本から本へつながる書評ブログ『淡青色のゴールド』

読書家の経営コンサルタントのdaisuketによるブログです。一冊ずつ丁寧に書評しながら合わせて読むと面白い本をご紹介します。

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2023年読んで面白かった本15冊

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2023年読んで面白かった本15冊

こんにちは。書評ブログ「淡青色のゴールド」へようこそ。本記事は私が2023年に読んだ本の中から面白かった本をご紹介する記事です。必ずしも今年出版の本ばかりではなく、そして色々なジャンルからの紹介なのであまり一貫性はありませんが一冊でも読みたい本との出会いにつながれば幸いです。大きく「小説・エッセイ」と「それ以外」に分けて紹介していきます。

 

小説・エッセイ以外の本10選

まずは小説・エッセイ以外の本から10冊をご紹介します。紹介する順番は順位ではなく私が読んだ順番です。

『勉強の哲学』(千葉雅也)

年初に読んだ本です。千葉さんの本は、新書大賞2023大賞を受賞した『現代思想入門』も素晴らしい一冊だったのですが、せっかくオススメするならすでに売れまくっている本よりはマイナーな本をということで『勉強の哲学』をご紹介します。(こちらもけっこう売れてますが)

タイトルの通り「勉強」が主題に置かれた本ですが、勉強や学習についてのtips的な方法論ではなく、勉強というものをメタ認知し、そのプロセスの捉え直しを促すための視点を提供してくれる本です。これだけだと何言っているかほとんどわからないと思いますが笑、本文で語られることは抽象的な話であるにも関わらず明快でわかりやすいです。「勉強とは共感的で集団的で保守的なノリから外れてノリが悪くなることである」という表現は、個人的にはそこで悩んでいた気はしなかったけど、なぜか励まされたような勇気が出るような感覚がありました。アイロニーとユーモアをそれぞれツッコミとボケと読み替えた解説も非常に面白く、自分なりに考えを深めてみたいテーマもいくつか見つかる良い本でした。本を評する言葉として「時代を生き抜くための武器のよう」と評されるようなことがあるかと思うのですが、なんというか千葉さんの本は本書にしろ『現代思想入門』にしろ、武器というよりは「鎧」のようだと感じます。変化が早く、ときに暴力的で、生きているだけで傷ついてしまうような時代には戦うための武器よりも、生き抜いていくための防具が必要なのかもしれません。

『聞く技術 聞いてもらう技術』(東畑開人)

居るのはつらいよ』など著書多数の心理士、東畑さんの初新書。新書大賞2023で5位に入賞しています。対話やコミュニケーションをテーマにした書籍等では「聞く」と「聴く」が対比的に解説され、しばしば「聴く」の方が重要であるというメッセージが発されます。(普段は「聞く」しかできていないから「聴く」ことが大切、傾聴など)しかし、本書で東畑さんはむしろ逆のことをいいます。「聴く」ではなくむしろ「聞く」ができてないことが問題なのだ、と。その上で東畑さんは「人の話を聞く」ではなく「人に話を聞いてもらう」ことに注目します。聞いてもらうことの大切さ、聞いてもらえていないことの苦しさを優しく語りかけるように伝えてくれます。対話や傾聴、コミュニケーションなどについて悩んでいる人はもちろんのこと、学びすぎてかえったなんだかよくわからなくなってしまったなという方にもぜひオススメしたい一冊です。

『ハッピークラシー』(エドガー・カバナス、エヴァ・イルーズ)

今年読んだ本の中では最も人に薦める機会の多かったのがこの一冊。「ハッピークラシー」とはデモクラシー、メリトクラシーなどの言葉で使われるクラシー(-crasy 政治・政治体制、〜による専制)とハッピーを組み合わせた造語で「幸せによる支配」とでも訳せる言葉です。コーチングや自己啓発など個人として幸せを追求することの価値や「自分らしく」生きることの価値が強く求められ、さらには幸福度やウェルビーイングなどのキーワードから国の政策としても幸せであることが追求されるようになってきています。「幸せ」「幸福」はそれ自体がポジティブな意味合いを持つものであり、反対する人が居なさそうですし、その必要性も感じにくいものではありますが、実はこうした文脈の根拠となっているポジティブ心理学の科学的根拠は完全に確立されている訳ではなく、批判的に捉え直すことが必要だと言います。また、誰しもが捉え方次第で幸福になれるという発想は、新自由主義的な自己責任論を加速する考え方になってしまう部分もあり注意が必要だといいます。本書は心理学者エドガー・カバナスと、社会学者エヴァ・イルーズによる共著で、心理学・社会学の両面から幸せの科学やポジティブ心理学の背景や社会的な影響について捉え直す視点で書かれています。自己責任論の暴力的な不条理さを敏感に感じ取っている人にこそ、自分自身の視点や言動に誰かを苦しめてしまう危うさがないか、ぜひ本書を読んで考えてみていただきたいです。

