ってそこに問題(対象)を引きつける」タイプの知識もあれば、明確に土俵を作らずに、現にある世界に寄り添い、それをそのまま理解しようという知識もあります。前者のタイプの知識は、まさに専門知の強みを発揮します。経済学の論文を眺めてみると、数年間のトレーニングを受けないとりかいできないような数理モデルによる演繹的推論や、力学を応用した難解な統計モデルによる実証研究がたくさんあります。そういう世界に現象の方をひきつけて、素朴な推論や観察では気づかれていなかった説明を提示しようとするわけです。
これに対して社会学では、もちろん経済学と同用意数理モデルや複雑な統計モデルを使うこともありますが、実はあまりこういうった知識は目立ちません。どちらかといえば、人びとの生活という土俵に自分が乗っかっていく方向性が強い学問です。経済学では、あるいは通常の学問では、「まだ知らないこと」は自分たちが展開する専門知の先にあります。これに対して社会学では、「まだ知らないこと」はむしろ対象の側にあり、対象の方がむしろ専門家よりもそのことを知っている、と考えることが多いのです。

社会学・社会科学の初学者に優しい丁寧な読書案内

入門書としての良さとして、その入門書をきっかけとして更に学びを深めるための読書案内やブックリストの充実さというのは重要な要素だと考えています。本書はこの点も優れています。優れていると感じる理由をいくつか挙げます。

①社会学だけでなく他の社会科学分野も含めて読書案内がなされている

経済学や政治学に統計学、あるいは哲学などがカバーされており、「家族社会学」などのテーマ別のもの、「質的調査」「数理モデル」などの手法に関するものなど幅広く紹介されています。

②「入門書」レベルのとっつきやすい本の紹介が多い

本書自体がちくまプリマー新書という高校生や大人の学び直しなど初学者向けをコンセプトにしたレーベルであることもあって紹介される本も新書や文庫、あるいは学部テキストレベルの比較的手に取りやすいものが多いように感じます。(本書自体は社会学入門を謳っている訳ではないので読書案内として別の「社会学入門」や「経済学入門」が紹介されています)私が高校生や大学入学時点で本書に出会っていれば本書で紹介されている本をきっと順番に手にすれば良いのだなと心強く感じるリストだったと思いますし、それだけでもだいぶ学び、考えることができるでしょう。私自身改めて学び直そうと感じ、欲しい物リストに登録した本が何冊もありました。

③脚注が本文中に含まれており読みやすい上に、巻末にも改めてブックリストとしてまとめてある

細かい点かもしれませんが、読書案内の脚注が本文中に挿入されている形式だという点も個人的には高く評価します。章末にまとまっている場合と、巻末にまとまっている場合と個人の好みにもよるかと思いますが個人的には本文中に挿入されていて、本文の文脈と合わせて自然に読める方がありがたいです。あとからまとまっているとめんどくさくて読み飛ばしてしまうことがあるのですよね…。逆に本文中に紹介されていると読みながら「あ、この本読んでみたい」と思っても、読み終わったらその本についてどの辺で書いてあったのか見失っており、結局「なんて本だったかな」と埋もれてしまうこともあるのですが、本書の場合は巻末にはしっかり別途読書案内コーナーが設けられており、本文中の脚注で紹介されていた書籍の書名・著者名がリスト形式でまとめられています。この形式、あまり見かけないですが一番親切だと感じます。

社会を「変える」ことに向き合うインパクト理論

さて、ここからは本書を読んで考えたことについて少し触れていきます。私は前述の通り普段はNPOなど社会課題の解決に取り組む人たちと一緒に仕事をしています。社会課題を解決するとは本書の言い方では「社会を変える」取り組みの一つです。社会はそもそもが複雑でわからないものであり、意図した通りには動いていかないものだというのが本書の主張だったのですが、では「社会を変える」ことを標榜しているNPOその他の人たちはどのようにそこに取り組んでいるのか、そしてそれは果たして実効性を持つものなのでしょうか。

近年NPOを始めとしたソーシャルセクターでは社会を変える確かさに向き合うために「インパクト理論」を活用することに注目が集まっています。インパクト理論とは、あるプログラムがその参加者に対して所定の目的・目標を達成された状態に至るまでの道筋、つまりそのプログラムが効果をもたらす理由や背景を客観的に捉えるための考え方で、変革の理論(theory of change)、ロジックモデルなど複数のモデルや視点の持ち方があります。