書評も書いておりますので良ければお読みください。

 

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『人間の解剖はサルの解剖のための鍵である』(吉川浩満)

ちょっと不思議なタイトルはマルクスの『資本論』の草稿に残された一節からの引用です。AIや進化生物学、心理学、人類学その他様々な諸科学の進展を踏まえて人文知がどう応答するべきか、というか応答以前に、いま何がどこまで明らかになったり、議論されてきているのかを整理する丁寧な地図のような本でした。諸分野の学問的な進展によって、そして技術的な進展によって、近年「人間」という枠組みや価値観の変容が起こっていて、それはベストセラーとなった『サピエンス全史』『ホモ・デウス』でハラリが語ったことでもあるが、そのハラリの語りを相対化するような視点は特に唸りました。本書は元々著者がさまざまな媒体に寄せた文章をまとめた本なのですが、この手の本にありがちなバラバラと一貫性のなさみたいな印象はありません。本書を編むにあたってそれぞれの文章に附記された解説により、本当に多岐に渡るテーマを一気に読ませる魅力があります。まさに博覧強記の稀代の語り手による知的好奇心刺激されっぱなしのブックガイド。吉川さんの本が私の年間の面白かった本に登場するのは2021年に取り上げた『理不尽な進化』に続いて二冊目です。本作も大変素晴らしく、何をどこから勉強したり考えていこうか、色々ヒントをもらえて本当にありがたい仕事でした。

『<責任>の生成 中動態と当事者研究』(國分功一郎、熊谷晋一郎)

昨年のまとめでは『中動態の世界』を取り上げていたのですが、その続編とも呼べる本作もやはり期待通りに大変刺激的な本でした。先に出版されている『中動態の世界』や『暇と退屈の倫理学』で扱われたテーマについて、当事者研究の専門家である熊谷さんとともに考察が進められていく対談講義を書籍化した一冊で、対談形式であることや当事者研究の具体的な事例を元に話が進んでいくことから同じ中動態というテーマを扱っていても『中動態の世界』よりもぐっと読みやすくなっています。対人支援やコミュニティ作り等何らかの現場に関わりながらこのテーマに関心を持つ方であれば本書の方が学んだり考えたりやし易いでしょう。個人的に特に面白かったのは、中動態の議論に対してなされる「能動/受動の対立を避ける中動態の議論は責任を回避しようとするものである」という批判に対して、むしろ逆であるという話です。中動態的に自分自身が行為の場になっていると捉えることで初めて自分の行為の加害性と被害性の両方に向き合うことができるのである、と。過剰に自己責任を問う尋問型の社会の中でぜひ考えていきたい視点です。國分さんの「責任を取る」ではなく「覚悟を持つ」という表現にはハッとさせられました。

書評も書いておりますので良ければお読みください。

 

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『優雅な生活が最高の復習である』(カルヴィン・トムキンズ)

ここまで紹介した作品とはまったく印象の異なるノンフィクションの作品。1920年代のフランスで「古き良き」アメリカ的な優雅な生活を送っていたジェラルド・マーフィとサラの夫妻。優雅に暮らす二人は近郊に住むアーティストや作家と交流し、彼らに愛され、そして少なくない影響を与えていきます。登場するのはピカソ、レジェ、コール・ポーター、ヘミングウェイ、フィッツジェラルドとゼルダ夫妻など錚々たる才能の持ち主たち。自分自身も画家として活動したジェラルドと若かりし一流の芸術家たちとの交流が、いきいきと描かれています。フィッツジェラルド夫妻がマーフィ夫妻に嫉妬していた様子や、アルバムの写真に収められた若いヘミングウェイやピカソの姿なども彼らに関心を持っている人なら面白く読めるでしょう。ただ、本書の魅力は本文や写真といった書籍としての内容だけではありません。文庫サイズのハードカバーの装丁という美しくて品のあるかわいさこそジェラルドとサラ夫妻が持っていた魅力に通じるものなんだろうなと感じますし、日本語だとかなり強く響く印象のあるタイトルと二人の持つ力まない感じのギャップ(本文中で解説されますが元々はスペインのことわざであり、ことわざとしての意味を訳すと「復習なんかっよりも自分らしく暮らせ」と言った程度の意味になるようです)も含めて、本が全体として語りかけてくるような雰囲気を楽しめる素敵な一冊です。

『サピエンス日本上陸 3万年前の大航海』(海部陽介)

日本列島に人類が上陸したルート、ルーツについて実際に渡ってみることで考察していこうという3万年前の航海徹底再現プロジェクトを主催の海部先生自身が著した一冊。このプロジェクトの存在自体は知っていたのですが、研究の背景や経過などは詳しくはこの本を読んで初めて知りました。日本への人類の上陸ルート仮説のうち、大陸と繋がっていた台湾からの沖縄列島をつたわって来たルートを有力視し、実際に再現を試みるプロジェクトなのですが、その目的は、単に行けたのかどうか、どう行ったのかということ自体よりもそれらを体験的に探ることによって「なぜ行ったのか?」というwhyを追求しようというロマンふれる素晴らしいプロジェクトでした。わかりやすく言えば「船作んのめっちゃ大変」「漕ぐのめっちゃツラい」「でも、絶っっっっっ対行きたい!!!」というような感覚的、感情的な推測をしてみようということです。草筏、竹筏、そして丸木舟を作り海に出てみるまでの紆余曲折。海上で島を見つけることの難しさ、その他にも公開中に起こる様々な実際の出来事、どの過程も本当に想定通りにいかないことばかりで、現代科学の知識や技術があってこれなのであれば、3万年前はいったいどんな創意工夫や熱意で進んでいったのかと本当に興味深かったです。日本への上陸だけでなくオセアニアの各島への進出にも想いを馳せたくなります。

『社会関係資本』(ジョン・フィールド)

本書は2022年秋に日本語訳版が出版された比較的新しい社会関係資本の入門書です。社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)は教育やまちづくりなど人の教育や参加に関わるような分野では広く参照もしくは言及される概念となっており、聞いたことがあるという方は少なくないでしょう。ただ、それが実際にどのような概念なのかを本当に理解しているかというと自信を持てる方はあまり多くないのではないでしょうか。本書では、社会関係資本の文脈で最も名前の挙がるパットナムだけでなく、教育や格差、それらと関わる文化について研究してきたブルデューやコールマンを含めて社会関係資本理論の「古典」と位置付け、各人の研究の概要とそれぞれの理論の課題(限界)が示されます。基本的に良いものとしてだけ理解されがちな社会関係資本理論にも負の側面が多くあることや、定義や理論、あるいは測定に多くの曖昧さや不明確な部分が残っていることを幅広い地域・分野の多くの論文や書籍を引用しながら丁寧に解説がなされている点が本書の特徴です。また、社会関係資本の古典以降の重要トピックスとしてインターネットと社会関係資本の関係についても、やや踏み込みは浅いですが論じているのも重要な点です。多くの課題はあっても今後も社会関係資本理論の活用は進んでいくでしょうし、個人的にもそうあって欲しいと感じていますが、だからこそ政策的にあるいは各実践レベルで社会関係資本の醸成や測定に関わる方にはぜひ本書を手にして基本的な理解の度合いを高めていただければと思います。

書評も書いておりますので良ければお読みください。

 

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『訂正可能性の哲学』(東浩紀)