私自身もコンサルティングや講師として登壇する研修などでロジックモデルを活用することがありますが、本書を読んで改めてしっかりと意識し伝えるべきだと感じたのは、NPOとして「社会を変える」ことを標榜していたとしてもあくまでもインパクト理論自体は「社会全体の変化を記述することを意図するのではなく特定の受益者に対する特定のプログラムを評価する取り組みである」ということです。ロジックモデル等の最終アウトカムやインパクトとして地域社会の変化を記述することを目指すような場合もありますが、だとしても、地域住民など特定の受益者の視点や行動・状況・状態の変化として捉えるということを十分に意識しながらそこに向き合うべきでしょう。

もう一つは元々意識していた点ではありますが、特に対人支援プログラムの効果や影響を時系列で記述するような場合の中長期のアウトカムについては「意図しない影響」が入り込む余地を認めることも必要であり、だからこそ計測や評価が難しいということです。

こうした特徴を意識した上で適切に社会変革を意図する現場での活用につなげていきたいと思います。

システム思考という「複雑性」への向き合い方

もう一つ本書を読んで思い浮かんだ実際の現場での取り組みとして、本書でもキーワードの一つとして取り上げられていた「複雑性」への向き合うということが、社会を変えることに取り組む現場でも取り入れられるようになってきているということです。「複雑性」というキーワードは最近の社会状況を表すトレンドワードの一つにもなっていますが、社会課題解決や社会変革に取り組む現場でもそうした特性が反映されて、変革の対象の複雑性を受け止めるために「生態系」という概念を利用することも増えているように感じます。また、課題解決の方法やそもそも課題のあり方影響の絡まり合いを理解するために「システム思考」を取り入れる場面や取り組みも増えているように感じます。

何らかの事業や活動の影響を評価する際には良い影響だけでなく、悪い影響が出ていないかという点にもしっかり向き合う必要がありますが、特にシステム思考は本書であつか扱われていた社会学のキーワードでいえば「再帰性」を織り込んだ考え方であり、自分自身も社会の複雑に絡まりあった要素の一つであり、その絡まり合いが意図しない悪い影響を作り出していることに関係者全員で向き合い、その上で対処策を検討することに使われたりしています。こうして書いているだけでも複雑で迂遠な方法に見えますが、本書のような本を読むと、なぜそうした複雑で難しいアプローチが必要なのかが分かります。


ということで、最後は少し私自身が関わる「社会を変える仕事」に引きつけた難しい話をしましたが、本書自体はとても読みやすく分かりやすい本です。社会の状況がどんどん変わり先行きの見通しが立ちにくい今だからこそ、改めて社会とは何かを知り、自分なりの向き合い方を考えてみることは、多くの人にとって「落ち着く」作業ではないかと思いますので、ぜひ多くの人に手にしてほしい一冊です。

『社会を知るためには』を読んだ人にオススメの本

最後に本書を読んだ方や興味を持った方にオススメの本をご紹介します。

ユヴァル・ノア・ハラリ『21Lessons』

『社会を知るためには』を読んだ上で、では現在の社会で具体的なトピックとなっていること、普段のニュースで扱われるような内容についてもっと考えてみたいという方にオススメなのがこちらの本。『サピエンス全史』で有名なユヴァル・ノア・ハラリの著作です。タイトルの通り21個のテーマから現代の社会の複雑性について考えることができます。

ジョエル・ベスト『社会問題とは何か』

『社会を知るためには』では社会は意図した通りに変えることは難しいということが述べられていますが、では実際に変えるべき社会問題に向き合う取り組みや運動がどのような流れで行なわれているのかということをモデル化して解説した本です。先日書評を書いておりますので、よければお読みください。

 

daisuket-book.hatenablog.com

 

小熊英二『社会を変えるには』

同じく「社会を変える」ための取り組みについて述べた本です。社会を変えることを意図した具体的行動である「デモ」のあり方などについて書かれています。また、途中の章では近現代社会の変化・発達とそれに伴う社会科学のさまざまな理論について端的にまとめられています。『社会を知るためには』の読書案内には載っていない社会科学の歴史を作ってきたさまざまな理論化のいわゆる古典の位置づけなどを知りたい方はぜひどうぞ。

瀧澤弘和『現代経済学』

『社会を知るためには』では社会学と対比するような形で紹介されていた代表的な社会科学である経済学について学びたい方にはこちらの本がオススメです。専門家の方からの評価も高い入門書です。

五十嵐立青『あなたのまちの政治は案外、あなたの力でも変えられる』

同じく社会科学の分野である政治学について学びたい方にオススメです。政治学全体への入門書ではなく、特に地方政治について書かれた実践を意図した本で、著者は市議会議員を2期務めた(出版後の現在はつくば市長)五十嵐さん。物語調で1人の地域住民の目線で具体的に書かれており、縁遠いと感じる方も多い「政治」というテーマが身近に捉えられるものであることを学ぶことができます。


最後までお読みいただきありがとうございました。