それほど出版物や議論の内容を追いかけてきた訳ではないのですが、それでも東浩紀の集大成的な仕事なのではないかと感じる素晴らしい一冊でした。大きく「家族」というテーマについての捉え直しを促す第一部とルソーの「一般意志」の新解釈を提示し民主主義について考察する第二部から構成されています。まず第一部では「家族を語ること」にまつわる窮屈さや違和感やあるいは怖さのようなものを、相対化し言語化したもらえたような気がしました。私は普段主にNPO等の非営利組織を支援する仕事をしており、どちらかというとリベラルな価値観や言説に馴染みがあります。この界隈では例えば「子育て」などを家族だけに押し付けることは避けるべきことであり、家族的な価値というような言説にはどこか身構えてしまう部分があるのですが、保守とリベラルの対立を含めさまざまな政治・社会的な制度は基本的にどれも家族というコミュニティを拡大解釈したものであり、その視点の持ち方や始点が異なるだけであるという相対化にはハッとしました。また、第二部で多面的で一貫性のない私たち人間という前提を受け止めた上で民主主義というものを考えうるかを、ルソーの新解釈を提示しながら解説していく構成と筆致が見事でした。分断的でポピュリズム的な政治や、見ているだけで傷つきつかれてしまうネットにももう一度向き合ってみようかという気持ちが湧いてきましたし、自分自身が仕事や活動として触れている各地の自治につながると信じている実践にも活かしていきたいと感じられる学びが多かったです。

『行動探求』(ビル・トルバート)

発達心理学の知見を活かした個人及び組織の変容について考える研究をまとめた書籍。近年注目を集めている成人発達理論とも通じるものですが、成人発達理論が主にスキルや知識の習得を扱っているのに対して著者が提唱する「行動探求(アクション・ロジック)」が扱うのは単純なスキルではありません。人間としての「器」や関わる人や仕事・環境に対しての「態度」というような定型化して捉えにくいものが、発達的な成長過程として捉えることができるという非常に画期的な研究です。よくハードスキルとソフトスキルという整理がなされますが、行動探求が対象としているのはソフトスキルの方ですね。ソフトスキルは座学や研修等で体系的に学ぶことはできず、現場の経験を積んでいくことが重要だと言われたりします。いやいやそれは社会人としての基礎的な能力のことだと言われることもありますが、社会の中で圧倒的な成果を出している人とそうでない人との違いは単純で具体的なスキル(ハードスキル)ではない部分にあるはずだけど、それを社会人としての基礎的な諸能力だけで説明するのはできないだろうし、それらの諸能力にも程度や幅がきっとあるはずだよね…といったことを解き明かしている理論です。適用範囲も応用範囲も非常に広く素晴らしい研究ですが、その分中小度合いは高くなってしまうのでやはり成人発達理論よりも難しく、一人で本を読むだけで学ぶのには限界があるなとも感じました。誰か、対話したりワークしたりしながら学びを共有しましょう。

小説・エッセイ5選

続いて小説・エッセイから5冊をご紹介します。今年もライトノベル、大衆小説、純文学、歴史・時代小説、SF、海外文学に様々なエッセイと幅広く読むことができて実に楽しかったです。そんな中からの5選。今年も悩みながら選びました。

『傲慢と善良』(辻村深月)

大人気作家の辻村深月さん。本作もすでに67万部を超えるベストセラーとなっているようです。婚活や恋愛を主題に、友人や家族との関係についても、現代社会に生きる若者の日常的な人間関係における細かな感覚を、気持ちの良くないものまで含めて突きつけてくるような小説です。少し社会科学的な目線で言い換えれば、選択縁を基本とする自由で孤独な現代社会とそこに生きる私たちの歪さを抽出した作品、といった感じでしょうか。婚活や恋愛、そして友人関係や就職その他多くの選択的もしくは偶然出会ったコミュニティと、家族や地域等の安全なしがらみとの、両方のキツさと安心さと、そしてそれらに規定されざるを得ない自分と、色々なものに向き合わされます。た劣るは作中でも触れられている通りオースティンの『高慢と偏見』のもじりですが、読後の感想としては「傲慢で善良」というか「善良という傲慢」というか、一人の中に同居する傲慢さと善良さの不気味さを考えさせられました。個人的にはどの登場人物にも共感しきれないというかイライラしてしてしまいながら読み進めたのですがそれは人物造形や言動の粗さに対してか誰もが内に抱えるであろう同族嫌悪からなのか、難しいところです。

書評も書いておりますので良ければお読みください。

 

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『2084年のSF』(日本SF作家クラブ編)

日本SF作家クラブ編のSFアンソロジー。2021年4月に『ポストコロナのSF』として出版されたのが第一弾で、本作はそれに続く第二弾です。なお現在は、第三弾となる『AIとSF』も出版されています。いずれもタイトルに冠されているものが「お題」となり、参加するすべての作家が同じお題に対してそれぞれが最大限の想像力でぶん殴ってくる息着く暇もない短編集です。第一弾、第二弾ともに今年読んでどちらも最高に面白かったのですが、より自由な想像力の爆発を感じたのは『2084年のSF』でした。この「2084年」というのは、SF好きの方ならピンとくるかもしれませんが、ジョージ・オーウェルによる『1984年』のちょうど100年後にあたる年です。歴史に残るディストピア小説の100年後の描き方は本当に多様です。『1984年』のオマージュとするかどうかもそれぞれですし、読者としては想像力を刺激されるならどちらでも構わないのですが、それでもやはり『1984年』の二重思考(ダブルシンク)を見事すぎる筆致で表現した『R___R___』はすごすぎてニヤけました。あとは短編だからこその鋭角に表現できる設定というのはわかるんだけど、『男性撤廃』は長編にするか『女性撤廃』との二本立てで楽しんでみたくなりました。現実のディストピア感が増してきて頭がクラクラする最近ですが、新人作家から多方面で活躍する作家まで皆力強く、少なくとも日本SFの未来は明るいと感じられますし、想像する力が自由に広がるなら現実のクソさだって吹き飛ばしていけるはずです。

『ハンチバック』(市川沙央)

市川沙央さんによるデビュー作品であり、2023年5月に文學界新人賞を受賞しています。そして、上記の通り第169回の芥川賞受賞作ともなりました。芥川賞選考会でも大きな話題となっており、各選考委員の選評でもさまざまな視点から称賛を受けた作品です。本作品の主人公は難病を患い、背骨がS字に湾曲してしまう重度の障害を持つ井沢釈華という大学生なのですが、この主人公の持つ症状は著者である市川さんを投影したもので、市川さんご自身が筋疾患先天性ミオパチーという難病を患っており、人工呼吸器や電動車いすを使用して日々の生活を送っています。難病による重度の障害を持つ著者が、自身の姿を投影した人物を主人公として描かれる本作品には障害を持つ当事者だからこその、当たり前に健常者中心に設計されている現代社会に対しての強い視点や言葉遣いが溢れており、多くの人に衝撃を与えています

書評も書いておりますので良ければお読みください。

 

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『82年生まれ、キム・ジヨン』(チョ・ナムジュ)

韓国でベストセラーになったフェミニズム小説です。日本でもけっこう売れていますがもっと読まれてほしい。特に同世代の男性諸氏。主人公の「キム・ジヨン」という名前は1982年の韓国生まれの女性で最も多い名前だということです。日本で言えば1982年の女の子人気名前ランキングの一位は裕子ですので、「82年生まれ、佐藤裕子」というタイトルになるでしょう。本作の舞台にである韓国には日本以上に儒教的慣習の強い特有の事情もあるけれど、女性たちが感じているであろう多くの日常的で社会的な抑圧や感情は日本でも同様でしょう。この小説で描かれる「名もなき男性たち」と自分は違う、という感覚や居心地の悪さを感じる男性も同世代には少なくないと思います(私もそうです)が、そのようなフェミニストやアライの男性としてどうあるべきかをより考えていくためにもまずは読んで自分の感情、感覚のザワザワやギザギザと向き合うことは大切なのだと思います。

『痴人の愛』(谷崎潤一郎)

伯母からもらった古い講談社文庫版で読みました。実は谷崎の長編を読むのは初でした。これまでいくつか読んできた短編やエッセイでもその淫靡な世界は堪能できていましたが、やはり長編だと全体の構成や描写される心情や行動の変化が細かくて素晴らしいですね。倒錯的ではあっても共感や理解ができる描写はやはり天才的。とても約100年前に発表された作品だとは思えないのは、本質的な心情描写のなせる技なのはもちろんですが、なんといっても谷崎は文章が圧倒的に読みやすいからだと感じます。これだけ変態的で狂気的なのにするすると読めるというか、するする読めるからこそ狂気を際立たせることができるというか。すごい作家です。未読作を少しずつ読み進めていきたいと思います。

 

以上、本記事では私が2023年に読んだ本の中から特に面白かった本を15冊ご紹介しました。一冊でも読んでみたいと感じる本があれば嬉しいです。

 

2022年以前の記事

以下は昨年以前の面白かった本紹介記事です。

 

daisuket-book.hatenablog.com

 

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最後までお読みいただきありがとうございました。